第130話 見え見えのサプライズ

 俺は王の間で玉座に座り、ルカやライラに向ってハイテンションで喋り続けていた。


 王都での出来事だけでなく、王の間を見た感想や、異世界転生において王の間がどれだけ重要な役割を果たすのかを、俺は延々と語り続けた。


 話を聞かされ続けていたルカの顔に疲れの縦線が入っているのに気付き、そこでようやく俺は話すのを止めた。


 その時になってようやく俺は、いつの間にか王の間に大勢の人々が集まっていることに気が付いた。


「ほへ!?」


 純白のドレスに身を包んだ女神を見て、固まったのとは異なる衝撃で、俺はフリーズしてしまった。


 王の間に集った人々は、整然と列を連なって並んでいる。


 そして――


 その全員が、俺に向って頭を下げていた。


 俺はといえば再びのフリーズ状態になっていた。思わず立ち上がろうとしたが、腰に力が入らず、玉座に座ったまま動けない。


「なに……これ?」


 そして――――――


 こして――――


 ついに――


 長い長い回想から現在に意識が戻って来た俺は、再び同じ言葉を呟いた。


「なに……これ?」


 どうしてこうなった!?




~ 見え見えのサプライズ ~


 口を開けたまま玉座で硬直している俺に向って、ルカが話しかけてきた。


「驚いたか? というか、今頃、驚きおったシンイチにわらわの方が驚かされたわけじゃが。まぁ良いわ。ここにいる皆は、お主を祝福するために集まってきたタヌァカ五村のものたちじゃ」


 ルカにそう言われて、俺は改めて目の前にいる人々を見回した。


 人数としては……ざっと見積もって三~四百人といったところか。皆が綺麗に整列しているので、それほど誤差はないはずだ。


 かなりの広さがある王の間だが、居並ぶ者の中には身体の大きな魔族や獣人もいるので、今では窮屈に見える。


 人数計算を終えたところで、俺はようやくルカの言葉が頭に入ってきた。


「俺を祝福するために? 集まった……えっ!? えっ!?」


「うむ。皆忙しい合間を縫ってきてくれたのじゃ、お前もしっかり気を入れて、皆の期待に応えるのじゃぞ」


「き、期待に応えるって……」


「おどおどせず、堂々としておれというだけのことじゃ。せっかく祝いに来たお前が、いつまでも動揺して、挨拶一つ返せんようでは、皆に申し訳ないじゃろうが」


 俺は全員の意識が俺に集中しているのを感じていた。


 緊張はしているものの、ルカのいう通りだとすれば、彼らは俺を祝福するために集まってくれたらしい。


 ふむ。


 ふむふむ。


 なるほどなるほど! なんだなんだ、そういうことか!


 さすがの俺でも、ここまでの状況になれば、現在進行中のサプライズの意味が分かったぜ!


 答えは簡単! 俺の隣に座っているウエディングドレスのライラ……


 女神のように美しいライラ! そしてルカが用意してくれた、綺麗な騎士装束を纏っている俺!


 そうだったよな、ライラ。今まで忘れててごめん!


 ここまであからさまで見え見えのサプライズだったのに、今の今まで気付かなかったなんて、ほんと俺って鈍感ちゃん!


