第86話 ダンジョン攻略B10F
~ 神ネットスーパーの配達直後 ~
「おっ、佐藤さんのエルフェンリングプレイ実況してるの? いいね!」
「あっ、RTAとかじゃないですよ。そんな上手くもないんで、ただのボヤキ実況です」
「その方が、何となく自分がプレイしてるような感覚で見れるから好きなんだよね」
勇者捜索クエストでデュフデュフ動画が視聴できるようになったものの、通信ができるのは今のところ、この佐藤さんとのお昼休憩タイムに限定されているのだ。
それに天上界の制限で受信できるネット情報は、俺がこの世界に転生した時点のものに限られているので、最近配信された動画を視聴することは出来ない。
ちなみに神ネットスーパーで購入できる商品も同じような制限がある。そのため最新のスイーツ商品などについて俺は購入どころか知ることさえできない。
佐藤さんとの会話でも同じで、最近の情報については会話にぼかしのようなものが入って聞き取れなくなる。
こうした制限について佐藤さんに尋ねたら、これは転生や転移を安全に行うためのもの処置で、これを解除したままにしてしまうと、もの凄く恐ろしい存在から目を付けられるとのことだった。
なので最新の動画を視聴することはできないが、それでも今のところ全く問題ない。前世で生きていた頃でさえ、俺が一生かかっても視きれないほどのコンテンツが溢れていたのだ。
どうやら拠点であればWifi接続が可能らしいのだが、今のところ拠点はここから遥か北方のマルラナ山頂の古代神殿前だけ。さすがに動画を見るためだけに、そこまで行く気はない。
「そっスかぁ、拠点がここにもあればいいんスけどねぇ。作れないもんなんスかね」
「作れることは作れるらしいんだけど、独自に設置するにはEONポイントが3億くらいかかるらしいんだよね」
「ひょぇぇぇ! それ東京ドーム何個分になるんスかね!?」
「うん。一個には遥かに及ばないだろうね」
(シリル:東京ドームの約350億円ですから、凡そ116分の1個分ですね)
「へぇー、そんなもんスか」
佐藤さんがシリルと普通に会話していた。
「えっ? 佐藤さん、シリルの声が聞こえるの?」
「ええ、普通に聞こえるッスよ? あっ、田中さんは一般転生でしたっけ? 支援精霊が二人いるなんて珍しいっスね」
「うん。まぁ色々あってね」
「そういやシリルさんとこのスキル開発部に新人さんが入ったみたいっスよ。この間、田中さんの差し入れ届けたときに聞いたッス」
「えっ、そうなの!? ようやっと人手が増えたんだ! よかった~。確か、スキルプログラマーの松田さんが過労で倒れちゃってたんだよね」
(シリル:ちなみにその新人ですが、わたしが元担当していた勇者です)
「それってつまり……あの頭空っぽの?」
(シリル:はい。頭空っぽの元勇者、南浩二ですね)
「お二人とも、元勇者さんに厳しいっスね!?」
俺は一抹の不安を感じざる得なかった。大丈夫だろうか、あの恋愛ゲーム脳がスキル開発部の過酷な環境に耐えられるなんてちょっと想像がつかない。
(シリル:あの元勇者はミ=ゴに捕まってからずっと、学園ハーレム生活で脳みそ溶かし続けてましたからね。スキル開発部で絞られるくらいがちょうどいいんです)
「そ、そうか……も?」
「ひょへぇ、学園ハーレムなんて羨ましい限りっスねぇ。俺も勇者になりたいかなぁ」
俺が佐藤さんに元勇者がどういう状況で学園ハーレム三昧していたかを話したら、佐藤さんはかなり引いていた。
「脳みそだけで生きてるって……めっちゃホラーじゃねぇッスか。やっぱ俺はエルフェンリングでいいッス」
~ ダンジョン地下 ~
ダンジョン探索の方はサクサクと進んで、いまは地下10階まで到達していた。探索パーティーは新たに二人加わっている。
ひとりはコボルト村に滞在している海賊組からタクス。宝箱の解除や罠の発見が得意な盗賊職の青年だ。
もうひとりはハーピー族のシーナ、緑の羽毛と瞳を持ったスレンダーちっぱいの少女。とてつもなく臆病なのだが、その危機察知能力は非常に高い。
「それじゃ、行きますか」
俺はダンジョン地下10階を進む。
戦闘系のスキル持ちはフワデラさんとライラだけだ。新しく加わった二人も戦闘能力はほとんどないし、俺たちも期待していなかった。
(ココロ:進行方向15m。蛇人間8体がこちらに向かっています)
(どもども)
俺が手を挙げると後続のメンバーが歩みを止める。前衛のフワデラさんとライラ、そしてタクスが俺を振り返った。
「蛇人間が8体来ます」
全員が息を潜めてその場で待機していると、シューッシューッと微かな音が聞こえてきた。
俺は索敵レーダーに表示されている赤い点が10m圏内に入ったことを確認し、
「ジョワッ!」
と【幼女化ビーム(1秒)】を放った。
1秒後には蛇人間たちはすべて床でヒクヒクと死にかけていた。あとはフワデラさんとライラが蛇人間に止めを刺すだけの簡単な作業だ。
「しかし、シンイチ殿の索敵レーダーと【幼女化ビーム】があれば、ダンジョンではほぼ無敵ですね。我らの出番がほとんどない」
フワデラさんがやや呆れた顔でそんなことを言った
そう。壁越しでも敵の位置を感知できる索敵レーダーと、遠距離から壁を貫通して発射できる【幼女化ビーム】はダンジョン探索において無敵のスキルだったのだ。
「まぁ、そうかもね。敵の魔物よりトラップの方が怖いかも」
実際、ここに来るまで危ういと感じた場面は一度もなかった。超ビビりのシーナでさえ、戦闘が始まるまでは超リラックスモードでルカたちとおしゃべりに興じているくらいだ。
(ぴろろん! 田中真一の【幼女化】スキルがレベルアップしました。【幼女化】レベル7。幼女化の持続時間が3年になります。魔力デポジットが10%。リキャストタイムが5分になりました。幼女化ビーム直進15m。周囲1mの範囲発動が可能となりました。幼女化時に好感度が指定できるようになりました)
幼女の好感度が指定できるって……。
それでどうしろと!?
俺がココロチンとシリルに愚痴を言っている間に、とうとう地下10階の最奥部に到達した。他の階と同様、巨大な青銅製の扉がある。
索敵レーダーには扉の向こうに巨大な敵の存在が赤い点で示されていた。
「この扉の向こうにフロアボス。今までより大きい感じです」
「とうとう来たか」
フワデラさんが緊張した面持ちで言った。
「とうとう来たのじゃな」
ルカが深刻な面持ちで言った。
「それじゃ……」
俺が真剣な面持ちで言う。
「いったん帰ろうか」
みんなが黙って頷く。
そして、そのまま俺たちは地上へ引き上げた。
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