第102話 人外萌え育成教育72時間コース

 人里からは隠れた場所にあるコボルト村やグレイベア村は、マーカス・ロイド男爵領となっており周辺は立ち入り禁止区域となっている。


 また男爵領内においては、魔物の狩猟は固く禁じられている。表向きな理由としては、戦闘訓練のために魔物を確保するというものだ。男爵の所有物である魔物を勝手に狩る者は賊と見做すという立札が、男爵領の境界線のあちこちに立てられていたりする。


 それでも時折はイキがった冒険者たちが魔物を狩ろうと、無断で立ち入り禁止区域へ侵入してくることがある。


 そういう連中の多くは人類至上主義者であり、魔物と魔族の区別もつけられないような頭の悪いバカであることが多い。


 彼らの持っているその偏った固定観念を打ち砕くために、俺が作った洗脳……げふんげふん……平和教育カリキュラムが『人外萌え育成教育72時間コース』なのだ。


 ネフューネ村から領都へ帰ろうとしていた徴税官たちを幼女化し、古代寺院の講堂へと拉致。そこで彼らに対して洗脳を始めてから約24時間が経過していた。


「徴税官3番! 『揉ませてください八尺様』の8ページ4コマ目から朗読しなさい」


「よ、読めば……読めば帰してくれるのだな」


 俺が徴税官3番に頷くと、彼は震える手でページをめくり、恐る恐る声を出して読み上げを始める。


「お、お姉ちゃんの胸すごく大きいんだね……さ、触ってもい、いい?……ポッ、ポポポポポポポ」


 徴税官3番の声は今にも消え入りそうなほど小さかった。


「貴様ぁぁぁ! エロ同人誌を朗読するときは、心を込めて! 魂を込めて! 天の神様に届くように読み上げろと何度言ったらわかるんだ!」


「ひぃぃぃ! わ、わたしには妻も息子もおりまして……なんと言いますか、どうしても二人に申し訳ない気になってしまうのです……」


「貴様あぁぁ! それはそれ! これはこれ! と言っただろう! 貴様それでも軍人か!」


「いえ、徴税官です……」


 そうだった。


 俺の大声に怯える徴税官たちを見回しながら、実のところ俺は内心ですごく焦りを感じ始めていた。


 明らかにいつもと反応が違うからだ。


 いつもの冒険者相手であれば、24時間を過ぎれば洗脳の8割くらいは完了している。後の48時間で洗脳のさらなる定着を図り、個別の性癖に合わせたモン娘ネタを用意するなどして、より深みに落とし込んでいくところだ。


 ところが徴税官たちは洗脳24時間目にしてまだ3割と言ったところだった。


 何故だ!?


 いつもの冒険者と何が違うんだ!?


 俺はかなり焦り始めていた。


 その一番の理由が「自分の顔出し」にある。

 

 徴税官たちの洗脳に自信があった俺は、覆面や仮面で顔を隠すことなく素顔で徴税官たちの教育に当たっていた。


 これが冒険者たちの場合、洗脳が完了した彼らは「新しい性癖を教えてくれた先生」として俺のことを尊敬し、感謝までしてくれる。


 そうした経験から、俺はこのカリキュラムが終る頃にはこの徴税官たちとも「ずっ友」になれると思い込んでいたのだ。


 傲慢だった! 油断した!


 このままではマズイ、非常にマズイ……。もし俺が徴税官たちを人外萌え脳に堕とせなかった場合、こいつらは俺がただの拉致と洗脳の犯罪者だとになってしまうじゃないか!


 俺は一度ゆっくりと落ち着いて考えようと、一旦休憩を入れることにした。


「よし、今から30分休憩する! シュモネーさん、みんなにお茶を出したげて!」


 よほど精神的に疲れていたのか12人の徴税官ようじょたちが、一斉に安堵のため息を吐いて、テーブルの上に突っ伏した。


 シュモネーが、午后の紅茶500mlのペットボトルを一人ひとりに配って廻っていく。


「お疲れ様です。お飲み物をどうぞ」


 ペットボトルを持ったシュモネーが近づいてくると、徴税官たちの背筋がピンッと伸びる。


「おぉ! この甘いお茶さえあれば、この苦行も何とか乗り越えられる。美しい御方よ、このルドガー・マルドゥ、心より感謝申し上げますぞ」


 女神が降臨してきたような美貌のシュモネーに微笑みかけられたルドガーは、夢見る乙女のような顔になって、その後、ニヘラニヘラしながらシュモネーの姿を追っていた。


 他の徴税官たちも似たり寄ったりの反応をしていた。


 まったく!


 フワデラさんに滅殺されても知らないからな!


 ……などと思いながら、徴税官たちの様子を見ていた俺はふとあることに気が付いた。


 こいつら! ずっとシュモネーさんを視線で追い続けてる!


 俺は天啓を得た!


 分かってしまった!


 ネフューネ村でセクハラばかりしてたようなこいつらが、エロに興味がないわけがない!


 ただ性癖の問題だったんだ!


 つまりこいつらは二次元紳士じゃなく、三次元の奴隷というだけのことだった!


 俺からジト目を向けられていることに気付かず、徴税官たちの視線はシュモネーに釘付けだった。シュモネーが講堂から出て、その姿が見えなくなる瞬間まで12人の徴税官たちの視線は彼女を追い続けていた。


 なるほど、なるほど!


  問題が判かれば後は対処するだけのこと!


 即座に俺は12人の徴税官に【幼女化ビーム】を放ち、12人の幼女をお昼寝タイムに突入させた。



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