第188話 ライラの右目

 早朝の幼女化体操が終わった後、俺はライラの薬草採取に付き合うことにした。


 俺の【探索】スキルを使えば大した手間でもないだろう。


「それで薬草ってどんなのを探してるの?」


 コボルト村の南側の森の中を歩きながら、俺はライラに尋ねた。


「シルバーリーフとエメラルドグラスです。シルバーリーフは体力回復、エメラルドグラスは毒消し効果がある薬草で、色々な実験で使用するので、常にストックが必要なんです」


「了解。シルバーリーフとエメラルドグラスね」


 のんびりとライラと会話をしながら、20分くらい進んだところで小川にぶつかった。


「シンイチさま、この辺でシルバーリーフとエメラルドグラスが見つけられると思います」

 

「わかった。それじゃ薬草探しを始めるとしようか。お昼になったら、ここに戻ってきて昼食を取ろう」


「はい!」


 俺とライラは、それぞれの方向に分かれて薬草探しを始めた。


 俺は【探索】スキルを発動した。これで周囲にある有用な薬草やアイテムがある場合、視界にその名称と数が表示される。


 ぐるりと周囲を見回すと、視界の中に複数の名前が表示された。


 ▼マウンテンベリー(HP回復+2)

 ▼月見草(害獣除け)

 ▼月見草(害獣除け)

 ▼マウンテンベリー(HP回復+2)

 ▼木の棒(攻撃力+5)


 ふむ。この辺りにはシルバーリーフもエメラルドグラスもないな。


 昼食時のデザートとしてマウンテンベリーを採集した後、俺は場所を移して薬草探しを続けた。


「うーん、なかなか見つからないもんだなぁ」


 約二時間ほど歩き回って、見つかったのはシルバーリーフが片手で握れるくらいの束だけだった。エメラルドグラスの方は一本も見つからなかった。


「昼メシの準備もあるし、そろそろ戻るか」

 

 準備と言っても、コボルト村を出る前にイリアズインで購入したイリアズサンドと、ネットスーパーで購入した正午ティーのペットボトルを並べるだけなんだけどな。


 俺が最初に約束した場所へ戻ると、既にライラが戻っていて昼食の準備をしてくれていた。


「ライラ! 先に戻ってたんだ!」


「はい。薬草も十分に採取できましたので、お昼の準備をしておこうと」


「へぇ、そうなんだ。俺の方はこれだけしか見つからなかったよ」


 そう言って俺は手持ちのシルバーリーフをライラに渡した。


「シルバーリーフもエメラルドグラスも、とても希少な薬草なんですよ。それをこの短い時間で見つけることができるなんて、とても凄いことです」


 ライラに褒められて、俺は鼻が5センチくらい伸びかけた……がすぐに折れた。


「ライラ……そ、それは……」


 ライラの後ろには、籠一杯のシルバーリーフとエメラルドグラスが置かれていたのだ。


「ふふ。わたしはちょっとズルしちゃいましたので……」


 そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべるライラ。


 カワイイ。


 超カワイイ。


 よし、エッチしよう。


 そう思った俺は、周囲に人がいないかを確認するため【索敵】スキルを発動する。


 すると、視界のマップの端には黄色マーカーがひとつ表示された。


「えっ!? 誰かいるの!?」


 驚いた俺が黄色マーカーのある方向に顔を向けると、黄色マーカーは素早くマップの外へと消えていった。


 んっ? 俺の反応を見て逃げた? 俺を観察していたのだろうか。


 黄色マーカーだったということは、少なくとも俺に関心を向けていたことは間違いない。


 なんか怖いな。早く村に戻ろう。


「シンイチさま?」


 ライラが俺の顔を見て、心配そうに尋ねてきた。


「あぁ、ごめん。近くに誰かいたみたいだったから気になって……」


「このままずっと南に下ると街道に出ますから、まったく人が来ないということはないのですが、珍しいとは思います」


「取り敢えず戻ろうか。昼食は遅くなるけどコボルト村で食べることにしよう」


「はい」


 俺たちは、手早く片づけをしてコボルト村へと向かった。


 その道中、俺はライラに薬草採取の話を聞いた。どうしてあんなにたくさんの薬草を見つけられたのかを。


「さっきズルって言ってだけど? どういうこと?」


「シンイチさまから頂いた賢者の石の力なのか、薬草を探すときに右目に意識を集中すると、なんとなく生えている場所がわかるんです」


「ほへっ!?」


 俺の【探索】スキルのようなものだろうか。俺は自分のスキルについて、簡単にライラに説明した。


「えっと、薬草の名前やハッキリとした効能は分かりません。なんとなく『これは元気になるもの』とか『これは毒を消すもの』と感じるだけです」

 

 色々と話を聞いていると、ライラの右目が見つけることができるのは、ライラの健康にとって有益な動植物と鉱物だけのようだ。【探索】スキルのようにアイテムまで見つけられるものではないらしい。


 また、毒物のような有害なものに近づいたり、手に触れたりすると、右目の視界が赤くなったり、痛みを感じたりするらしい。


 賢者の石、マジ有能!


 その不思議パワーでこれからもずっとライラを守り続けて欲しい!


「なるほど、ライラがいつも薬草採取に狩り出される理由が、これでようやくわかったよ!」


「シンイチさまは、シルバーリーフを見つけられましたけど、これまで同行した他の研究員はシルバーリーフもエメラルドグラスも一度も採取できてません。なのでやっぱりシンイチさまは凄いです!」


「ふひっ!」


 ライラに褒められたのが嬉しくて、つい変な笑い声になってしまった。


「これからは薬草採取の時は、なるべく俺に声を掛けてね。時間が空いてたら、必ず付き合うからさ」


「はい! ありがとうございます!」


 ライラの喜ぶ顔を見たとき、俺はふとさっきの黄色マーカーのことを思い出した。


 俺が一緒に来れないときも、必ず誰かを誘うようライラには念を押しておく。


 黄色マーカーの件については、ミチノエキ村とコボルト村の警戒に当たっているドラゴンシスターズのミリアに報告しておいた。




ここまでお読みいただきありがとうございました。

よろしければ応援ポチまたはレビューをお願いします。


登場人物に関連する物語もよろしければご覧ください。


ミサイル護衛艦が異世界転移!? しかも艦長が幼女になっちゃいましたけど?

https://kakuyomu.jp/works/16816927862346660239

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る