第143話 エルフのお茶処

 俺とライラとは、ミチノエキ村への出入りを自粛することになったので、村の様子については統括責任者であるステファンからの報告を受けて知ることが多い。


 ミリアが暗殺者ギルドの招致に成功して以降、ミチノエキ村にどのような変化が生じたのか気になるところだ。だがステファンが見る限りにおいては、表立って変ったところはないとのことだった。


「唯一変わったと言えば『エルフのお茶処』というエルフのメイド喫茶が出来たことでしょうか」


「何それ行きたい! でも行けない!」


「ミリア殿が店長を務めている、表側はどうみても普通のお茶処です」


 な、なるほど……ドラゴンシスターズのフロント企業ならぬフロント茶処だったか。


 となると従業員のエルフメイドも、ドラゴンシスターズの構成員ということか。


 ちょっと怖いかも……いや、俺たちにとっては頼もしい存在ではあるんだけど。


「タクス殿のアイデアでメイドの衣装にゼッタイリョーイキ?というのを取り入れたことで人気が出たらしく、現在ではバークの街から数日かけて訪れる人までいるようです」


「何それ! 超行ってみたい! ……ぐぬぬ、だけど行けないぃぃぃ! ぐぬぬ! ぐぬぬ! ぐぬぬぅ!」


 無意識のうちに、俺はめっちゃ歯ぎしりしていた。


「ステファン! お願いがある!」


 俺の勢いに呑まれたステファンが思わず気を付けの姿勢を取る。


「は、はい! なんでしょうか!?」


 緊張からかステファンの額に汗が滲み始めていた。


「エルフのお茶処の制服を一着用意してもらいたい!」


「えっ!? はっ!? あっ? あ~~!」


 俺の凄まじい勢いで放たれた要求を受けて、ステファンはパニックに……はなることもなく、逆にホッとした顔つきになった。


「あっ、そのことですか! それでしたら恐らくシンイチ殿から要望が出るはずだからとミリア殿から一式持たされております。あと一応、ルカ殿とグレイ殿の分もございます」


 さすがミリア! 超有能な出来るダークエルフ!


「あっ、それなら、今度ミリアさんが帰ってくるとき……」


「駄目です」


「はわ!?」


「ミリア殿によると、おそらくシンイチ殿は、ミリア殿のメイド服姿を要望されるだろうからお断りしておいてくれと言われております」


 ミリア……超先読みが出来るダークエルフだった。




~ ミチノエキ村 ~


 ステファンから改めてミチノエキ村の状況について話を聞いた。


 ミチノエキ村は住人のほとんどが人間で、亜人は少数派だ。獣人や魔族に到っては、奴隷商が宿泊したときに見かける、鎖で繋がれている奴隷しか見ることはない。


 村の北には、街道へ抜ける街道がある。しかしここを通と、街道まで遠回りになる上、道の状態も悪く、魔物が出る森も近い。しかも民家の裏庭を通らなければならず、普通の人なら誰もが通ろうと思わない。


 これがコボルト村へと続く道であることを知るのは、村の中でも極一部の者に限られている。


「ミリア殿の言われた通り、ここに民家を立てたのは正解でした。現在はエルフのお茶処のスタッフ寮として使っています。これで裏道を通ろうとする人を自然に監視することもできるようになりました」


 ミチノエキ村に出入りする人のほとんどは、王国の街道を通ってくる人たちだ。ここから最も近いバーグの街から来る人が最も多いけど、最近は王都ハルバラルトから来る人や、北方のドラン公国から王都を目指す商隊が宿泊・補給地として利用するようになってきている。


 ちょっとした交易の要所になりつつあるミチノエキ村だった。




~ コボルト村 ~


 ステファンの次ぎは、ロコにコボルト村の状況について話を聞いた。


 大陸共通語が苦手なロコの希望で、秘書としてイリアくんが一緒に来ている。


 なぜだろう。なんだかうらやましい。


 そしてなぜだろう。イリアくんは、綺麗な銀髪をポニーテイルにまとめ上げて、真っ白なうなじを晒している。銀縁眼鏡を掛けているのは、きっと秘書のコスプレだな。いやコスプレじゃなく秘書だけど。


 だがなぜだろう。なぜメイド服なんだ? いや、それはいつものことか。だがどうして眩しいくらいに白い絶対領域を完成させているんだ? どうしていつもそんなに可愛いんだ?


 ジィィィっとイリアくんの絶対領域に意識をダイブインしていると、白いふとももがもじもじと内側へ動き始めた。


「こ、これ……ミリアさんのお店の制服なんだよ」


 そういって俺を上目遣いに身ながら頬を染めるイリアくんは、めちゃくちゃ美少女だった。


「ど、どうかな……」


 そう言ってイリアくんはスカートの裾をつまんで、少し引き上げた。


 絶対領域の幅が広がり、さらにその上の夢のY字空間が見えそうになる。


 ゴクリ。


「シ、シンイチ、イリアにハツジョウ? ロコ、少し出て行く? ホウがヨイ?」


 ハッ!?


「あっ、いや、どうして? 発情なんてしてないよ? まさか俺が? そんなわけないじゃん! アハハー」


 そう言って、俺が乾いた笑い声を上げると、イリアくんの表情がシュンと哀し気なものに変わった。


「あっ! いや、そのイリアくんは魅力的だよ! メイド服凄く似合ってるし、イリアーズ絶対領域サイコー! ハスハスしてみたいなー! だけどほら、今はお仕事、お仕事中だから発情なんてしてない、しちゃだめじゃない? 駄目だよね! だから発情するのは我慢! そう我慢してるの!」


「そ、そうなんだ……」


 イリアくんの顔に笑顔が戻ったので、俺はホッと一安心する。


「あの、シンイチくん……その、ライラさんがお疲れの時とか、妊娠されている間は、ぼ、ぼくが代わりに……その……いいからね? 前みたいに」


「えっ!? いやいや、あははは、ま、まぁ、うん、その……あはは」


 何と答えるべきか分からず、結局、曖昧にして誤魔化してしまったが、少し引っ掛かる言葉がイリアくんの口から出ていたような。

 

 前みたいに?


 前ってなんだろう? えっ!? 何かあったっけ!? 何もないよね?


 何もない! うん、何もないはず! 何もないんだってば!


 俺が知らないところで、俺とイリアくんに一体何があったのか考えていると、頭がフットーしそうになってきたので、俺はそれ以上考えることを止めた。


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