第103話 タヌァカ式人外脳作成カリキュラム

~ 王の指輪 ~


 幼女(徴税官)たちをお昼寝させている間、俺はシュモネーとフワデラさんに事情を話す。


「……というわけで、なんとかして魔族の女性に協力をしてもらいたいんだけど」


 徴税官たちへの対処法が判明したものの、今すぐここに魔族の女性を連れてくるなんて、それはそれで無茶な話だった。


 ところが意外なことにフワデラさんは、あっさりとその無茶を聞いてくれた。


「わかりました。そういうことでしたらお役に立てると思います」


 フワデラさんが胸元から魔獣のような装飾が施された銀の指輪を取り出して、右手の中指にはめた。それは魔王が所持するという王の指輪だった。


 フワデラさんは、王の指輪を眉間に当てて目を閉じる。何かを念じているのか、あるいは祈っているのか、その眉根は強く寄せられている。


 しばらく唸っていたフワデラさんが、パッと目を開いて俺を見た。


「……ここから数十キロ北にラミアがいますね。若くて美しいです。おそらくシンイチ殿のご要望に当てはまると思いますが、呼び寄せますか?」


 俺はコクコクと頷いた。


「分かりました……こちらに来てくれるそうです。森の移動ならラミアは馬よりも早いですから、おそらく2~3時間で到着すると思います」


「ありがとう! 助かるよ! それにしてもフワデラさん、凄いね! さすがは魔王!」


「この指輪の力を使っただけですよ」


 そう言ってフワデラさんは指輪をまた胸元に戻す。


 いや、その指輪の保持者であることが魔王の証なんだけど。まぁ、フワデラさんにとっては自分が魔王でいることよりも、ルカの眷属であることの方がよほど大事みたいだ。


 二時間もしないうちにラミアは到着した。長い黒髪に青い瞳の美人さんである。


 ラミア族と言えば、グレイベア村にトルネアがいるけれど、彼女に劣らずこのラミアも巨乳であった。


 そして、やはりビキニアーマーである。


 そして、やはり下半身の肝心な部分は腰布できっちり隠されていた。


 残念!


 


~ 声優ラミア ~


「ほらほら、こうして欲しかったんだろ? 言ってみろ、そのカワイイ口でどうして欲しいのか言ってみろぉぉ!」


「尻尾はらめぇぇぇ! そこを撫でられるとアタシらめになっちゃうのぉぉぉ!」


 徴税官8番が魂を込めてエロ同人誌の男性パートを朗読する。それに応えるように、ラミアが女性パートを渾身の演技で読み上げた。


「尻尾、尻尾はらめってひってるのにぃぃぃぃ!」

 

 一番エロいコマのセリフを絶叫しつつ、ラミアは自身の身体と尻尾をビクビクッと震えさせた。


「「「むほぉぉぉぉぉ」」」(※12人の徴税官 + 俺)


 ラミアは無茶苦茶エロかった。


 その晩、徴税官たちの寝床は、講堂一杯に分散して広がっていた。昨日はお互いが身を寄せ合うようにして固まっていたのにな。


 何かプライベートな空間が必要な理由があったのだろう。


 ともあれ、ラミアの協力のおかげで徴税官たちの人外脳への洗脳は完了した。


 72時間の苦楽を共にした俺と徴税官たちの間には、誰にも断つことができない心の絆が生まれていた。


 特に、夜中に同人誌を手に駆け込んだトイレでバッティングした、1番と3番と5番と8番と9番と10番と11番とまた3番……先生、お前たちのことは一生忘れないぞ。


 あと2番と4番と6番と12番、今回は急な開催だったから先生も準備が足りなかった。スライム娘と鬼娘と船娘と馬娘は定番だから、先生の蔵書からすぐに領都の自宅に嘘梱包で送ってやるから安心しろ。


 ただ7番……申し訳ない。少しだけ時間を貰えるだろうか。君のドストライクゾーンである「コボルト男の娘」はちょっと先生の蔵書にもなかった。


 正直に言えば、先生、コボルト村の村長してるから立場的にコボルトのエロ同人誌はNGなんだ。


 代わりと言ってはなんだが、うちにタクスっていう神絵師がいるから、こいつに一枚絵を描いてもらったものを送るよ。これがギリギリ精一杯なんだ。すまんな。


 とにかく……


「お前たち! よく頑張ったな!」


「「「先生!」」」


 立派な人外萌え脳となって、領都へと戻って行く徴税官たちの姿を、俺は小高い丘の上から見送った。


「さぁ、俺たちもネフューネ村に戻ろうか」


 フワデラさんとシュモネーが俺の言葉にうなずく。


「……ってあれ? 巨乳ラミアは?」


 ふと気づくと巨乳ラミアの姿が無い。


 シュモネーがその理由を教えてくれた。


「あのラミアでしたら、領都近くまであの徴税官たちと同行するそうです」


「へぇ……」


 ずっと後になって、徴税官12番からネフューネ村に届いた手紙によると……


 このときの領都までの帰路において、約半数がラミアに喰われたということだった。


 もちろん性的な意味で……。


 またラミア族の魅力に取り憑かれた8番は徴税官を辞して、王国の北にある村で濃紺色の髪と青い瞳のラミアと出会い、結婚して子供を得たとかなんとか。


 このときの徴税官たちの洗脳……げふんげふん……育てた経験から、俺は「人外萌え育成教育72時間コース」の内容をさらに昇華させ――


 ついに「タヌァカ式人外脳作成カリキュラム」の完成に至ったのであった。

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