第112話 シャトラン・ヴァルキリー本部

 翌日、俺たちはセレーナと一緒にシャトラン・ヴァルキリーの本部へと赴いた。


 当初は、セレーナを【巨乳化】したら、クエスト完了のサインをもらって、彼女とはサヨナラするつもりだった。


 だが面接が長引いた場合のことを考えて、面接中は近くで待機していて欲しいと、セレーナに強く強く乞われて、結局、俺たちは彼女についていくことになった。


 最初は断るつもりだったが、カレンの言葉が俺の考えを変えた。


「私たちも一緒についていきましょう。ひとりで行かせるよりも、彼女には仲間がいることを面接官たちに示しておく方がいいわ。シンイチが彼女のことを気に食わないのはわかるけど、それでも関わった人間がシャトランの毒牙に掛かって欲しいとは思わないでしょ?」


「まぁ……確かにそうだけど……」


「そんな顔しないの。それにシンイチがいつもいつも憧れて止まない、本物のハーレムを見てみるのも悪くないんじゃない?」


 カレンの言葉に、俺は思わず頷いてしまった。そういうことなら、王都見物のひとつとしてハーレム団見学ってのも悪くないかもしれない。


「セレーナ! 特別サービスだ! お前の面接に最後まで付き合ってやるよ」


「ありがとう! 恩に着るわ! 合格したら、私のファンクラブ第一号として認定してあげてもいいわよ!」


 コイツ! やっぱり嫌いだ!


 俺はため息を吐きながら、セレーナの肩に触れて【巨乳化】スキルを二回発動する。


 セレーナの胸がAカップからFカップにボリュームアップした。


「さぁ! 面接に行くわよ!」


 セレーナは巨乳をブルンブルンと左右に揺らしながら、ヴァルキリー団の本部へと向かっていった。




~ 面接会場 ~


 シャトラン・ヴァルキリー本部は、王都の中心部にあるハーネス伯爵邸に隣接している大きなお屋敷だった。


 門番からにして美しい女性で、俺たちを面接会場へと案内してくれたのも美しい女性、どこもかしこも美人ばかりだった。


 ちらほら見える男性は、俺たちのように付き添いで来ている連中のようだ。


「付き添いの方が入れるのは、この受付ロビーまでとなります。面接が終わるまでは、こちらの方でお待ちください」


 ロビーまで案内してくれた美人は一礼するとその場を立ち去っていった。一礼したときに、ふわっと重力で垂れ下がった乳袋の大きさときたら。男だったら絶対に見逃さないね。


 案内状のおっぱいを正確に追跡する俺の視線に気付いたセレーナが、ため息交じりに言う。


「前に来たときは、このロビーに来ることさえできなかったわ。貧乳だというだけの理由で、門番のところで止められたのよ」


 全ての女性のパイオツをこよなく愛する俺にとっては、この一件だけでもシャトランという男を嫌いになるのに十分な理由だった。


 その性格と言動には苛立たされるばかりのセレーナだが、それ以上にシャトランやこのハーレム団のことは好きになれなかった。


 なので相対的な結果として、俺の気持ちはセレーナを応援する側に回っていた。


「がんばれよ、セレーナ。もし面接が長引くようなら、化粧直しか花摘みとか言い訳して、ここに戻ってこい。そしたらもう一度【巨乳化】を掛けるから」


「あ、ありがとうタヌァカ殿! 感謝するわ!」


 ずっと不貞腐れていた俺が応援する気になったのを見たからか、セレーナの顔がパッと明るくなった。


 純粋に喜んでいる美人の笑顔というのは、花が咲き開くように美しく尊いものだ。悔しいことに、それはこのセレーナでさえ同じだ。


 よし、こいつが無事に面接を終えるまでは、仲間として応援することにしよう。


 俄然やる気になった俺は、セレーナの模擬面接に付き合ってやることにした。

 

「面接の練習ということですわね」


「そうだ。俺が仮の面接官になって質問するから、セレーナはそれにどう答えるか考えるんだ」


「わ、わかりましたわ!」


「よし、それではセレーナくん。これから面接を始める。まず、君にとって最もセクシーなポーズをとってくれたまえ」


「それは質問ですの!?」


「はい、失格ぅ! こんなクソハーレム団体の面接が普通なわけないだろ! 面接に対するお前の思い込みが、面接官の不評を買うんだよ!」


「「はっ!?」」

 

 同行しているカレンとライラの目が若干ジト目になっている気がしないでもないが、セレーナとタクスは俺の言葉を聞いて大事な何かに気が付いたようだった。


「た、確かにタヌァカ殿の言う通りかもしれません。大陸中の女性冒険者たちがこぞって目指す、このクランの面接が普通なわけありませんわ」 


 ハーレムに強烈な憧れを抱いている俺には、ハーレムクランなんて作るような下衆の気持ちがよく分かる。もし俺がハーレム団長なら、もし俺がハーレム面接官なら、どうするかが手に取るようにわかるぞ。


 そもそも、もし俺がこのハーレムクランの団長なら、一人ひとりに時間を掛けて個別面接なんかしない。


 俺だったら、このロビーに面接希望の美人冒険者を集めて一気に……。


 ドドーン! ドドーン!


 美人の面接志望者たちをどのようにするか妄想していた俺を、大きな銅鑼の音が現実へと引き戻した。

 

 銅鑼の方に視線を向けると、そこには美しい女性騎士が立っていた。おそらくクランのメンバーだろう。


「これより、シャトラン・ヴァルキリー団長 シャトラン様による総巡回面接を行う! 一同、起立!」


 女性騎士の大きな掛け声に、面接希望者たちだけでなく、俺たちを含めた付添人も一斉に立ち上がる。


 総巡回面接!?


 何が何だか訳が分からないが、とにかく何事か始まったぞ!?

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