第85話 ダンジョン攻略B1F

~ ダンジョン地下一階 ~


 ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!


 俺は【幼女化ビーム(1秒)】で敵を一掃する。


≫ 小黒鬼A~Hを幼女化しました。残り……


 ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ!


 ココロチンのメッセージが終わらないうちに、小黒鬼たちの幼女化が解除される。


 【幼女化】は10分より短い時間で解除してしまうと元の身体にダメージが入ってしまう。これが1秒で解除されてしまった場合、通常の人間なら瀕死状態になってしまうのだ。


 小黒鬼たちは床の上で口から泡を吐いて倒れていた。フワデラさんとライラが一体一体に止めを刺していく。死んだ黒小鬼たちは、ドロドロの黒い液体となって床の石畳の間に沈んでいった。


「ふむ。こやつらも魔法生物のようじゃの。下手するとダンジョンの魔力が続く限り無限に湧き出てくるということもあるかもしれん」


 ルカがトンデモないことを言い出した。


「無限湧き!? こんなヤバイ連中が!?」


 ダンジョンに入って6時間。いまは地下1階を探索しているが、黒小鬼から襲撃を受けるのはこれで2度目だ。


 見た目はゴブリンに近いが色が赤黒く蝙蝠の頭を持っている。とにかく見た目が怖い。一体ずつであれば俺の底辺剣レベルでも倒せないことはないのだが、とにかく動きが気味悪い。井戸から出てくる悪霊っぽいのだ。


 これが無限湧きだと……。


「何を怯えておる、シンイチ。お前にとってはザコが無限湧きだとありがたいことじゃろうが」


 ルカが呆れ顔で俺に言う。


「あっ、そういえばそうだな」


 ふむ。俺はアゴに手を当てて考える。考えている振りをして、ルカを抱きかかえているトルネラの見事なハミ乳を観察していた。赤毛をポニーテールにしたラミア族のトルネラは妖艶な大人の美人さんだ。


 長い蛇体の上に乗る引き締まった腰の上には巨大なおっぱいが、衣服やルカの身体では隠し切れずに見事なハミ乳現象を引き起こしている。


(※補遺:ハミ乳とは女性の胸を覆い隠す何らかの布が、あまりの乳の大きさ故にその役割を果たすことができず、露出してしまっているおっぱいの状態を言う)


(ココロ:そんな解説要りません)


(シリル:ライラさんに何とか報告できないかしら)


「ごめんなさい! 勘弁してください!」


「「「「わっ!?」」」」


 突然、俺がその場でハイパージャンプ土下座を敢行したので、探索パーティーの全員が驚いて俺に注目する。


 ルカがジト目を俺に向ける。


「シンイチが頭の中の精霊とどのような話をしているのか聞いてみたいものじゃな。そのような土下座をするくらいじゃ、よほどやましいことを話しておったのじゃろう」


 ルカの言葉のおかげで、他のメンバーは俺の頭がおかしくなったわけではないと安心したようだった。ただライラだけはまだ俺のことを心配している。


「シンイチ様、大丈夫ですか?」


 俺の腕をさすりながらライラが尋ねる。


「ごめんなさい!」


「……ごめんなさい?」

 

 優しく俺の腕をさすってくれていたライラの腕が止まる。


「やましいことなどと言ったところで、シンイチのことじゃからどうせスケベな妄想の類。頭の中の精霊にセクハラでもしておったのじゃろ」


 ルカが余計なことを抜かし出す。


「セクハラ? シンイチ様の頭の中の精霊というのは女性なのですか?」


 ライラの手が俺の腕を軽く掴んだ。


「う、うん。そうだけど……で、でも声しか聞こえないから、性別はあんまりわかんないっていうか、意識しないっていうか……」


「そうですか……」


 ライラの手が離れた。


 なんだろう? この助かった感じ。




 ~ ダンジョン探索 ~


 今回のダンジョン探索は、地下1階限定のマッピングを第一の目標にしている。探索パーティーには俺の他に、ライラ、ルカ、フワデラさん、トルネラが参加している。


 隊列は、前衛をフワデラさんとライラ、その後ろに俺、最後尾にルカを抱えたトルネラとなっている。マッピングはココロチンにお願いしてある。マップは明日の神スパ利用時にA3用紙に印刷したものを買い物かごに入れてもらう予定だ。


 こんなことができるのも日頃の賄賂……お礼の成果だった。


「地下1階でまだ探索していないのはこの部屋だけじゃな」


 ひときわ大きな青銅の扉の前に俺たちは立っていた。


「ちょっと索敵してみる」

 

 視界のミニマップに大きな赤い点が表示されていた。マーカーには「▼黒大鬼ブラックオーガ Lv48」と表示されている。


「でっかい黒大鬼ブラックオーガが一体。扉の先にいる」

「ではいつものように……」


 俺はおもむろに腕を十字に交差させ【幼女化ビーム(1秒)】を放つ。 


「ジョワッ!」


 ビィィィィィィィ!


 俺の腕から放たれた光が扉を貫通していく。視界に表示されている赤い点を目安にして俺はビームを照射し続けた。


 ボンッ! ポンッ!


 音が聞こえると同時に、フワデラさんが扉を蹴破って、ライラと共に部屋に飛び込んでいく。


 幼女化は1秒なので黒大鬼ブラックオーガはすでに元の姿に戻っていた。人間であれば瀕死の状態のはずだが、さすがは中ボスというところか、やつはまだ立っていた。


「デュワッ!」


 俺は二本の指を額に当てて再び【幼女化ビーム(1秒)】を放つ。


 黒大鬼ブラックオーガは再び幼女化し1秒ですぐに元の姿に戻った。

 

 ズシーーン!


 その巨体は床に倒れたまま再び起き上がることはなかった。


 フワデラさんが大きなカタナで黒大鬼ブラックオーガの首を落とす。


「地下1階フロア攻略おめでとうございます! 続いて地下2階へのゲートを開きます。準備が整いましたら先へお進みください」

 

 女声のアナウンスがどこからともなく聞こえてきた。


 ゴゴゴゴッ


 部屋の奥の壁が移動し、そこに地下へと下る階段が現れる。


「あ、怪しさ満点だけど……どうする?」


 俺はルカや他のメンバーたちの顔を見ながら聞いてみた。


「い、一旦帰るとするかの。そ、そろそろシンイチもライラとの交尾が我慢できなくなってきた頃じゃろうし」とルカ。


「そ、そうね、戻りましょう」とトルネラ。


「そ、そうだな。この先を進むには色々と準備が必要だ」とフワデラさん。


「シンイチさまがお望みでしたらここで……」とライラ。


 ほぼ全員の意見が一致したところで俺は決断した。


「ハイ! 撤収!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る