第111話 王都ハルバラルト

 ハーレムクランを作ったシャトランとか言う男。


 最初に彼の話を聞いた時には「こいつもしかして転生者じゃないか」と疑っていたが、話を聞いているうちに、どうもそうではない気がしてきた。


 まずハーレムを維持するやり方が転生者のっぽくない。


 もし転生者なら、チートな能力を駆使して、女性の方から寄ってくるように仕向けると思う。


 まぁ俺みたいに、しょうもないスキル持ちって可能性もあるわけだから、絶対にそうだと言い切るつもりはない。


 ただシャトランのやり口は、あまりに地味で厭らしいのだ。端的に言えば金と権力を使ったパワハラに過ぎない。チート能力のチの字も感じられないのだ。


 バーグの街を出て、アシハブア王国の首都ハルバラルトに向う道中では、シャトランの手口についてカレンから色々な噂話を聞かされた。


「シャトランからベッドに誘われたときに断ったら、もうその娘の出世は無いわ。それどころか危険なクエストに出されて、そのまま行方不明っていうのも少なくないみたいよ」


 あくまでも噂であるという前置きを入れているものの、カレンの口から次々と終わることなく出てくる話の全てが、まったく無根拠なものとは思えなかった。


 噂話をそのまま信じるつもりはないけれど、俺のシャトランに対する印象は最悪なものになっている。


 曰く、トップランクに入るためには、シャトランのベッドに入ることが最低条件。


 曰く、男性騎士と恋に落ちたメンバーを別れさせ、その日のうちに彼女を穢した。そのメンバーは苦悩の末に自死を選んだ。


 曰く、王侯貴族の秘密の集まりでは、若い少女たちで編成されたパーティーが素っ裸で踊らされる。


 ここまでのことは、元の世界でも聞いたことがあるような話だ。だが命の軽い異世界では、さらに悍ましい恐怖が続くのだ。


 それはシャトランの不興を買ってしまった女性たちの末路。行方不明や戦闘時の死亡として処理されている事例の中に、明らかに不自然なものがある。


 それはトップクラスのクランゆえの、厳しいクエストのせいだけでは語れない。明らかに不自然な死が少なくないらしいのだが、そのほとんどにおいて官憲の調査は突然打ち切られている。これは公式の資料を見るだけでも、辿り着くことができる事実らしい。


「でも表舞台での華やかなヴァルキリーたちの活躍でそうした影は覆い尽くされるわ。死という悲劇に見舞われてさえ、感動の物語によって彼女たちは吟遊詩人の歌となっていくのよ」


 そのように語るカレンの姿は、もう恐怖の百物語を語る怪談話師のようだった。


 カレンが話をする間、俺はライラにしがみ付いて震えていた。


「ライラは怖くないの?」と聞きそうになったところで、慌てて俺は口を閉じる。ライラはもっと酷い目に遭ってるんだ。危うくバカなことを口にするところだった。


 ライラの肩を引き寄せて、その首元に顔を埋めると、恐怖はどこかへ吹き飛んで行った。そして今度はふつふつと怒りが湧いてきた。


 もし、


 もし噂が本当だとしたら、


 本当のものがあったとしたら、


 シャトランを幼女化して魔物に喰わせてしまおう。


 王都へ着くまでの間、俺はずっとそんなことを考えていた。




~ 王都ハルバラルト ~


 王都ハルバラルトは、アシハブア王国の首都だ。


 東方には海が広がっていて王国最大の港がある。この港は、北方諸国連合にある港湾都市リーロイと並ぶほど有名で、大陸中の貿易船が寄港している。


 西方には王国の領土が広がっている。この国の領土は大陸で4番目に大きい。


 このアシハブア王国は魔族を率いるセイジュウ神聖帝国に対抗し、人類軍としての共闘を最初に呼びかけた国でもある。

 

 魔族軍を率いるセイジュウ神聖帝国は、大陸の西方に突然現れて、北西の獣王国、南方のドルドル、ナヴリエルを次々と傘下に組み込んでいった。アシハブア王国とも国境を接するルートリア連邦は、拮抗状態にあるものの、魔族軍側に下るのは時間の問題だと考えられている。


 対する人類軍は、アシハブア王国の他、サルロマーヌ、ティーワン、メジャイ、ナフカリヌスといた南方諸国が参加。それ以外の国は、魔族軍に対して中立を保っている。


 この大陸は現在、人類軍と魔族軍に分かれてその戦火を次々と拡大しつつあった。


「そんな凄い事になってたのかぁ~。全然知らなかったなぁ~」


 王都についた俺たちは、宿屋の一階にある酒場で飲みながら、大陸情勢について流しの吟遊詩人から話を聞いていた。


 正直言うと、既に俺は酔っていたので、吟遊詩人の話から聞き取れたのは「なんか大変なことになってる」ということだけだった。


 酔いが覚めたらカレンとライラに詳しい話を聞けばいいだろう。


 今はそんなことより、さっさとセレーナを巨乳にして、セクハラ・ヴァルキリー団とかいうのに放り込んでしまおう。


 その後、ライラと王都観光して、お土産買って、さっさとコボルト村へ帰るのだ。


「あ~、ライラさん、ライラさん、そういやルカちゃんたちが早く帰って来るようにって言ってたの?」


 酔っぱらいのおっさんムーブでフラフラしながら話しかける俺を、ライラは優しく支えながら答えてくれた。


「はい。そろそろグレイベア村に来てもらわないと大変なことになる。そうおっしゃってました」

 

「そっか~。ルカもグレイちゃんもきっと俺がいなくて寂しいんだねぇ~。よーし! さっさとあの女の乳をデカくして、ささっと帰るぞー!」


 このとき気持ちよく酔っぱらっていた俺は、ルカのいう「大変なこと」について全く理解できていなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る