 俺たちが初めて結ばれた翌日、俺とライラはカレンの取次で簡単な結婚式を挙げた。


 でも、そのときは俺がまだ成人してなかったから、なかったことになったんだよな。だから俺が成人したら、改めて結婚式をしようねってライラに約束したんだよな。


 言い訳がましいけど、その後、本当に色々色々色々あり過ぎて、とっくに成人年齢をクリアしたのにも関わらず、約束を果たすことができてなかった。


 ごめんよ、ライラ。そして――


「ありがとうルカちゃん。ためにこんな素敵なイベントを用意してくれたんだね」


「そうじゃぞシンイチ! ここにいる全員、その先に連なるものたち全員が、を祝福するために集まったのじゃ」


 俺は喉元から込み上げてくる感動を抑えきれず、思わず眼を閉じて上を向く。


 だが流れ出す涙は止めることはできなかった。


「そうじゃろうそうじゃろう。涙を流すほど嬉しいじゃろう。わらわとて同じ思いじゃぞ!」


「シンイチ様……」


 俺を見つめるルカとライラに俺は何度も頷いた。


 分かってる。俺たちは今、同じ思いを、同じ感動を共有してるんだよ。


 だがこうしていつまでも感動に浸っているわけにもいかない。


 皆がずっと俺たちが結婚式を挙げるのを待っているんだ。


 俺はビシッと腹を決めて、皆に御礼の挨拶をする覚悟を決める。


 両手の手のひらの汗を太ももに何度も擦り付けて拭った後、俺は、


「よっし! 覚悟完了!」


 一言つぶやいてから、ルカに声を掛けた。


「よっし、ルカちゃん! 俺の方はいつでも準備オッケーだよ」


「ぬっ! そうか!」

 

 ルカが満面の笑みを浮かべる。


「では始めるとするかの。あぁ、いやいや、お主はまだ立ち上がらんで良い。式次第は決まっておる。お前の出番が来たら声を掛けるから、それまではそこで大人しく見ておれば良い」


 ルカが右手をスッと挙げると、いつの間にか玉座の近くに控えていたラッパ手が、


 パーパパパ、パーパパパ、パーパパッパッパー!


 パーパパパ、パーパパパ、パーパパッパッパー!


 と派手な音を鳴らし、その後にいつの間にかその玉座の両サイド壁際に控えた楽隊が、音楽を奏で始める。


 その場の全員が身体を起こし、全ての視線が俺に集まった。


 音楽は直ぐに終わり、それと同時に人々の列の先頭から大柄の男が、玉座の前の階段を昇ってきた。


 大柄の男はフワデラさんだった。


「これより式典を始める! 皆の者、静粛に!」


 最初から静粛だったので、フワデラさんの声は広間中に響き渡たった


 改めて整列している人々を見渡すと、知った顔があちこちに見える。


 ステファンやネフュー、シルフェン、シュモネーさんと小鉢、ココとコボルト村の面々、イリアくんとイリアナさん……


 おっ? ドワーフのタンドルフさんとお弟子さんたちまで来てくれたのか。


 魔族や獣人、亜人の中にも、今では見知った顔が沢山いた。


 俺とライラの結婚を祝うために、こんなに集まってくれるなんて。


 俺は熱くなる目頭を抑えた。


「これより式典を始める! 皆の者、静粛に!」


 再びフワデラさんが声を上げる。皆、さっきからずっと静かだったので、これはあくまで決まった手順ということなのだろう。


 隣に座っているルカが、スっと立ち上がった。


 それを見たフワデラさんがまた声を張り上げる。


「これより、天空の覇者にして、獄炎の狩人、あらゆる魔族の頂点に立つものにして、タヌァカ五村の守護者たる火竜、ルカ様による開会宣言が行なわれる! 一同、拝聴せよ!」


 長い! 長いよ! ルカちゃんの肩書!


 なんてツッコミをするような雰囲気ではなかったので、俺は真面目な顔をして事の成り行きを見守っていた。


 ルカが一歩前に出て、広間を睥睨する。小さな体でもドラゴンの威厳を纏ったルカは、まさに女王様そのもので、そこに居並ぶ全ての者を威圧していた。


 その様子を見て、俺は背筋を伸ばして玉座に座り直す。


 いよいよだ。ここから先は、気張っていくしかない。


 ヘラヘラして、ライラに恥をかかせるわけにはいかないからな!


 ルカちゃんがスゥっと息を吸うのがわかった。


 よし、バッチこい!


「これより! コボルト村の酋長にしてグレイべア村と地下帝国の主! ミチノエキ村の村長にして、西方のエルフの盟友! 賢者の眼を持つ乙女の伴侶にして、三千世界に並ぶものなき強大な火竜を妻に迎えし者! タヌァカ五村の護り手にして我らが主!」


 おいおい、それって誰だよ、スゲェ奴がいるもんだな。


「全ての幼女の王にして、幼女の作り手! やがては帝国となるタヌァカ五村を統べし者、シンイチ・タヌァカの皇帝就任式を始める!」


 ん?


 ん?


 はっ?


 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?


 一瞬で頭が真っ白になった。


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