第83話 海賊
「ふ、増えてる……」
コボルト村に帰還して最初に出た言葉がこれだった。たかだかひと月しか経っていないというのに、コボルト村は1.5倍くらい拡大し、掘っ立て小屋ではないちゃんとした家屋が幾つも建設中だった。
それだけではない。
「「「「シンイヂィィィ」」」」
ヴィルとマーカスのハーレムメンバー四人がコボルト村に帰って来ていた。しかも20人の人と亜人を引き連れて。
「これは一体……マーカスとヴィルはどうしたの?」
「置いてかれちゃったのよ!」
エルザが叫んだ。
「あれは間違いなく古大陸の女遊びが目当てよね」
カレンが目に怒りの炎を燃やしている。ミモザとミッシールはヴィルに置いていかれたことが余程ショックだったのか、目からハイライトが消えていた。
「えっと、つまり皆さんはマーカスとヴィルに捨てられたと?」
「「「「捨てられてないわよ!(このDT!)」」」」
ちょっ! 俺のことDTって言ったの誰? DT関係なくない!? そもそも俺もうDTじゃないし!
「あの……シンイチ・タヌァカ様……」
ハーレムメンバーに付いてきた20人の中から代表らしき猫系の亜人男性がおずおずと俺の前に進み出てきた。
「はじめまして。おれたちは海ぞ……ガルディア号の船員でして……」
「はぁ、はじめまして」
「この度は、タヌァカ様に船員ごと船をお買い上げいただきありがとうございます。船員一同、タヌァカ様の下で働かせていただくことを光栄に存じます。この度は、そのご挨拶にお伺いしました」
「ほわっ!?」
俺は口をあんぐり開けて硬直。俺を迎えに出てきたステファンも同じく硬直していた。船員たちを指さしながらエルザが叫ぶ。
「マーカスったら、船を船員ごと買って古大陸に行っちゃったのよ! わたしたちを置いて!」
「「なっ、なんだってー!」」
俺とステファンが絶叫する。
マーカスとヴィルは、奴隷商に攫われたというヴィルの姉を追って港湾都市マクベドへと赴いた。そこで古大陸と取引をしている奴隷商会を発見する。
商会に残されている帳簿から、ヴィルの村が襲われた時期と白狼族の子どもが取り扱われていた時期が重なる記録を確認。早速二人は、その取引先に向かうべく古大陸に向う商船に乗り込んだ。
ところがその船が女海賊フェルミの海賊船に襲われてしまう。しかしマーカスとヴィルは商船の船員たちを指揮してこれを返り討ちにしてしまった。
若くて美しい女海賊フェルミを捉えたマーカスは彼女を一晩かけてじっくり説得する。結果、マーカスはフェルミの海賊船を購入し、女海賊と船員を雇い入れたのだった。
エルザが不機嫌な声で言う。
「それでマーカスとヴィルはそのまま商船で古大陸に行っちゃって、わたしたちは海賊と一緒に残されたってわけ」
「二人は別の大陸に行っちゃったのかぁ……」
俺は二人に会う機会が遠のいた気がして落ち込んだ。
そんな俺の様子を伺いながら、猫系亜人男がおずおずと話し始める。
「タヌァカ様、船長に代わりまして今回ご挨拶に伺ったのは航海士のおれと半数の船員になります。タヌァカ様が船にお越しの際は、精一杯の歓待をさせて頂きますとの伝言を船長から預かっておりやす」
「えっと、皆さんは海賊さんということで?」
俺の目に殺気が走るのを見た猫男が、全身の毛を逆立て数歩後ずさる。
「ひぇっ!?」
「俺はね。以前、山賊に襲われたことがあるんだよ。それ以来、俺の信念は『賊は死すべし慈悲はない』……」
猫男が怯む。
「発見即幼女!」
くわっ!と目を開いて俺は叫んだ。
20人の船員たち全員に動揺が走る。
ということはつまり、彼らはマーカスから俺の能力についてある程度聞かされているのだろう。
俺は腕をゆっくりと十字に交差させて【幼女化ビーム】を……
「ちょちょ、待って! 待ってくだせぇ! 元! 元ですから! 今はもう海賊じゃありませんから!」
「そんな言い訳は地獄に行ってすればいい」
「ままま、マーカスの旦那を信用してくだせぇ。おれたちじゃねぇ、マーカスとヴィルの旦那を信用してくだせぇ」
「何だと!?」
「マーカスの旦那に、タヌァカ様が怒ったときにはそう言えと……」
「ほむ」
そういえばマーカスもヴィルも俺が賊嫌いであることは十分承知のはずだ。うん。彼らが俺にただの賊を寄越すはずがない。
「うーん。俺が何かを誤解しているのかもしれん。君らは海賊だよな?」
「へ、へい。”元”ですが」
「襲った相手を殺したことは?」
「たいていの場合は交渉だけで済みますが、なかには徹底的に抗戦してくるものもおりやすので、そういった場合は戦いになることもありやした」
「捕らえた女や子どもを奴隷にしたことは? 彼らに乱暴を働いたことは?」
「とんでもありやせん! おれらを何だと思ってるんです!?」
「海賊?」
「その通りですが、フツー海賊はそんなことしやせんぜ! ヤクザな商売じゃありますが、ちゃんとお上の免札も取ってやってました」
(シリル:田中様、この大陸の海賊というのは一種の私掠船のようなものです。完納旗印を掲げていない船は、海賊に襲われるリスクと引き換えに税金を納めなくて済みます。また海賊たちは彼らから奪った積荷のうち数パーセントを国に治めています。グレーゾーンのお仕事ですね)
「そうなのか……そりゃ誤解して悪かった」
俺が【幼女化ビーム】の体勢を解くと、船員たちがほっと安堵のため息をついた。
「じゃ、じゃぁおれらを雇っていただけるんで?」
「どういう意図があるのかさっぱりわからんけど、マーカスやヴィルの信頼に応えないわけにはいかないからな」
俺は両手を広げて船員たちを歓迎した。
「ようこそ、コボルト村へ!」
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