第172話 ネットスーパー商品研究所
最近、ライラが忙しい。
先日のリーコス村との交渉で、ライラが同行しなかったのは、彼女が多忙であったことが理由だった。
なぜライラが忙しいのかというと、それはライラがネットスーパー商品研究所の責任者となったためである。
ネットスーパー商品研究所は、この世界にある素材を使って、ネットスーパーと同等の商品を作ることを目的とした研究所だ。
最初は、ネットスーパーの食材と同じ味を再現しようという試みから始まった。
地下帝国にある食堂の海鮮メニューは、ライラの意見を取り入れて作られたものである。俺を除けば、異世界の食べ物について、その味を最も良く知る者はライラだ。
ネットスーパーの食材に心を奪われた魔族やタクスたちは、ライラの舌を頼りに何度も試行錯誤を繰り返して、あの海鮮メニューを完成させたのである。
その成果が統括責任者会議で報告された際、ネットスーパー商品研究所の設立が決まり、その責任者にライラが任命された。
「ライラ―! おたんこソース持ってきたよー!」
地下帝国の第一階層に設けられた大きな研究所に、俺はライラから頼まれていたおたんこソースを届けに来た。
「シンイチさま! ありがとうございます!」
白衣姿のライラが駆け寄ってきて、俺からおたんこソースを受け取ると、それを棚の中に収めた。棚には、ネットスーパーで購入した様々な調味料がずらっと並べられている。
この部屋には、これまで持ち込んだ食材や各種商品が数多く置かれており、なんとなくコンビニを彷彿とさせるような空間になっていた。
ちなみにライラが白衣姿なのと、度の入っていない銀縁眼鏡をかけているのは、単に俺の趣味によるものである。
「あっ! そうでした」
そう言って、ライラは銀縁メガネの端を人差し指でクィッと持ち上げた。
ライラの銀縁メガネ姿は、俺の性癖ランキングの中でもトップクラスに位置する。
そこへ来てメガネのクィッである。
もうたまらん! ふぉぉぉおおお!
などと考えた瞬間、背後に気配を感じた。
「シンイチ様、ここで発情するのは止めていただいてよろしかったでしょうか?」
振り返ると、赤髪をポニーテイルにしたトルネアが、俺の後ろにいた。
現在ライラの秘書を務めている彼女は、上半身に腰が絞られたOLスーツを着こみ、三角の銀縁メガネを掛けている。もちろん、これも俺の趣味である。
トルネアは、蛇体を伸ばして俺を高見から見下ろしつつ、三角の銀縁メガネをクィッとして、
「ここで発情するのは止めていただけますか?」
と、繰り返し俺に問いかけてきた。
下から見上げると、トルネアの巨乳がより一層映える。さらにラミア特有のヘビのようなスリット瞳孔が俺を見下ろしていて、そこから呼び起される爬虫類としての本能的な恐怖がスパイスとなり、倒錯したエロさを醸し出していた。
「グッジョブ!」
俺は思わずトルネアにサムズアップした。
~ 研究室 ~
この研究所には、現在5つの研究室がある。最も力が入れられているのが食材関連で、第一から第三まで三つの研究室が設置されていた。
総合商品研究室:この異世界で再現できるネットスーパーの商品を調査する。
第一食材研究室:調味料や食材の研究開発。
第二食材研究室:調理方法や料理メニューについての研究。
第三食材研究室:農業や酪農による食材の再現についての研究。
第一素材研究室:食材以外の素材についての研究。
この他にも、研究の成果物を量産するための開発室や、経理部や人事部などの事務所もある。さらに、研究のために必要な素材を大陸各地で集めてくる素材調達部もあって、研究所の規模はかなり大きい。
研究所は、入り口の地下第一階層から下に第五階層まで掘り込まれている。第五階層はドワーフの職人たち専用の階層となっている。特に素材の研究に当たって、彼らと研究所との連絡が緊密に取れるようになっていた。
また素材調達部は、自分たちが直接素材を調達するだけでなく、グレイベア村にちょっとしたギルドのようなものを設置して、冒険者たちにも素材の調達依頼を出していた。
グレイベア村の冒険者といえば魔族ということになるが、人間の冒険者にもミチノエキ村のギルドを通じて依頼を出している。
現在、研究所内で働いているのは80名ほどで、そのうちの半数は研究者である。研究に関連した業務に携わっている者も含めて見れば、実にグレイベア村と地下帝国の住人の約1割が研究所に関わっていることになる。
ネットスーパーの商品再現に、どれだけ皆が情熱を注いでいるかが、この数字に現れていた。
そしてこの組織のトップにいるのがライラである。人口比率で考えてみれば、超大企業の最高責任者に就任したようなものだ。
最初は、ライラが重要なポストに就くのを良いことだと思っていた俺だが、正直、今は後悔しつつある。
超忙しくなったせいで、ライラとの時間が減ってしまったからだ。
だが、この研究がとても重要なものであることは、俺はよく理解している。なんなら、俺が一番分かっていると言っていいかもしれない。
それにライラもこの研究所の仕事に対して、かなりの情熱を注いでいるようだった。
だから今更、俺がライラに仕事を辞めて欲しいと言うことはできない。
もちろん言うつもりもないが、何としてもイチャイチャ時間を確保するための方法は模索し続けている。
ライラの所長室に、秘密の奥部屋を設けたのも、その模索の結果だ。
「トルネラさん! 1時間休憩入るよ!」
「えっ!?」
俺はトルネアさんに声を掛けると、ライラの手を引いて秘密の奥部屋へと入って行った。
それからきっちり一時間後、
お肌ツヤッツヤのライラと、サッパリ顔の俺が出てきたときには、
何だか疲れた様子のトルネアが、深いため息を吐いていた。
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