第104話 オークのソーセージ

 徴税官たちが去った後のネフューネ村は、あまりにも居心地が良く、気が付くとひと月も滞在していた。

 

 ネフューの屋敷(兼宿屋)では毎晩のように宴が催され、俺たちは村の人々との交流を深めていた。


 今日も今日とて、テーブルに山のように盛られた食事を皆で囲んでいる。

 

「シンイチ様、おかわりいかがですか?」 


「ありがとうライラ、いただくよ」


 ライラが俺の隣に料理を持ってやってきて、皿に盛り付けてくれる。ライラは今日もフィーネのお手伝いで、料理を作ったり運んだりと大忙しだった。


 エプロン姿が相変わらずエロい!


 ……じゃなかった。


 頑張ってるライラ偉い!


 今宵は、お疲れライラの疲れを癒すために、全身くまなくマッサージしてあげよう。ぐへへ。


「もぐもぐ。大丈夫か? 元々だらしない顔が凄いだらしない顔になっとるぞ。もぐもぐ」


 オークソーセージにかぶりついているルカが、俺を見て酷いことを言う。


 このオークソーセージは、オークが森豚から作ったポークソーセージのことであって、オークのソーセージではないから要注意だ。もちろんオークの股間のソーセージでもない。


「もぐもぐ。シンイチ本当に大丈夫か? どうせくだらんことを考えておるのじゃろ?」


 ぐぬぬ。ルカに見抜かれている。


 なんとか誤魔化さないととアワアワしていると、ふと脳内に閃きが走った。


「そろそろ帰らないとヤバくない?」


「もぐもぐ。何じゃ? もぐもぐ。シンイチは帰りたいのか? もぐもぐ」


「うっ! うっ! うーっ?」


「とりあえず、ルカは食べながら話さない! 床に食べかすが落ちちゃうでしょ! それとグレイちゃん、違うんだよ。ただ俺は村のみんながちょっと心配になっただけ」

 

「えっ、シンイチ帰っちゃうの!? 」  


 銀髪美少女エルフのシルフェンが耳ざとく聞きつけて、声を上げた。

 

「うーん、あまり長く留守にすると、みんなが心配するだろうからなぁ」


「いまウィンドルフィンが伝言を持って村に飛んでおる。ステファンたちが心配することはないじゃろ」


 あのチョイ悪親父な風精霊、ここ最近見かけないなと思ったら、使いに出てたのか。


「いつまでもネフューやフィーネさんたちに迷惑掛ける訳にはいかん! よし! それじゃあ明日、帰るとしよう!」

 

 俺はきっぱりと断言する。


「まぁ、わかってるとは思うけど、ぼくたちが迷惑してることはないし、シンイチたちにはずっといて貰いたいと思ってるよ。ね、フィーネ」


「ネフューの言う通りよ。どうしてもっていうなら、ライラは置いていってちょうだい!」


「えーっ!? シンイチ帰っちゃうの!? やだやだもっと居てよ!」


 シルフェンが俺の腕を掴んでグイグイと引っ張る。


「気持ちは嬉しいけど、そろそろ出発するよ」


「やだやだもっと居て! 帰っちゃやだ! 帰るなら他の皆を残してシンイチだけ帰って!」


「酷い!」


 ……というやりとりを始めてから一週間後。


 ようやく俺たちはネフューネ村を後にした




~ 女神クエスト発生! ~


 コボルト村への帰途、ココロチンが緊急女神クエストの発生を知らせてくれた。


(ココロチン:ぴろろん! クエストの内容を表示します)


≫ 緊急女神クエスト:妖異ショゴタンの狩猟

≫ ここから東2kmのところにショゴタンが確認されました。

≫ この妖異を狩猟してください。

≫ クエスト参加資格:転生勇者、召喚勇者、神命勇者、一般転生者

≫ クエスト報酬:

≫ (討伐)EON 24万ポイント(支援精霊ボーナスあり)

≫ (捕獲)EON 20万ポイント(支援精霊ボーナスあり)


(えっ!? 今朝がた倒したばかりだよね?)


(ココロチン:はい。もちろん別の個体ですよ! 頑張って妖異を処しちゃいましょう!)


 支援精霊ボーナスが入るクエストになると、ココロチンのテンションが上がる。


(わかった! 受注する! とっとと倒してポイントゲット!)


(ココロチン:了解しました)

(シリル:受注しました)

(早っ!?)


 どうやらシリルもテンションがあがっているらしい。これはグズグズしてると二人から叱咤されそうだ。


 さっさと出発することにしよう。


「フワデラさん! 今朝と同じ妖異がまた出たみたい!」


 フワデラさんが俺の方を見て頷く。


「わかりました。今度はシンイチ殿と私だけで参るとしましょう」


 フワデラさんが二人だけでショゴタンの元に行くことを提案したのは、今朝のショゴタン狩猟が原因だ。


 今朝のクエストでは、全員でショゴタン退治に向ったのだが、そこで意外なことが起こる。


 ルカとグレイちゃん、そしてライラまでが、ショゴタンを見て恐慌状態に陥ってしまったのだ。


 幸いショゴタンは一瞬で【幼女化】し、すぐに回収班の方々に来てもらった。ショゴタンが回収された後は、ライラたちもほどなく落ち着きを取り戻していった。


 またライラたちに怖い思いをさせるわけにはいかないので、今回はフワデラさんと俺でショゴタン狩猟に向う。


「ライラたちはここで待ってて、俺とフワデラさんで妖異を【幼女化】してすぐに戻ってくるよ」


「シンイチ様……お気をつけて……」


 俺に話しかけるライラの声が少し震えていた。


 ショゴタンを見た時の恐怖がまだ残っているのだろう。


「大丈夫だよ。すぐに戻ってくるから」


 俺は震えるライラをギュッと抱きしめて、その額に口づけをする。


 ルカとグレイちゃんも俺の足にしがみ付いてきた。


「シンイチ……さっさとあの化け物を倒して戻ってくるのじゃ」


「うーっ! うーっ! ううっー!」


 二人がここまで怯えるなんて、ちょっと信じられない。


 ショゴタンの外見は、コンクリートが固まる前くらいの粘度の巨大スライム。


 そこから数多くの瞳や悍ましい口が浮かび上がっては沈んで行くのだ。


 うん。普通に怖いな。


 俺には【幼女化】がある。しかもスキル開発部の皆さんが対妖異戦に向けて改良までしてくれている。


 なので今の俺からすればショゴタンは雑魚扱いとなっている。だが、もし【幼女化】スキルがなかったら、俺だって恐慌状態に陥っているかもしれない。


 とにかく、さっさと終わらせるのが一番だな。


 俺は二人の頭を撫でて落ち着かせた後、フワデラさんと共にショゴタンの狩猟に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る