第137話 王都の災厄 ~ ドラゴン騒乱 ~
食事を終えた6人の幼女がお昼寝に入った後、直ちに俺たちは子供たちを馬車に乗せて、グレイベア村へ向った。
その日のうちに、彼女たちを幼女強制収容所に預けた後、ルカやステファンたちを集めて緊急会議を開く。
会議の冒頭で、俺は先に結論を述べた。
「直ぐに王都に行って、シャトランの
「「「ええぇ!?」」」
皆が驚くのは無理もない。
だが、現在王都にいるダークエルフのミリアたちがシャトランを見張っていることと、取り逃がした灰色ローブのアサシンが王都に戻る前こそ、シャトランを仕留めるのに最適なタイミングだと俺が説明すると、皆納得してくれた。
俺たちは、その場で作戦を立てて、そして二時間後にはグレイベア村を出発した。
王都に向かうメンバーは、俺とライラとフワデラさん、そしてルカだった。
王都から北西にある森の中に着いたのは、そこから三時間後。
そろそろ夜が明けようという時だった。ここから王都まで徒歩で向う。
「さすがはドラゴン! 馬車なら一週間は掛かる距離をあっという間だったね! ルカちゃん凄い! エライ! カッコイイ!」
「そうじゃろそうじゃろ! 馬と違って山や谷を迂回せずに直進できるからの! もっとわらわを褒めたたえるがよいわ!」
いつもの幼女姿に戻ったルカは、フワデラさんに肩車されていた。
王都へ入る直前、ミリアの仲間のダークエルフ、フォーシアと合流。ルカとフワデラさんが、彼女から灰色のローブを受け取って変装する。
ちなみにフォーシアは長い耳をバンドを使って隠しているので、一見すると普通の人間にしか見えない。
「現在、シャトランはハーネス家の屋敷におります。我々はクラン本部に向い、そこでシャトランの到着を待ちます」
フォーシアが用意した荷馬車に乗って、そのまま王都に入り、俺たちは一路、シャトラン・ヴァルキリー本部へと向かった。
本部に到着すると、灰色ローブ姿のミリアが俺たちの荷馬車に乗り込んできた。
王都に着いた時点で、風精霊ウィンドルフィンに俺たちの作戦をミリアに伝えてもらっている。
「シンイチさま、失礼いたします」
そう断ってから、ミリアは俺の両腕をロープで縛り上げた。もちろん嘘縛りだ。後ろ手に握らされたロープの先端を下に引くと、簡単に解くことができる。
「それじゃ、ルカちゃん、ちょっと行ってくるね」
「おう! 派手にぶちかましてやろうぞ!」
ルカとフォーシアを馬車に残して、俺たちはシャトラン・ヴァルキリー本部へと向った。
~ シャトラン・ヴァルキリー受付 ~
まだ朝が早いせいか、受付にいたのは女性が一人きりだった。
女性は、最初、俺たちの姿を見て怪訝な顔をしていたが、灰色ローブのミリアとフワデラさんの姿を認めると、途端に表情が硬直する。
「は、灰色様!? しょ、少々お待ちください!」
受付嬢は、大慌てで奥の部屋へと駆け込み、そして大柄の男性を連れて戻ってきた。
「スレイン様! こちらです!」
「はぁ……こんな時間に何……だ!? は、灰色!? 何故こんな時間に? 何故ここに? 連れているそいつら誰だ!?」
大柄の騎士も、灰色ローブ姿の二人を見た途端に、大慌てになっていた。
ミリアが低い声で騎士に答える。
「シャトラン様の密命だ。この女を連れてくるようにとのことだ。この男については殺すように言われたが、捉えることができたのでシャトラン様の判断を仰ぎたい。急ぎ取り次いでくれ」
「ふむ……では、女とその男を預かろう。シャトラン様には後で伝えて……」
騎士に最後まで言わせず、フワデラさんが威圧を込めた怒声を放った。
「二人はシャトラン様に直接引き渡す! こいつらのせいで俺の仲間が殺されている。直ちに報復に向わねばならん、俺たちは急いでいるんだ!」
