第141話 激昂! ハーレム論争!

 ミチノエキ村に暗殺者ギルドを設置して、星の智慧派のアサシンを牽制しようというミリアの腹案は、一度持ち帰りとなったが、そのすぐ後、タヌァカ五村の統括責任者会議で、ミリアの提案の採用が決まった。


 グレイベア村から最も遠方のネフューネ村については、窓口としてグレイベア村に滞在しているシルフェンの意見を聞いた上で、ネフューには事後承諾を得るという形での決定となった。


 暗殺者ギルドを招致する前段階として、ミリアが地下帝国から仲間を募って、クラン「ドラゴンシスターズ」を結成。そのクランを通じて、ミチノエキ村に暗殺者ギルドを招致することになった。


 ミリアやフォーシアを始めとする構成員たちは、その業界で、かなり勇名を持つ猛者たちばかりだったらしい。出来たばかりのクランではあったものの、ミリアたちに向けられる畏怖と、俺たちの……正確にはルカのゴールドの力で、あっさりと暗殺者ギルドを招致することができた。


「ちなみにの、ドラゴンシスターズの構成員は全員が女じゃ」


 暗殺ギルド招致成功の報告を、竜華の間で聞いていた俺に、ルカが横から話しかけて来た。


「そりゃ、まぁ、シスターズっていうくらいだから、まぁ、そうなんだろうね」


 俺がその場にいる、ミリアやフォーシアに目を向けると、彼女たちもコクコクと頷く。


「それでの、クランのトップはミリアということになっておるが、その上に君臨する影の首領がシンイチということになっておる!」


 ルカが「ほれ、嬉しいじゃろ? 喜べ、喜んでわらわの采配を称えよ」と目で訴えて来たが、俺としてはそんなの迷惑千万でしかない。


「はぁ? 俺が何で?」


 暗殺者のトップなんて嫌すぎる! そんな裏稼業に関わったら、俺なんて一瞬でくっころだよ!


「そんな過酷な世界、俺なんて一瞬でくっころだよ!」


 その場にいるものたちには、くっころは通じなかったようだが、俺が困惑していることだけは伝わったようだ。


「どうしてって、お主、よく考えてみろ!」


 ……。


 ……。


 ……。


「うん。よく考えてみたけど、やっぱり俺が死ぬ未来しか見えない」


「いや、あくまでも名目だけの話じゃし、そして、そういうことではなくてじゃな」


「ルカちゃんってなんか名目が好きだよね。俺も名目上の夫だし」


「ええい、話を拡げるな! よく考えてみよ、女だらけのアサシン集団で、お前ひとりが男なのじゃぞ!」


「……なんか背筋が凍る感じがする」


「なんでじゃ! 大勢の人間の雌の中に雄が一匹! これはシンイチがいつも欲しい欲しい欲しいと駄々をこねて、いつも床に転がって手足をバタバタさせながら、欲しい欲しい欲しいといつもせがんでいるハーレムであろうが!」


「そんなに!? 俺そんなにハーレム欲しいって言ってる?」


 まずライラがこくんと頷いた。


 それを合図に……


「いってるじゃろうが!」とルカ。


「うーっ、うーっ、ううー!」と障子が開いてグレイちゃんは「いつもいつも言ってるよ」と言った後、再び障子を閉めて去って行った。


「シンイチ様とは地下帝国に来てからのお仕えとなりますが、既に何回もおっしゃっているところを拝見しております」とミリア。


「私はシンイチ様と拝見する機会は多くありませんが、地底湖に向ってハーレムが欲しいと叫んでらっしゃるところを何度か……」とフォーシア。


「私はこれまでシンイチ殿と旅をすることが多かったが、シンイチ殿が焚火の番をしているときに、ハーレムという言葉を繰り返しているのをよく見かけますね」とフワデラさん。


「ふふふ」とシュモネー。


 おっふ。


 致命的な目撃例もあったように思うが、それ以外は恐らく支援精霊と話しているところを見られてしまったのだろう。

 

 ついつい熱くなると脳内会話が口に出ちゃうことがあるからな。


 それにしても、ここまで皆に俺のハーレム願望が知れ渡っていたとは……。


 ドラゴンシスターズの件も、ルカちゃんが気を使ってくれ……


「それは俺の欲しいハーレムじゃなー--い!」

 

 やばい。声が出てしまった。


 どうもハーレムの話題は、俺自身にとっての地雷だったようだ。


 俺はプチ切れてしまった。


 ルカに切れたのではない、俺を欺いたキモヲタ天使に対してである。


 欺かれたことに気が付いたのは、たしかコボルト村が出来たばかりの頃だったと思う。


 これまで俺は、マーカスやヴィルのハーレムを見せつけられてきた。決して良いものとは思えないけれど、かつてのステファンやシャトランのハーレムだってそうだ。


 だが、きっと明日には俺にもハーレムが来る。明日はきっと今日より良いハーレムが来るって信じて耐え凌いできた。

 

 ドンッ!


 テーブルを叩いたとき、俺は自分が思っていたことを口に出していることに気が付いた。


 正直、皆の目がドン引きしている。


 もう後には引けない!


 俺は腕を横に振り払って叫んでいた。


「しかも、何度も繰り返して申し訳ないが、マーカスやヴィルが、ハーレムメンバーと乳繰り合っている中! 俺は幼女たちの子守をしていたんだぞ! 一緒に遊んで、食事の世話をして、昼寝させて、夜中に起きたらトイレに連れて行って! そんなことを繰り返してきたんだぞ!」


「そ、それは一種のハーレムと言えるのでは……」


 俺を宥められるとか思っているのであろう、ミリアがそっと声を掛けてきた。


「それ! そういうの! そういう言葉遊びは止めて欲しいんだよね!」


 コホンッと咳払いしてから、俺は静かに語り始める。


「ハーレムってのはね、(俺以外の男に)誰にもじゃまされず、自由でなんというか、(主に俺が)救われてんなきゃ駄目なんだ。俺一人が好き勝手にメンバーの豊かな乳を揉んで……」


「シンイチ! 何かカッコ付けようとしているのは分かるが、言ってることは本音が駄々洩れで最低じゃぞ!」


 ハァッ!?


 俺の頭で何かが切れる音がした。

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