第185話 ルミナスグレイン

 俺とステファンは、ルルゥとヴェルディさんに試験農場を案内してもらっていた。


「こちら、シンイチさまのお好きな愛媛みかんの木ですよ!」


 色々な成果を見せて貰っている中、いきなりライラが俺の腕を曳いて、小さな木の前に連れてきた。ネットスーパーで購入した商品から栽培したという、みかんの木は未だ俺の膝程の高さしかなかったが、それでも綺麗な緑の葉を持つ苗に育っていた。


「凄いねライラ! これが収穫できたらグレイベアみかんって名付けてここの名産品にしよう!」


 そう言って俺は、ライラを引き寄せてその頬にキスした。


 研究所でのライラは、白衣の下に長袖の白いボタンシャツと黒のタイトスカート姿。これは研究所が制服として支給されているものなので、ルルゥやヴェルディも同じ格好だ。


 加えてライラは、いつも薄い銀縁メガネを掛けている。度は入っていない。ただのファッションだ。


 既に俺はこの衣装を使って「理系女子に嫌な顔をされながらパンツをみせてもらう」プレイをライラにしてもらっている。


 このプレイのとき、ライラは「俺に嫌な顔を向ける」のを嫌がるのだが、それでもなんとか頑張って俺の性癖に付き合ってくれる。


 それが終わった後、ライラが「俺に嫌な顔を向けた」ことを帳消しにしようと、俺にものすっごい甘々な反撃をしてくるのが、まぁ、可愛いのなんのって。


 よし、今日もこれでいこう!


 うむ。そんなことを考えていたら、下半身に性なるエネルギーが注入され始め――


「あっ、あの!」


 クィッ! クィッ! と俺の腕をライラが引っ張る。


「シンイチさま、ルルゥさんとヴェルディさんの成果を見てあげてください」


「あぁ、そうだった。ごめんごめん」


 ライラのナイスフォローで、下半身が荒ぶるのは何とか回避することができたようだ。


 他の面々の顔がホッとしていたような気がするのは、きっと気のせいだろう。


「皇帝様! こちらが私たちの研究成果になります!」


 ホビット族のルルゥが、とことこと小走りで進んだ先には、背丈ほどの草が生い茂っている区画があった。


 ヴェルディさんが、その草について解説をしてくれた。


「この作物の名前はルミナスグレインと言います。これは、皇帝陛下のネットスーパーから頂いたトーモロコシと北方のルミナス草を掛け合わせたものです」


 言われてみると確かにトウモロコシに似ている。ただ、トウモロコシよりも葉が大きく、茎が太く、種子の部分が小さい。


「夏の間、この種子は数週間で育成されるため何度か収穫可能です。トーモロコシより小ぶりにはなりますが、味はトーモロコシとほとんど変わりません」


 ヴェルディの説明を、ルルゥが補足する。


「このルミナスグレインは、ルミナス草と同じく夜間に自然な光を放つ特徴があります。また魔力も少々回復することがわかっています」


「えっ!? 魔力が回復するの? そりゃ凄いね」


 俺はルミナスグレインが夜に光ることよりも、魔力が回復することに驚いた。


 というのもルミナス草が夜に光るのは、俺でも知っていることだからだ。夜の森を歩くと、うすぼんやりと光るルミナス草を見つけるのは難しいことではない。


 夜中にルミナス草が群生している場所に行くと、幻想的な雰囲気を感じることができなくもない。だが引っこ抜くとすぐに光は消えてしまうし、光源としての使い道はあまりない。


 だが魔力の回復は、ルミナス草にはなかった効果だ。トウモロコシとの組み合わせによって何か変化でも生じたのだろうか。


 俺自身は魔力を必要とすることはあまりない。まったくないというわけではないが、【幼女化】スキルは、魔力デポジットというややこしい仕組みで動いている。


 【幼女化】スキル自体は魔力を消費することはない。だがこのスキルは使用する度に、俺の魔力量の何割かをデポジットに割り当てるのだ。


 なのでもし、俺が他のスキルを使って魔力を消費している状態だと、【幼女化】スキルの発動回数が減ったり、発動できなかったりすることがあるかもしれない。


 そういうときには、魔力回復ポーション等の回復手段があると便利ではある。女神クエストなどの狩猟に出掛ける際は、一応、ポーションを持っていくようにはしている。ただ今のところ使ったことはない。


 だって、俺の魔力を消費するスキルって【女体化】と【巨乳化】だけだよ? で、これまでの戦闘において【女体化】と【巨乳化】を使ったことはほとんどない。


 というか、この世界に来てこの二つのスキルを使ったことなんて、ほんと指で数えるくらいしかない。


 ちなみに【索敵】や【探索】は精霊支援サービスのスキルなので魔力消費はない。


 というわけで、俺自身について言えば、魔力回復というのもそれほど興味深いものではない。だが俺以外の魔力を行使する者たちにとっては、魔力回復は大きな助けになるだろう。 


「うまくすれば、これで魔力回復ポーションが作れたりする?」


 俺の問いかけに、ヴェルディは小さく頷いた。


「ポーション向けに成分を抽出するのは、これからの研究次第です。ただルミナスグレインを使った携帯食であれば、魔力回復力が少なくても冒険者には重宝されると思います」


「そりゃいいね。もちろん最優先は俺たちの食糧確保だけど、余裕ができればそれを名産品にしようよ」


「ふふっ。ライラ様のおっしゃる通りでしたね」


 そう言ってニッコリと笑ったルルゥ、俺にクッキーのようなものを差し出してきた。


「こちらルミナスグレインを使って作った携帯食のサンプルになります。ぜひご試食を」


 ヴェルディに言われて、俺とステファンは携帯食を口にする。


「もぐもぐ……おっ、これは!?」


「シンイチ殿が提供してくださるカロリンメイトに似ていますね」


 ステファンの言う通り、ルミナスグレインの携帯食はカロリンメイトにかなり近い食感と味だった。


 これは……売れる!


 食糧確保そっちのけで、そんなことを確信した俺だった。

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