第113話 シャトランの巡回面接
広いロビーの中央には、二階へと繋がる大きな階段がある。その階段の踊り場に5人の騎士が現れた。
騎士のうち四人は女性騎士、残りの一人は男性騎士だった。
つまり彼がシャトラン・ヴァルキリー団長、シャトラン・ハーレムその人なのだろう。
んっ? シャトラン・ハーネスだったか? ハーレムだったか?
ま、どっちでもいいか。
シャトランの見た目は、まぁ……そこそこイケメンだ。金髪碧眼で、出会ったばかりの頃のステファンと同じハーレム族っぽい感じがする。ただステファンとは違って、シャトランには貴族趣味の嫌味な雰囲気が纏わりついている。
出会った頃の嫌味なステファンとこのシャトランを並べたら、俺は迷わずステファンと友達になろうとするだろう。
いや……まぁ……背後に控える美人騎士たちを見て、羨ましくて僻んでいるだけかもしれないけど。
「シャトラン団長が巡回されます! そのままの姿勢でお待ちください」
ドドーン! ドドーン!
「シャトラン団長による、総巡回!」
ドドーン! ドドーン!
銅鑼の前に立つ女性騎士が号令を終えると、シャトランと女性騎士たちはゆっくりと階段を降り始める。
ロビーにいる入団志望者たちが一斉に息を呑む音が聞こえたような気がする。
シャトランは静かな足取りで移動し、階段下に立っている女性冒険者の前で立ち止まった。
そしてチラッとその女性冒険者を一瞥すると、フイッと顔を背けて、別の女性冒険者のところへ移動を始める。
視線を逸らされた女冒険者がその場に崩れ落ちて泣き始めた。複数のメイドが現れて彼女を引き起こし、建物の外へと連れ去って行く。
次の女冒険者の前では、シャトランは厭らしい視線を彼女の全身に這わせていた。そしてニヤリと笑みを浮かべて、
「合格」
と、呟いた後、また次の入団志望者の元へと移動していく。
この野郎!
俺がもし自分のハーレム希望者を面接するとしたら、やるだろうと思っていた妄想そのままのことをやってやがる!
しかも妄想と違って、リアルでやるとこんなにもエグイものだったとは!
将来、俺がハーレム面接するときは、こういう雑なのは絶対に辞めよう! ちゃんとひとり一人のハーレム参加希望者と正面から向き合っていこう! そのときが来たら絶対にそうしよう!
まぁ、そんなときは絶対に来ないだろうけど……。
「どうする? もう一回【巨乳化】かけて、もっと大きくしとくか?」
シャトランのえげつない巡回面接が続く中、俺はセレーナを見て言った。緊張のあまりセレーナの顔は真っ青になっている。
「い、いえ、このままでいいわ。さすがにこれ以上大きくすると、却って引かれてしまうかもしれないから」
「わかった。とにかく落ち着け。顔が真っ青だぞ。結果がどう転ぶとしても、勝負は一瞬だ。深呼吸して備えておけ」
「そ、そうよね……」
セレーナが俺の言葉に従って深呼吸を繰り返す。
そうこうするうちに、シャトランの巡回面接が段々と近づいてきた。
~ シャトランの面接 ~
そしてついに、シャトランがセレーナの前で立ち止まる。
「!!」
セレーナが緊張のあまり固まってしまう。彼女の心の絶叫が聞こえてくるように思われた。
俺たちも、間近で見るシャトランの大物オーラに圧倒されて緊張していた。
カレンやタクスも、全ての意識をシャトランに集中し、その一挙手一投足を見守っている。
ゴクリ……全員が緊張でツバを飲み込む。
「シンイチさま、大丈夫ですか? お水をどうぞ」
シャトラン以外は全て凍りついていた絶対零度の世界で、ライラだけは普段と全く変わることなく、俺のことだけを気にかけてくれていた。
「あ、ありがとう、ライラ」
ライラのおかげで、俺はシャトランの威圧から解放された。
そもそも俺の面接じゃないんだから、俺が緊張する必要なんて全くなかったな。
そう思い直して、セレーナの面接を見守ろうとしたそのとき、
「なんて美しい……。美しく輝くような栗毛の髪! 吸い込まれるような青空の瞳! 女性の優しさと柔らかさを体現したボディ! だがその下にある鍛え上げられた筋肉を僕は見逃したりしないぞ! 君こそ女神の美しさと戦士の強靭さを兼ね備えた真のヴァルキリーだ!」
おいおい! よかったな! セレーナ! めちゃくちゃ褒められてるぞ!
これは合格間違いな……
「その目の傷に秘められた神秘! 神話の美しき乙女ファナリアは、妖精王に右目に傷をつけられてから未来を見通す力を得たというが、キミの右目からも絶大なる神力を感じる!」
んっ? セレーナの目に傷はないが?
「シャトラン・ヴァルキリーへようこそ! 麗しき乙女よ! 神秘の体現者にして、我が運命の恋人よ! キミは合格だ! いやいや大合格だよ! まさか私と共に女神に祝福されし道を歩む生涯の伴侶と出会うのが、今日この日この時だったとは! 女神の采配に感謝するしかあるまい!」
ブツブツと何事か言いながら、シャトランはキザったらしく、こめかみに手を添えて首を左右に振った。
それから彼はスッと前に進み出て、
セレーナの前を通り過ぎ、そして――
あろうことかライラの手を取ろうとした。
はぁ!?
何してくれてんの、このタコ助!
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