第160話 海の男のクジラ漁2
レヴィアたんの巨大な口の中に、俺たちの乗る小舟が吸い込まれていく。このままでは小舟を引いている人魚たちまで呑まれてしまう。
「全員退避だ!」
俺は船を引いていた人魚たちに大声で叫ぶ。
だが、これだけだと「貴方をおいてはいけない!」とか時間ロス茶番が発生しそうだったので、俺はもう一度絶叫した。
「全員退避! 急いでルカちゃんを呼んできてくれ! 早く!」
俺の叫びに、人魚たちは一斉に船を離して泳ぎ始めた。
ゴオォォォォォ!
船がレヴィアたんの口の中に吸い込まれていく。
俺は船の先端から、レヴィアたんの口の外に向って全力でジャンプした。
「シャァァァァァッ!」
だが時すでに遅く、俺は上空に向って傾きつつある、レヴィアたんの口内から逃れることはできなかった。
「はわぁぁぁあ!」
船から飛び出した俺は、レヴィアたんの巨大な牙にぶつかる。
巨大な牙の表面は結構ざらざらして穴も多かったので、俺は何とか手足を掛けて牙にしがみつくことができた。
レヴィアたんの口内は、今や完全に垂直になりつつあり、小舟が遥か下方の暗闇に消えて行くのが見えた。
これは……
さすがに……
終わったな。
身体は必死に牙にしがみついて、一瞬でも長く生きようとしている。
だが理性は、もう俺に助かる見込みはないと伝えていた。
ライラ……。
もっとたくさん話をしたかったな。
もっとたくさんキスをしたかったな。
もっともっとエッチをしたかったな。
後の楽しみにしようと、バニーガールコスを温存しておくんじゃなかった。
ライラのバニーガール姿、超エロいだろうな。
目の前にバニーガール姿のライラが手を差し伸べているイメージが浮かぶ。
あの手を握れば、
きっと柔らかくて、優しくて、
温かいのだろう。
幻想のライラに手を触れようと、俺は手を伸ばした。
だが届かない。
もう届かない。
だってライラは陸にいる。
今の俺からは遥かに遠い場所にいる。
だから届かない。
俺は死を覚悟し……。
ん?
届かない?
届かないの?
届かなかったんじゃないの!?
届かなかっただけじゃないの?
「はわぁぁぁぁぁぁ!」
俺は今の際になってようやく大事なことに気が付いた。
自分のバカさ加減に、俺は自分の頭を殴りたくなった。
「さっきの【幼女化ビーム】、届いてねー--っ!」
俺の【幼女化】スキルレベルは現在7。【幼女化ビーム】の射程距離は、直進15メートル。
そして、先ほどの俺は、索敵マップを確認した瞬間に【幼女化ビーム】を連発していた。
索敵マップの探知半径は30メートル。
つまり、あまりにも巨大なレヴィアたんにビビッた俺は、射程外から【幼女化ビーム】を連発していたのだ。
このぉぉぉぉぉぉぉぉ!
俺ってば、ホントあわてんぼうさん!
(リキャストタイムが経過しました。魔力デポジットがリセットされました)
脳内にココロチンのアナウンスが響く。
(よっしゃ! ナイスなタイミング!)
(ココロ:ふぅ。ようやく気付きましたか)
(シリル:ココロもあの魔物に【幼女化ビーム】が効かないって焦ってた)
(どっちでもいいよ! いくぞ必殺のぉぉ)
【幼女化ビーム】を放つために手を放そうとして、ふと俺は大事な事を思い出した。
「そういえば、わざわざビームを出すことなかった」
【幼女化】はビームである必要はない。対象に触れているだけで発動することができるのだ。
俺はスゥっと息を吸い込んで
「【幼女化ぁぁぁぁ】」
喉が張り裂けんばかりの大声で叫んだ。
ボンッ!
聞きなれたいつもの音が響く。
だが、今回はいつもと違って――
「はわぁぁぁぁああ!」
激しい爆風に吹き飛ばされて、俺の身体が空高く待っていた。
あぁ……。
あのいつもの「ボンッ」っていうやつ。
【幼女化】する際に、対象以外の異物を吹き飛ばすためのものだったんだなぁ。
……と、俺はそんなことを考えていた。
視界の端で、幼女が海に落ちていくのが見えた。
次の瞬間、
ボンッ!
と音がして、再び巨大なレヴィアたんが海上に姿を現し、
ドボンッ!
と音を立てて、俺の身体が海へ落ちた。
~ 人魚村海岸 ~
海に落ちた俺は、すぐに人魚たちによって助けられた。
腹を上に向けて浮いているレヴィアたんを、海岸に運ぶのはかなりの難事で、結局、人魚村の人魚総出で引っ張っていくことになった。
途中、サメのような魔物がレヴィアたんの死体に群がってくるのを、俺が【幼女化ビーム】で都度撃退。
レヴィアたんが人魚村の湾内に運ばれ、俺の役目が終わる頃には、完全に真夜中になっていた。
「シンイチさま!」
重い体を引き摺るように海岸に上がってきた俺を、駆け寄ってきたライラが綺麗なタオルで包み、その上から優しく抱きしめてくれた。
「身体がこんなに冷たくなってる!」
ライラの頬が、俺の頬に触れる。
身体は凄く疲れていたけど、俺はもう天国に居た。
「よいしょっ!」
ライラが俺をお姫様抱っこして、そのまま焚火の前に運んでくれた。
ちょっと恥ずかしいけど、まぁ、海の男の意地を張ろうにも、もう海の男は終了してるし、ともかく疲れているので、ライラに身を委ねることにした。
「シンイチさま、トン汁をどうぞ!」
焚火にあたっていると、ライラが震える俺の手にトン汁を持たせてくれた。
これは、この異世界のなんちゃってトン汁ではない。予めネットスーパーで具材を注文しておいたのを、ライラが丁寧に作ってくれたものだ。
ズズッ……。
温もりが全身に広がって行く。
ほわぁぁぁぁ! 生き返るぅぅ。
三杯目をお代わりするころには、俺の体温と体力は完全に回復していた。
俺は食べている間、ずっと背中から抱き締めてくれているライラの手を握りながら言った。
「ライラ……ただいま」
「おかえりなさいませ、シンイチさま」
ライラの手の温もりを感じながら、俺は心に固く誓った。
一刻も早くグレイベア村に帰って、
ライラにバニーガールの衣装を着せる!
バニーガールなライラを膝に載せて、
あれやこれやも、あれもこれも、
とにかく全部する!
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