第173話 グレイベア村妖異対策局
最近、俺が忙しい。
より正確には、俺とルカとグレイちゃんが忙しい。
いや、みんなそれぞれ何かと忙しいんだけどさ。
俺が忙しいとのはグレイベア村妖異対策局の仕事のせいである。
皇帝としての俺は超ヒマなのだが、妖異対策局の局長としての仕事は日を追うごとにどんどん忙しくなっている。
どうして忙しくなっているかと言えば、それは単純な話で、
妖異の出現頻度が増え続けているからだ。
まず女神クエストだが、最近は週一で妖異クエストが発生している。
女神クエストに乗るような妖異は、大型だったり、とにかく凶悪で強力なものであるわけで、これをのんびり放置しておくわけにはいかない。
一応、俺が出張らずとも、一時的に女神から力を付与された『神命勇者』とかいうのがいて、そいつがクリアすることもあるらしい。
ただココロチン情報では、最近は天上界も超多忙なので、神命勇者が現れるまでにどれだけの時間が掛かるか分からないという。
俺に提示される女神クエストは、俺を中心とした一定の距離内に出現する妖異を倒すというものがほとんどだ。
神命勇者とやらの出現を待っているうちに、タヌァカ五村やリーコス村の住人に被害が出てはたまらない。なので、最近は女神クエストが発生したら、なるべくすぐに対応するようになっている。
そして、問題は女神クエストが発生するような妖異だけとは限らない。ただの魔物と区別がつかないような小物の妖異も、最近は増えている。
さらには、セイジュウ神聖帝国か、その勢力側の魔族や人間が、魔物や妖異を率いて王国内で騒動を起こしているという情報も入ってきている。
「先日のクリプティクス・シャドウの足取りを調べたところ、シンイチ殿が女神クエストで討伐された妖異たちと同じく、王国の北西部から東若しくは東南方向に進んでいるように見受けられます。明らかに何者かの意図が存在すると考えるべきでしょう」
地下帝国第一階層にある妖異対策局の一室でステファンが自作の地図を広げて、俺とルカに彼の調査結果を報告していた。
地図には、ここ最近の妖異の出現場所がマークされている。一見するとまばらにも思えるが、言われてみると確かに王国の北西部から東南方向に集中しているように見えなくもない。
「セイジュウ神聖帝国の皇帝が悪魔勇者だと仮定すれば、神聖帝国誕生以降の妖異の急激な増加は完全に腑に落ちます。また神聖帝国がドラン公国を落してしまった場合、次に狙われるのはアシハブア王国です。そのための足掛かり、もしくはドラン公国への救援を妨害のために、妖異を送り込んでいるのかもしれません」
「この間のクリプティクス・シャドウとかいう妖異も、神聖帝国が送り込んできたってこと?」
「自然発生したとか、偶然、そこに現れたと考えるよりは、私たちの安全に利すると思います」
クリプティクス・シャドウの話をしたところで、ふとリーコス村のヴィルフォファング村長の言葉を思い出した。
「そういえば、神聖帝国は黒竜ってドラゴンを配下に入れたって聞いたけど……」
「えっ!? あの黒竜をですか!?」
黒竜と聞いて、ステファンがかなり驚いていた。
「知っているのか、ステファン!」
「大陸の人間なら知らないものはいません! 遥か神話の時代から奴は人類にとって災厄そのものでした。これまで大陸に存在した数多くの国々が、黒竜によって滅ぼされてきたと言われています」
俺はルカに向って、黒竜のことを聞いてみた。
「ドラゴンの中でも黒竜は最強って言われてるらしいけど、そうなのルカちゃん?」
それまで俺たちの話を興味なさげに髪を弄っていたルカが、突然プンプン怒りだした。
「たわけっ! ドラゴンの中で最強と言えば火竜たるこのわらわに決まっておるじゃろうが! 黒竜かなんか知らんが、そんなこわっぱなぞ、わらわらに掛かればワンパンじゃ! ワンパン!」
「ルカちゃんは黒竜に会ったことあるの?」
「ない!」
「会ったこともないのに、なんでワンパンなのさ!」
「わらわがワンパンと言ったら、ワンパンなのじゃ!」
「子供か!」
「子供じゃ!」
うん。
確かに子供だった。
見た目はな。
いや、頭も子供だってことか。
「おい、シンイチ! 何やら無礼なことを考えている顔をしておるぞ」
ルカの口からチロチロと炎が漏れ出している。
「いやいやいや、ルカちゃんが黒竜をワンパンするとき、どんな感じかなーって考えただけだよぉ!」
「本当に?」
そう言ってルカがその手を俺の手に重ねてきた。
「ほんと、ほんと! ってアッチ! 熱っ!」
ルカの手が突然熱くなり、俺は思わず手を引っ込める。
「なななな、なにすんのさ! 熱いだろ! 火傷したらどうすんの!」
「今の返事が嘘くさかったからの、ついやってしもた」
さすがは我が名目上の妻。俺の考えなどお見通しだったか。
「まぁ、わらわは黒竜と会ったこともない。そもそも、わらわは他のドラゴンに会ったことがない。その時点でどのドラゴンであれ最強を名乗るのはおかしなことじゃろうが」
「確かにそうだね」
俺とルカの茶番が落ち着いてきたのを見計らったかのように、ココロチンが新たな女神クエストの発生を告げて来た。
(ココロ:女神クエストが発生しました。妖異の出現場所は、グレイベア村の北西部です!)
「また妖異が出たみたいだよ! グレイベア村妖異対策局出動!」
俺はルカとグレイちゃんを引き連れて、妖異の討伐へ向った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます