第136話 ハーメルンの笛吹き男

 セレーナにとっては久しぶりの再会で、俺に笑顔で迎えられるとでも思っていたのだろう。そんな予想とは違って、約束が違うとブチ切れた俺に対し、セレーナは一瞬たじろぎはしたものの、すぐに立て直して、逆に俺に怒鳴り散らし始めた。


「何もいきなり怒鳴ることないでしょう!! そりゃ約束を破ったのは悪かったけど、こっちにはそれでもあなたに会わなきゃならない理由があって、わざわざ王都からこんなド田舎くんだりまで出向いて来てあげてるのよ!! 」


 セレーナは俺よりはるかに大声で怒鳴り散らしてきた。


 周囲の視線がセレーナに集まるが、ド田舎と言われた地元の人々から優しい視線が向けられるわけがない。セレーナを除く五人の女冒険者は、周囲の剣呑な空気を読み取って、顔に緊張を走らせている。


 俺はと言えば、セレーナに怒鳴り散らされたおかげで、逆に落ち着きを取り戻すことができた。決して怒りが治まったわけではない。ただ心が完全に凍りついただけだ。


「俺に用事? また乳を大きくしろって? それなら今すぐやってもいけど?」


「なっ! なんのことよ!?」


 セレーナの視線が一瞬五人の仲間に向けられる。そのキョドリ具合から察するに、彼女たちには秘密にしているのだろう。


「そ、そんな話をしにきたんじゃないわ! 正確に言えば、用があるのはあなたではなく、ライラよ! もちろん貴方にまったく無関係という話じゃないわ。もし私たちとの取引が成立したときには、貴方にだってものすごく得になる良い話よ! もちろんライラにとってもね!」


 そう言ってセレーナに指をさされたライラは、自分を指差して小さく首を傾げた。ちなみにライラの目は完全にハイライトが消えている。モンスターをガチ殴りに行くときの目だった。


 取引がどうのこうのとか、得になる云々とか、もうこれだけでセレーナの話を聞く必要がないのは明らかだ。


「ライラに用? もしかしてあのシャトランとか言う下衆男に、ライラを連れてこいとか言われたのか?」


 バッ!


 俺がシャトランを侮蔑する言葉を発した瞬間、五人の女冒険者たちが、怒りに顔を歪めながら一斉に身構えた。


 フワデラさんが俺の後ろに回り込んでいなかったら、おそらく彼女たちは剣を抜いていただろう。


 周囲に沈黙と張り詰めた緊張が走る。


 俺は深いため息を吐いて、セレーナに言った。


「はぁぁ、わかったよ。話を聞いてやる。俺の部屋でいいか? 俺はここで話しても一向に構わないけど、どうする?」


 セレーナと五人の女冒険者たちが周囲に視線を走らせる。


「貴方の部屋で話しましょう」


 俺は立ち上がってセレーナたちに付いてくるように、顎で合図した。


「ライラはここで待ってて」  


 ライラが頷くのを見ながら、俺は宿の二階にある部屋へと移動する。


 セレーナと女冒険者たちが、俺の後からゾロゾロとついてくる。


 俺は、二階にあるを通り過ぎ、一番奥にある扉が開きっ放しの部屋に入った。


 こんな事態になることを想定して、わざわざ空けていた部屋だ。


 この部屋の窓はカーテンが掛かっていて薄暗い。


「暗いな、カーテンを開けよう」


 そう言って俺は窓に近づいて行った。


 いきなり背中から切られないかと冷や冷やしていたので、思わず小走りになる。


 何しろ視界の探索マップでは、全員が赤マーカーなのだ。


 だがそれは杞憂に終わった。


 俺はカーテンを開ける直前、その手を止めて振り返る。


 女冒険者のパーティ全員が部屋の中に入って来た。


 丁度、最後の一人が部屋の扉を閉めようとするところだった。


 俺は、


(【幼女化オプション】意識:完全幼女化。効果時間:一カ月)


 手を十字に組んで叫んだ。


「【幼女化ビーム】!」


 バシュッ!


 暗い部屋が一瞬、明るい光と白い煙で満たされ、


 ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!


 煙が消え後には、6人の幼女が立っていた。


「ん?」

「ここどこ?」

「暗くて怖いぃぃ」

「寒いかも」

「お腹空いたー!」

「お兄ちゃん誰?」


「はーい、まずは服を着ようね! 順番だよー!」


 俺は部屋に備えつけられているキャビネットを開き、そこから6人分の服を取り出して、それぞれに着せた。服を着せる度に、一人ずつ頭を撫でるのも忘れない。


「それじゃ、下でおいしいものを食べて、それから友達が一杯いるところに行こうか」


「「「「「「わーい! おいしいの食べるぅぅ!」」」」」」


 俺はハーメルンの笛吹き男の感情を追体験しながら、6人の幼女を連れて、部屋を出た。


 そういやハーメルンの笛吹き男は、約束を破られたことに怒って、その復讐として子供たちを連れて行ったんだよな。


 約束はちゃんと守ろう。


 そう心に誓う俺だった。


 階下に降りると、シュモネーが6人の子供たちに食事を振る舞ってくれた。


 索敵マップに移っている赤マーカーは残り三つ。


 俺がフワデラさんにその三人の居場所を伝える。


 フワデラさんは屈強そうな亜人を引き連れて、そいつらの元へ向っていった。


 しばらくすると、二つ赤マーカーが消えた。


 ただ最後の一つは、物凄い勢いでミチノエキ村から離れて行った。


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