第161話 レヴィアたんの燻製肉
レヴィアたんの討伐によって、グレイベア村と地下帝国の食糧危機はとりあえず半年先まで引き延ばすことができた。
その可食部の殆どは干し肉に加工されている。加工に当たってはグレイベア村と地下帝国からも人手ならぬ魔族手を引っ張り出して協力してもらっている。
加工の主な作業場所は、地下帝国から人魚村に敷かれたトロッコ線の出口だ。出口には小屋が建てられ、その煙突からは常に煙が立ち昇っていた。
小屋の前には、近くに流れる小川から引いて来た小さな水路が何本もあり、その中に人魚たちが並んでいる。
人魚たちは上半身を陸に出し、肉を洗ったり、切り分けたりと忙しく作業を続けていた。
その肉を、コボルトやゴブリンたちがせっせと小屋の中へと運んでいく。
扉が開かれても、建物のずっと奥にあるトロッコ発着場を見ることはできない。なので、知らない者がここを見ても、肉を加工するための作業場にしか見えないだろう。
この建物の奥、トロッコ発着場の少し手前に掘られた大きな地下空間では、ルカが小さなファイアブレスを吐いて肉の乾燥とスモーク作業に勤しんでいた。
一応、煙が建物の煙突に向うよう穴を空けてはいるが、その流れをスムーズにするために、風の精霊ウィンドルフィンが空気の流れを誘導している。
彼にはスモークが肉に均等に行き渡らせる役割も担っていた。
もちろん、ルカが自主的にこの作業に名乗りを上げたわけではない。
「ほら、これが桜チップで作ったスモークレヴィアたんの乾燥肉だよ。食べてみて」
以前ネットスーパー3Fで開催されていた「夏のキャンプセール」で購入した、燻製器とウッドチップを使って、人魚たちが加工した干し肉をスモークレヴィアたんにしてルカに食べさせてみた。
「!?」※ルカ
「うっ!?」※グレイちゃん
ルカは一口食べて、そのまま固まった。いつの間にかルカの隣に並んでいたグレイちゃんが、ルカの干し肉の反対側に噛り付いて、固まっていた。
「「ふおぉぉぉ!」」
次の瞬間、二人同時に干し肉をカジカジしてポッキーゲームを始めた。一瞬にして二人はチュー状態になって、お互いの口をペロペロする。
「なんじゃ! この美味さは! ただの干し肉のときと全然違うのじゃ!」
「うーっ! うっ! うーっ!」
「でしょ? こうして燻製にすると、香りが豊かになるだけでなく、肉の旨味が凝縮されて、より美味しくなるんだよ」
「そうなのか!? なら全部! ここの干し肉を全部燻製にするのじゃ!」
「うーん。そうしたいけど、ルカちゃんの願いを叶えるには、燻製する場所が必要になるね」
あっと言う間にラーナリアンデスワームが、地下に巨大な空間を掘り上げた。
「それにスモークチップが足りないかなぁ。ネットスーパーで買える量には限りがるからね。この世界の木でスモークに適した気を探すしかないかも」
たちまちグレイベア村と地下帝国から、スモークチップを探すための魔族が編成された。エルフ族は食べ物を燻製することがあるらしく、チップに適した木を知っていた。
結果、ネフューネ村から出向中のシルフェンがリーダーとなって、スモークチップの木探し隊がマーカス領内を駆け回ることとなった。
「それにこれだけの肉を乾燥させたり、スモークさせるとなると、火力がねぇ」
この時点になると、俺もわざとルカを挑発する発言をしていたのだが、ルカはこれにも乗ってきた。
「では、わらわが手伝ってやる!」
「うーっ! グレイも手伝う! うーっ!」
こうして、レヴィアたんのスモーク乾燥肉の製造のために、魔族最強のドラゴンの火力と、巨大な膂力を持つグレイベアの腕力が使えるようになった。
~ 海上交易 ~
乾燥肉がいくら日持ちするとはいえ、さすがに半年は無理だ。というわけで、完成した干し肉の大半は、海上交易で穀物や野菜、調味料と交換されていった。
人魚村は、王国から暗黙にその存在を認められている魔族の村のひとつだ。海産物を税として王国に納める代わりに、この海域の保護を約束している。
海上交易も認められているものの、普段は日常の生活に必要なものを交換する程度でしかない。
だが、今回は二十年振りに大怪魚レヴィアたんが獲れたということで、王国から大勢の商人がその肉や素材を求めて、人魚村に押し寄せてきた。
「レヴィアたんのおかげで、人魚村もウハウハですなぁ~」
沖に停泊する商船と人魚村の間を忙しく往復する小舟を見て、俺は足元の水路にいるアリエラさんに、そんな言葉を投げかけた。
「コホンッ! 二十年振りの大取引ですからね。それに儲かるのはグレイベア村も一緒ですよ。あと、レヴィアたんじゃなくレヴィアサンです」
務めて冷静を装って答えるアリエラさん。だがアリエラさんの顔が一瞬、ニヘラッとなったのを俺は見逃さなかったぜ。
~ 食糧問題対策会議 ~
「お役に立てず、申し訳ございません」
地下帝国の会議室で開かれた「食糧問題対策会議」で、冒頭一番、ステファンが頭を下げた。
どうやらミチノエキ村での食糧調達は、難しいということらしい。その理由というのが……
「王都から徴税官たちが来ておりまして、現在、ミチノエキ村の物流だけでなく、個々の商取引まで、彼らの監視の目が向けられている状況です」
「それじゃ、派手な取引はできないね。仕方ないよ」
俺は、かつてネフューネ村でみた地方の徴税官たちを思い浮かべながら、深いため息を吐いた。
奴らときたら、その横柄で権力を振りかざす態度以上に、徴税のネタを探す眼力が凄まじい。魔法のスキル持ちじゃないかと思う程だった。
それが王都直属の徴税官ともなれば、その能力はさらに高いはずだ。ここは大人しくしておくのが吉だろう。
となると――
「あとは、白狼族たちとの交渉が成功するのを祈るだけだな」
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