第69話 出会いは突然に
俺は森の奥でビームのポーズを開発していた。
「ショバッ!」
パッと腰を落として手を十字に交差させる。
「デュワッ!」
振り向きざま眉間に両手の二本指を当ててポーズを決める。今は【幼女化】のリキャストタイム待ちなのであくまでもポーズだけだ。
「ジョゥーワッチ!」
こんな姿見られたら恥ずかしくてもう村には戻れないかもしれない――なんて思いつつも、俺は新たなビームポーズの開発に余念がなかった。
俺はいつの間にかグレイベアの巣穴に向かう獣道上に立っていた。まぁ、もし獣でも出てこようものなら【幼女化ビーム】の実験台になってもらうとしよう。
~ コカトリアン部隊 ~
バシリコックは精鋭20名を引き連れて二列縦隊で強行軍を続けていた。彼らとすれ違う者たちはことごとくその視線によって硬直させられ、彼らの吐く毒霧によって命を奪われていった。
コカトリアンの部隊はもう間もなく巣穴へ到着するだろう。そうすれば力を失ったドラゴンを屠った後、その巣穴を我らの新しい住処とするのだ。ドラゴンが目を付けた場所であるからには、普通の穴倉なわけがない。
古代の宝か魔力の鉱石か何があるのかは分からないが、いずれにせよそれらの全てが間もなく自分のものになるのだ。わがバシリコック王国の始まりの場所となるのだ。
「ごげげげげえぇえぇ!」
バシリコックは高笑いする。
「ごげっ!?」
バシリコックは目の前に突然現れた人間の子どもに驚いて進行を停止する。先頭が急に立ち止まったため、続く縦隊に一瞬動揺が走ったが、すぐに隊列は立て直された。
「あっ!?」
人間の子どもと目が合った。
こうしてドラゴンに反逆する眷属コカトリアンたちとシンイチは、思わぬところで偶然の出会いを果たしたのであった。
最初に動いたのはバシリコックであった。こんな森の中に子どもが一人で何をしているのかなどと彼がいちいち疑問を抱くことはない。生き物に出会ったのなら、いつものように【硬直視線】を放って動きを封じるだけだ。
バシリコックがさっと手を挙げると、後続の部隊は毒霧を吐き始める。獲物がこの毒霧を少しでも吸ってしまえばその命は尽きる。この強行軍中、何度も繰り返されてきた行動であった。
ただいつもと違っていたのは、獲物がシンイチであったことと、そしてシンイチは超人光線を発射するポーズを決めたまま硬直していたことだった。
「【幼女化ビーム】!」
びぃぃぃぃぃぃぃ!
直進するビームがバシリコックと後続のコカトリアンまで貫通する。
バシリコックは獲物が恐怖のあまり叫び声を上げたのだと思っていた。他のコカトリアンたちもほぼ同じようなことを考えていただろう。
不思議なことが起こった。
人間の子どもの身体が急に大きくなって、その背丈がコカトリアンたちが見上げるほどまで高くなったのだ。
一体何が起こっているのか?
その謎をバシリコックや他のコカトリアンたちはついに解き明かすことはできなかった。
彼らにそんな時間は残されていなかった。
そして――
毒霧を吸い込んだ幼女(コカトリアン)たちはバタバタと倒れて絶命してしまった。
~ トラウマ ~
「な、なんということを……俺は……」
目の前には毒霧を吸い込んで死んだ21体の幼女の遺体が横たわっていた。事情を知らない第三者がこの現場を見れば、俺を電気椅子に送ることをためらうものは一人もいないであろう。
ゴブリンのときもそうだったが【幼女化】は死亡するだけでは解除されない。発動時間が尽きるか、解除を掛けるまでそのままなのだ。そして現在のスキルレベルでは俺には解除することができない。
「あわわわわ」
俺の身体は硬直したままだった。
最初、森の中で変なポーズの練習を見られたことや幼女の死屍累々を目にしたショックで自分が動けないのだと思っていた。
しかし、実際はバシリコックの【硬直視線】によるものだった。硬直解除がとけるまでの約10分間、俺はこの悲惨な現場から目を逸らすことさえできないままだった。
「こ、これはまたトラウマが……」
硬直している間、コカトリアンの毒霧が俺の方に漂ってきて焦ったけれど、たまたま運よくつむじ風が背後から吹いてきて毒霧をかき消してくれたので事なきを得た。
硬直が解けると俺はログを確認した。
≫ コカトリアン19を幼女化しました。残り時間 364日 23:45:55
≫ コカトリアン20を幼女化しました。残り時間 364日 23:44:48
≫ コカトリアン【バシリコック】を幼女化しました。残り時間 364日 23:44:28
≫ EONポイントを1万6千ポイント獲得しました。
≫ 続いて獲得可能アイテムをマークします。
▼ コカトリアンの毒剣 × 6
▼ コカトリアンの尻尾 × 21
▼ コカトリアンの頭毛 × 21
▼ コカトリアンの解毒薬 × 8
(以下略)
視界にある幼女たちの遺体はすべてコカトリアンであることをマーカーで確認することができた。
もし、このマーカー表示がなかったら……正直、一時的発狂を発症していたことは間違いないだろう。現に、マーカー表示があってもなお、俺の膝は震えていた。それほどに恐ろしい景色なのだ。
ガサッ!
その音はただの風が起こした枝の触れ合う音だったのかもしれない。
だが……
「うわぁぁぁぁぁ!」
俺は全速力でコボルト村へと駆け出していた。
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