第138話 シャトラン・ヴァルキリーの終焉
王都から戻った俺たちは、幼女となったシャトラン・ハーネスを地下帝国の幼女強制収容所へと送り込んだ。
彼より先に収容所に入ったレオン・グラントは、意識状態をそのままにして幼女化している。これはレオンから情報を引き出すために必要な処置だったのだが、何度も繰り返すうちに、精神的に不安定な状態に陥ってしまった。
さすがに可哀そうになってきたのと、もう情報を引き出す必要もなくなったので、シャトランと一緒に【幼女化】(意識も幼女化、継続期間3年)することにした。
収容所と物騒な名前を付けているが、その実態は幼稚園である。みんなでお遊戯したり、お昼寝したり、おやつを食べたり、お絵描きしたり、それはまぁ、普通の幼稚園である。
ここには俺が幼女化したのではない、本物の子供もいる。より正確に言えば幼稚園というよりも孤児院だ。
ちなみに作物の収穫等を手伝わせている幼女は、俺に【幼女化】(意識継続)された連中だ。グレイベア村や地下帝国の住人で、問題行動を起こした者などがお仕置きとして、俺に【幼女化】されてた上でここに連れてこられている。
彼らにとっては、幼女になって作業させられる強制収容所であるには違いない。だがそれ以外の完全な幼女にとっては、それほど悪い環境ではないはずだ。
俺は、シャトランとレオンを完全な幼女にしてから、彼らを収容所に送り込んだ。
シャトランから聞きたいことなんて何もないからな。
二人の身の処遇については、とりえず三年後に先延ばしすることにした。
俺がシャトランと一緒に幼女化した護衛の女冒険者たちについては、ミリアがシャトラン・ヴァルキリー本部にいた大柄の騎士に引き渡している。おそらく、彼女たちは王都の孤児院に送られるのだろう。
ミリアの報告によると、彼女たちは親衛隊と呼ばれているシャトランの護衛騎士であり、シャトランの裏の顔を知った上で、彼に付き従っていた連中だ。
裏の顔というのは「星の智慧派」との繫がりだ。
シャトランは、人間を邪神の生贄に捧げる星の智慧派と裏で結び、彼らに生贄となるものを提供し続けていた。それは彼のクランに憧れて入団した女冒険者や、クエスト先で死んだことにされた犠牲者たちだ。
そしてシャトランの親衛隊である女護衛騎士たちは、その片棒を担いでいたのだ。犠牲になった人々からすれば、彼女たちを引き裂いてもまだ飽き足らないだろう。
だがそれは俺が手を下すことではない。
なので彼女たちについては放置することにした。
まぁ、三年経ったら元に戻れるさ。
そしてドラゴンが去った後に行方不明となった人々、シャトラン・ハーネスと護衛騎士、そのとき一緒にいた男女二人は、ドラゴンに襲われて食べられてしまった。
という話になっている。
最後に彼らの姿を見たのは、当時、クラン本部で警備任務についていた大柄な騎士スレイン。
だが混乱のせいか、その記憶は非常に曖昧なもので、結局のところ、彼が女神ラーナリアに誓って言えるのは、ドラゴンが現れた直後にシャトランたちがいなくなったということだけだった。
結果、王都の人々は、シャトランとその護衛騎士たちはドラゴンに食べられたのだと納得することにした。
その後、シャトラン・ヴァルキリーはあっという間に崩壊したらしい。
ドラゴンの騒動に紛れてクラン本部に忍び込んだミリアたちは、秘密の書庫から機密資料を持ち出し、それをシャトランに敵対するクランや貴族たちにバラまいた。
その資料から暴き出された悍ましい事実の数々は、アシハブア王国最大の醜聞「シャトラン事変」として歴史に刻まれることとなる。
その責めは、行方不明となったシャトランだけに留まらず、ハーネス伯爵家やシャトランと付き合いのある貴族たちにも及んだ。
事件の全容が明らかとなった後、王の勅命によりハーネス伯爵は貴族の身分を奪われ、ハーネス家は断絶する。
ただこれだけの大きな事件が発覚し、その全容が明らかになったにも関わらず、星の智慧派については何も分からないままだった。
事件に星の智慧派が関わっていたことが判明しただけで、具体的な人物や関係者が拘束されたり、表に出てくるようなことは一切なかった。
ただ、事件関連で星の智慧派と繫がりを持っていると思われた人物の何人かが、不審死を遂げている。
その後、シャトラン・ヴァルキリーへの関心は徐々に人々の心から薄れて行った。
だがドラゴンへの恐怖は消えずに残り続けた。
王都ハルバラルトの人々がドラゴンを恐れ続けるのは、それほど遠くない昔、ドラゴンによって滅んだ国の記憶が残っているからだ。
その国は王都でドラゴンを迎え撃ち、多大な犠牲を払って撃退したものの、国力が大いに削がれた結果、隣国に併呑されてしまった。
王都ハルバラルトに現れたドラゴンは、アシハブア王国全体に不安の種を撒くこととなった。
ミリアの報告書を読み終えた俺は、目の前にいるドラゴン幼女に目を向ける。
「さすがはルカちゃん! ちょっと空をくるくる回っただけで、国全体が大騒ぎだよ! まさかこんなことになろうとは! ルカちゃんってば凄いドラゴン! よっ! 凄ドラ!」
「ふはははははは!」
腰に手を当てて上体を思い切り逸らせながら笑うドラゴン幼女の鼻は、天を衝くほど長く伸びていた。
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