第82話 支援精霊シリル
(あっ、見つけた!)
俺は廊下を歩いているモブ少女に近づいて話しかけた。
(あの……支援精霊さんですよね?)
俺の声に気づいたモブ少女はキョロキョロと周囲を見回すと、廊下の端に移動して小さな声で答える。
「えぇ、その通りです。わたしは支援精霊シリルと申します。支援精霊をご存じということは貴方は転生者ですよね?」
(はい。一般転生っていうのかな、田中真一って言います)
「ということは、貴方にも支援精霊がいますよね?」
シリルの質問にココロチンが答える。
(田中様の支援精霊ココロです。勇者と支援精霊の現状とここに至るまでの経緯についての情報をお願い致します)
「了解」
モブ少女が目を閉じて眼鏡に指を掛ける。しばらくまぶたがピクピク動いた後、パッと目を開いた。
(情報ありがとうございました)
ココロチンとモブ少女の情報交換はほんの一瞬で終了した。シリル(モブ少女)が俺の方に視線を向ける。
「現状についての詳細は、後ほどココロからお聞きいただければと思いますが、田中様には2つほどお願いしたいことがございます」
(なんでしょうか?)
「ひとつは、田中様が発見されたこの勇者の脳が入ったカプセルを妖異回収班へ引き渡すこと」
まぁ、この状況じゃそれが当然の流れか。
(構いませんよ。この会話が終わったら早速ココロチンに手続きしてもらいます)
「ありがとうございます。それともうひとつのお願いですが、わたしを田中様の支援精霊にしていただきたいのです」
(な、なんだってー!)
一応、話の流れ的に驚いてみせたが、実際はよく分かっていなかったので、それほど驚いてはいない。
(俺にはもうココロチンという心に決めた女性がいるのですが……)
(キモチワルイのでそういうのやめてください)
(カタカナで罵倒されると胸にこうぐっと刺さるよね。シリルさんの言っている意味の解説をよろしく、ココロチン)
(田中様の立場から見れば、単純に精霊二名体制で支援を受けることができるということになります)
(それって、ココロチンの立場から見て負担になったりしないの?)
(いいえ、むしろ交代制が取れるので少しは楽できるかもしれませんね)
「私は勇者支援精霊ですので、現在ココロが提供しているものとは異なる支援サービスを田中様も受けられるようになりますよ」
(ほう? 例えばどんなの?)
「神出前艦のデリバリーや拠点サービスが利用できるようになります」
(拠点サービス?)
「フィルモサーナ大陸の各地に存在する拠点と呼ばれている場所に到達すると、次からEONポイントを消費することでその拠点にテレポートすることが可能となります」
(なにそれ凄い!)
「ちなみに、この古代神殿前が拠点となっておりますので、私を受け入れた後にそこへ行っていただければ拠点登録することができますね」
(んー。でもシリルが俺のところに来たら勇者が何か困るような事態になったりしない?)
「まずないでしょうね。この夢の世界に来てからというもの、勇者様と私以外の支援精霊はずっとここでの生活を楽しんでいるようですから」
シリル(モブ少女)がムッとした表情になる。
「もう私の存在なんて忘れてしまっているんじゃないかと思いますよ」
(もしかしてシリルの他に支援精霊が三人いたりする?)
「えぇ、田中様もご覧になられたかと思いますが、勇者様のハーレム(R18)メンバーの三人です。それはもう毎日毎日、所かまわず、あちらこちらでズッコン、バッコンと」
(まじかぁ……やっぱりあの三人かぁ……)
「ええ、あの三人です」
(うらやましい……)
「はい?」
(えっ、あっ、いや、それでシリルは俺のところに転属したいってことね)
(そうです)
(俺はそれで構わないけど、ココロチンはどう?)
(わたしの方は問題ありません)
「それでは……」
(うん。これからよろしくね、シリル)
「転属申請……受理……許可が下りました。支援精霊シリル、これより一般転生者、田中真一様の支援に入ります」
目の前からモブ少女の姿が消える。
(シリル:それでは田中様、今後ともよろしくお願い致します)
(うん。こちらこそよろしくシリル!)
(ココロ:それでは妖異回収班に脳カプセルの回収申請を行います。田中様、奇妙な装置から離れてください)
俺が奇妙な装置から離れると視界が現実のものに引き戻される。ライラが心配そうな顔で俺を見つめていた。
「ただいまライラ!」
「シンイチ様!」
ライラが俺にギュッとしがみついてきた。
(ココロ:妖異回収班30秒で到着するとのことです)
(シリル:回収が終わったら一度、神殿の外にある拠点に移動してください。登録しますので)
(わかった)
俺は妖異回収班に脳カプセルを引き渡した後、シリルに案内された場所に移動して拠点登録を行った。
「ここでの用事は全て終わったし、帰ろう!」
そうして俺たちは山を下りた。
(それにしても……あの勇者、夢の中とはいえずっとあんなハーレム生活を続けていたのか)
(シリル:ええ、ずっとあんな感じでした)
うらやましいな畜生!
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