「わっ、わかった! いまシャトラン様を呼んでくる! しばし、しばしここで待たれよ!」
そして、待たされること20分。
複数の足音がクラン本部に近づく音が聞こえたかと思うと、入り口の扉がドンっと音を立てて開かれた。
続いてシャトランと護衛の女騎士の一団が入ってきた。全員が本部の中に入り終えると、女騎士たちは扉を締めてかんぬきを降ろす。
リーダー格らしき女性騎士が顎で合図すると、大柄な男性騎士は受付嬢の手を引いて奥の部屋へと消えて行った。
自分と女性騎士団、そして俺たち以外に誰もいなくなったことを確認すると、シャトランはライラの目の前に駆け寄ってきた。
そしてライラの全身を舐めまわすかのように視線を走らせる。
「よくやった! アサシン!」
シャトランの声は、興奮で少し上ずっていた。そしてライラから目を離すと、今度はその目が俺に向けられる。
「しかも、この男を生かしたままで連れてくるとは! さすがとしか言いようがない!」
俺の目を覗くシャトランの顔が、醜く歪む。
口に出さなくてもわかる。
俺を、どのように苦しめてなぶり殺すか考えているのだろう。
「嬲り殺してやる」
おっと、どうやら俺にはテレパスの才能があるようだ。
「そいつは楽しみだ……そりゃ!」
そりゃ!との掛け声を聞いた、ライラとミリアとフワデラさんが一斉に床に伏せる。
「【幼女化ビーム!】」
ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!……
受付ロビーがたちまち幼稚園と化した。
俺はシャトランだった幼女を抱き上げて叫ぶ。
「逃げよう!」
フワデラさんがかんぬきを上げて扉を開けると、俺は急いで馬車に乗り込んだ。
入れ替わりに、フォーシアさんが本部の中へと駆け込んで行く。
「ドラゴンだぁぁぁぁ! ドラゴンが出たぁぁぁ!」
絶叫しながら走って行くフォーシアの背中を見送りながら、俺はルカに声を掛けた。
「ルカちゃん、頼んだ!」
「任された!」
馬車から降りたルカが、馬車を降りてトコトコと本部の前に向かっていく。
トコトコトコ……バフンッ!
ルカの全身が激しい青光と白い煙で覆われたかと思うと、
次の瞬間には巨大なドラゴンが本部前の広場に現れた。
バサッ! バサッ!
「グォォォォォォォ!」
ドラゴンは、大きな咆哮を上げるとそのまま空へと飛び上がる。
「ドラゴンだ!」
「ドラゴンが出たぁぁ!」
「急いで逃げるんだぁ!」
「ドラゴンが襲ってきたぞ、皆逃げろぉぉ!」
「「「「「「びえぇぇぇぇえん!」」」」」」
俺たち全員で大声を上げていると、幼女たちまで大声で泣き出してしまった。
「ドラゴンが王都に出ましたぁ!」
ライラだけ絶叫が丁寧なのがカワイイ。
クラン本部や周囲から徐々に人々が現れて、そして上空を旋回するドラゴンを見て、大騒ぎ要員に加わって行く。
「ド、ドラゴンが出ただと! アッアァァァ!」
先ほどの大柄な騎士が空を見て顔を真っ青にしていた。
「シャトラン様……シャトラン様はどこだ!? それにこの子供たちは!?」
混乱する騎士に、ミリアが駆け寄り、彼を誘導する。
「ドラゴンの咆哮を受けて、シャトラン様たちは街の方へ逃げた……散開された! 急いで後を追ってくれ! わたしは子供たちを守る!」
「わ、わかった!」
大柄な騎士がミリアの指差した方向へ走って行くのを見届けた後、シャトランを乗せた俺たちの馬車は、悠々と反対方向へと進んで行った。
ドラゴンは、その後、王都上空を数度旋回した後、南の空へと消えて行った。
もちろんグレイベア村は王都から遥か北にある。
この日の出来事は、「ドラゴン騒乱」として後々長く王都の人々によって語り継がれることとなった。
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