第101話 古代寺院の怪異

 ネフューにフワデラ夫妻のことを紹介していると、お昼寝タイムが終わったルカとグレイちゃんが屋敷の玄関にやってきた。


 ルカはフワデラ夫妻を認めると軽く手を振りながら声を掛ける。


「おぉ、お主らもようやく来たのか」

「うーっ! うっ! うっ!」

 

 フワデラさんとシュモネーがルカに深く頭を下げる。


「主よ、遅くなって申し訳ありません」


「別に構わんぞ。折角の新婚旅行なのじゃから、大いに楽しむといい。じゃが、まずは、ここにいるやっかいな連中にお主の威圧を使って……」


 そう言ってルカは何かを探すかのように周囲に目を配る。


「シンイチ、あの阿呆どもはどこに行った?」


「さっき帰ったよ」


「なんじゃと!? せっかくフワデラが来たのじゃから、こいつの姿を見てお漏らしする連中の姿を見たかったのに! どうして返してしまったのじゃ!」


 ルカが悔しそうに何度も地団駄を踏む。俺はまぁまぁとルカをなだめながら、


「あの連中、お漏らしはしなかったけど、フワデラさんの姿を見て、そそくさと帰って行ったよ」


 ルカとグレイちゃんが不満そうに唸り声を上げる。


「まさかシンイチ、これで奴らの所業を許すというつもりではなかろうの? これではわらわの腹の虫がまったく収まらぬのじゃが」

「う゛ー! う゛う゛ー!」


 俺はルカとグレイちゃんを近くに引き寄せる。俺は、徴税官たちがネフューネ村から十分離れたところで幼女化し、素っ裸にひん剥いてやろうと思っている旨を二人に伝えた。


 俺たちは、ネフュー達に迷惑が掛からないように、村からどれくらいの距離を開けるかとか、正体がバレないようにはどうするかとか、こそこそ打ち合わせを始める。


「それなら良い方法がありますよ」

「ひょわっ!?」


 俺たちのヒソヒソ会話に突然シュモネーが割り込んできた。不思議なことに、屋敷についたばかりであるのにも関わらず、彼女は事情を把握しており、さらに俺たちの鬱憤を晴らすための最高のメニューを提示してくれた。


「それじゃ! それで決まりじゃな! それしかないぞ!」

「うーっ! うううっー!」


 俺もシュモネーの案に大賛成だったが、ただそれを実行するためにはいくつかの条件を満たす場所が必要となる。


「場所ならありますよ?」


 えっ?


 いま俺、考えてることを口に出しちゃってた?


 ま、まぁいいか。


 それとシュモネーの案を実行するに当たってはが必要になるのだが、さすがにそんなもの持って来てないし……。


ならありますよ?」


 そう言って、シュモネーはリュックを開いて中にが詰まっているのを見せる。


「……」※俺、無言


 シュモネーは静かな微笑を俺に投げかけている。


 銀髪とオレンジ色の瞳。その美しい顔の造形は、まるで水場に置かれている女神のものに似ている……気がした。


 うん。


 この人について深く考えるのはよそう。


 俺は片手を大きく上げて、


「はーい! それじゃタヌァカ三村会議を開きまーす! コボルト村とグレイベア村の人集合!」


 ネフューとフィーネ以外のみんなを集めてスクラムを組む。


 そして、俺たちがこれから取り組むシュモネー案について話し合った。




~ 古代寺院 ~


 ネフューネ村から馬で東に向って約1日の場所に、古い時代に建てられた寺院の廃墟がある。


 寺院がある場所は街道からはそれほど離れているわけではない。だが周囲が深い森となっており、魔物も多く出没するので、誰も近づこうとはしない。


 そのため廃寺院自体の存在は地元の人間にさえ知られていなかった。


 ただ、街道を行く人々が「森の奥から人間の悲鳴が聞こえて来た」なんて話は、いくらでもあるようだ。


 そんなことをシュモネーさんが話すのを聞きながら、俺は彼女の後にくっついて、廃寺院へ足を踏み入れていた。


 講堂らしき広間の最奥部には石像が置かれているが、その上半身は崩れ落ちている。床に転がっている頭部を見る限り男性像のようだったので、この寺院はラーナリア正教ではなかったのだろう。


 少なくとも数百年は経っていそうな寺院の外見からすると、講堂の中は意外と綺麗に片付いていた。まぁ、壊れた像以外には物が何もないだけとも言える。


「ここってそんなに怖い場所だったの? まぁ不気味な感じはするけど、魔物なんて一匹もいないし、それほど危険はない感じがするけど」


「ダーリンと一緒に全てお掃除しておきましたから」


 なんだろう。


 シュモネーの言うお掃除という言葉から、ここに巣食っていたゴブリンたちが一掃されたかのようなイメージが浮かんできたのは、何故だろう。


 そう言えば、壁に血糊をぶちまけたような赤黒いシミがある気のせいだろうか。


 うん。


 気のせいだ。深く考えるのはやめよう。


「と、ととにかく、ここなら夜も寒くないし、静かだし、条件は完全にクリアしてるよ」


「そうですか。それはよかったです。それでは私は教材を並べておきますから、シンイチ様は皆さんをお連れしていただけますか?」


「了解!」


 俺は寺院の外で待っていたフワデラさんたちの処へと戻った。


「それじゃお待たせー! みんな準備はいい? 楽しいお泊り会を始めるよー!」


「「「わー----い!」」」


 キャッキャッと楽しそうに騒ぐ十二人の幼女たちを先導し、俺は寺院の中へと戻って行った。


 もちろんこの幼女たちは、俺が徴税官たちに【幼女化ビーム】を喰らわせたなれの果てな姿である。


 これから寺院で行われることを見せるのは教育上たいへんよろしくないということで、ルカとグレイちゃん、そしてライラにはネフューネ村でお留守番してもらっている。


 これから始まる過酷な教育プログラム「人外萌え育成教育72時間コース」に、俺は身が引き締まる思いだった。


  

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