第105話 ヌルヌルヌル……
ショゴタンは、もう俺にとっては雑魚敵だ。
ヌルヌルヌル……。
ショゴタンは犠牲者に致命的なダメージを与える刺突攻撃を持っているが、その初動はとてつもなくのろい上、触手が伸び始めた時点で攻撃位置が固定されているので、一カ所にとどまらず動き回っていれば問題ない。
また火に対して過敏に反応する。そこでフワデラさんには松明を持ってもらい、ショゴタンの目の前を掛け抜けて貰った。
ヌルヌルヌル……。
巨大なコンクリートの塊が、ヌルヌルとフワデラさんに向って移動し始めるが、その動きは遅い。
俺は、その後ろから駆け寄って、両手を十字に交差させた。
「幼女化ビィィィィム!」
ビィィィィィィィイ!
【幼女化ビーム】を受けて、小型のバスくらいの大きさのショゴタンが一瞬にして幼女になった。
スキル開発部の皆さんの努力のおかげで、妖異が相手でも、幼女化効果が発生するまでのタイムラグはない。
俺の目の前には、全身に目と口の模様が浮かび上がった、幼女が立っていた。
この気持ち悪い外見もどうにかして欲しいところだが、スキル開発部の皆さんに負担を掛けるわけには行かない。それに、この恐ろしい外見の方が、油断しないからいいのかもしれない。
(ココロチン:お見事です! 早速、回収班に連絡しますね!)
(シリル:連絡しました。1分で到着するそうです)
精霊支援ボーナスが入るクエストだからだろう、二人の精霊の行動が早かった。
無事、妖異回収班によってショゴタン(幼女)が回収されたのを確認した後、俺たちは急ぎライラたちの待つ場所へと引き返すことにした。
帰路、俺は精霊の二人に気になったことを聞いてみることにした。
(ショゴタンを見てライラやルカちゃんたちが恐慌状態に陥ってしまったのはどうしてなんだろう? 確かにあの見た目は気持ち悪いけど……)
俺でさえ、初見のときはビビりはしたものの、自分を見失うほどの恐怖に陥ることはなかった。
俺よりも遥かに修羅場を越えているだろうライラや、幼女とは言え元ドラゴンや元グレイベアまでもが、あんなにも恐怖に陥るなんて……。
(シリル:普通の人間が妖異を見れば、精神に大きな負の影響を受けます。ショゴタンくらいの妖異を見たなら、発狂状態になっても不思議ではありません。いくら強くてもライラさんは人間ですし、他の二人も今は幼女なので、影響を受けてしまったのでしょう)
(いや、俺も人間なんだけど!?)
(ココロチン:それは私たちがいるからですよ!)
(シリル:田中様が妖異の影響を受けないようにジャミングをかけてますから)
(そ、それは……ありがとね。じゃぁフワデラさんは人間じゃなかったから大丈夫だったってこと?)
ん? あれ? シュモネーが無事だったのは何故だろう?
(シリル:鬼人族のフワデラ氏は、もともと魔法や精神異常攻撃に強い耐性を持っています。シュモネー夫人の方は……よくわかりません)
(よくわからない? えっ!? あの人、人間じゃないの?)
いや人間じゃないから平気なのか。だとしたら何者なんだ。
(ココロチン:私もあの人のことはよくわかりません。彼女の情報を検索しようにも、セキュリティレべルが高くて閲覧できませんでした)
(シリル:私も同じです。正直あの人、ちょっと怖い感じがします。夫人については、あまり踏み込まない方が良いかと)
うん。二人がそういうなら踏み込まないようにしよう。
俺は石橋は叩いて渡らずに、渡ること自体を回避する人間だからな。
みんなが待っている場所に到着する頃には黄昏時になっていて、夕日が西の空に沈みかけていた。
俺に気が付いたライラが、手にしていた薪の束を取り落として、俺の方に駆け寄ってきた。
夕陽を背にしている彼女の顔を見ることはできなかったが、俺にはその顔が喜びと涙で溢れているのが分かった。
「シンイチ様!」
「ライラ、ただいま!」
腕に飛び込んできたライラを、俺は力一杯に抱き締める。
彼女の香りが、俺の鼻腔をくすぐる。
「ご無事で……ご無事でよかった……」
彼女の声が震えていた。
その時になって初めて、ライラがどれだけ俺を心配していたのかを知った。
その時になって初めて、自分で気付かないうちに緊張していたのか分かった。
俺の身体から緊張がとけ、ブワっと全身に血が巡るのを感じる。
考えてみれば当然か。
いくら雑魚認定しているとはいえ、相手は妖異でかなりの大物だ。
初めてショゴタンを見た時には、腰を抜かして動けなかった御者が、恐ろしい触手の柱で身体を貫かれていた。
たまたま俺には【幼女化】スキルがあり、支援精霊のサポートがあったから無事なだけで、それがなければあの時の御者は、そのまま俺の姿だったかもしれない。
そう考えると、急に身体に震えが走ってくる。
俺は、ただひたすらライラを強く抱きしめ、彼女の温もりを感じ、彼女の匂いで肺を満たし、彼女の声を聞いた。
震えが止まるまで、自分が生きていることが実感できるまで、ずっとそうしていた。
「シンイチ様……」
ライラ成分が120%充填されて、震えが止まった俺の顔をライラが見上げる。
彼女の目は赤く腫れあがっていて、その顔には涙の跡が残っていた。
「すぐ戻ってくるって言ったでしょ? 大丈夫だって言ったでしょ?」
元気になった俺は、さっきまでの弱気を棚に上げて、ライラに軽いしかめっ面を向ける。
「確かにそうおっしゃいました……でも……」
困惑するライラの唇に人差し指を当てて、それ以上の発言を封じる。
「でもじゃないの! 俺にとっては妖異よりも、ライラが泣いてる方がずっと怖いんだから」
「は……はい……ごめんなさい」
ライラがシュンとして伏し目になったところで、俺は悪戯を決行する。
「駄目、許さない。だからこれはお仕置きだから」
俺の意味不明な言葉に、キョトンとしているライラの顎に手を当てて持ち上げる。
それじゃいくか。
「レーロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロォ!」
「ひゃ!?」
ライラの涙の跡を思いっきり舐め上げる。
「ペロペロペロペロ、ペロペロペロペロ、ペロペロペロペロペロペロペロォ!」
「ふひゃ!?」
ライラが面白い声を上げた。
「レーロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロォ!」
「や、やめてください!」
何だか楽しくなってきたので、涙の跡とは言わず、ライラの唇、鼻、目、額、その顔中を舐めまわす。
結局、ライラが俺を押しのけるまで、とことん舐め続けてしまった。
ちなみに、その夜の営みでは――
ライラに俺の顔をとことん舐め返された。
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