第70話 現場検証

「ふむ。この死に様はコカトリアンの毒にやられたと考えて間違いあるまい」


 森に横たわる幼女たちの遺体を検分したルカがそう結論づける。


 俺が顔を真っ青にして帰ってくるのを見たネフューは、俺から事情を聞くとすぐにルカを伴って現場へ駆け付けた。俺とライラ、そしてフィーネも一緒だった。


 現場に戻るまでの間、ライラは今にも倒れそうな俺をずっと支えてくれていた。俺が幼女(コカトリアン)たちの遺体を見て吐いてしまったときも、ライラは優しく介抱してくれた。


 ネフューが遺体のひとつにしゃがみ込んで検分する。


「鳥毛のような髪の毛と、背中にある鱗と小さな尻尾から見るにコカトリアンたちの特徴を捉えている。シンイチの【幼女化】が元の生物の外観的特徴を遺す特性を考慮すれば……」


「こやつらはコカトリアンで間違いなかろう。こいつの目……」


 ルカが巣穴方向の先頭で倒れている遺体を見て言った。


「間違いない。こやつはバシリコックじゃ。こやつのこの捻くれた目つき、忘れようがないわ……とはいえ」


 倒れている全ての遺体に目を向けてルカが言う。


「こんな姿になって倒れているのを見ると、反逆者共とて憐れを感じずにはおれんのう」

 

 俺は再び嘔吐した。


「なにシンイチはよくやってくれた! お前が気に病むことは一切ないぞ! こやつらがここにくるまでの間にどれだけ悪辣なことをしてきたか。今はまだ見えておらずともすぐに聞こえてくるはずじゃ。そういう輩なのじゃ」


 そもそも俺は襲われかけていたわけだし、頭ではコカトリアンが危険な連中であることはわかっているのだが、それでも目の前に広がる景色は俺のトラウマとして残り続けることになるだろう。


「遺体はぼくたちで片付けておくからシンイチは先に村へ帰るといい。ライラ、シンイチを頼む」


「さぁシンイチ様、村へ戻りましょう」

「あ、あぁ」


 俺はライラに支えられて再びコボルト村へと戻った。


 最後に俺はルカがバシリコックと呼んだ幼女(コカトリアン)の遺体に視線を送り、心の中で彼らの成仏を祈った。




 ~ ココロチン ~


(ココロチン、【幼女化】が解除ができるようになるのはいつなんだっけ)


(レベル9ですね。レベルMAXのひとつ手前になります)


(それって結構な数を【幼女化】しなきゃなれないんだよね?)


(そうですね。10万回必要です)


(おうふ……解除できないと今後どんどんトラウマを抱える場面が増える気しかしないんだけど……)


(それでしたら、効果持続時間のデフォルト設定を短くしておけば良いですよ)

(へっ?)


(特に指定しない場合、【幼女化】はスキルレベルの最長の効果持続時間となりますが、デフォルト設定しておけば変更が可能です。オプション指定の場合、魔力デポジットが不足してリキャストタイムが発生する度にリセットされます。しかしデフォルト設定の場合はずっと設定が維持されますね)


(もっと早く知りたかったぜ……じゃ、早速デフォルト設定しておくよ)


 ココロチンが設定画面を表示してくれたので、俺は【幼女化】のデフォルト設定を行った。


≫ デフォルト設定

≫ 【幼女化持続時間】1時間

≫ 【幼女化意識状態】幼女意識

≫ 【幼女化ビーム】貫通


 【幼女化意識状態】は幼女意識と意識継続が選べたので幼女を選択。【幼女化ビーム】は通常と貫通が選べたので、とりあえず貫通に設定しておく。


 これでもし敵が幼女のままで死んだとしても、1時間後には元の姿に戻っているというわけだ。本当は、死亡した瞬間に元の姿に戻って欲しいけど贅沢は言うまい。


 あまり無理を言ってしまうとスキル開発部の方々が過労死してしまいかねない。工夫して何とかできるところは工夫でカバーしていこう。




 ~ ルカちゃん ~


「しかし、さすがはシンイチじゃ! 正直、わらわに反旗を振りかざす連中の中では、コカトリアン共が最もシンイチのスキルとは相性が悪いと思っておったからのぉ」


 ルカが練乳チューブをちゅぱちゅぱ吸いながら、ライラの腕をちゅぱちゅぱ吸っている俺に向かって言った。今の俺はライラに背中から抱きかかえられるような姿勢で座っている。


 俺はトラウマを盾にしてライラに公然とやりたい放題させてもらっているのだ。


「まぁ、大変なことがあったばかりだし、今はシンイチが甘えたいだけ甘えさせてやってくれ」


 ネフューもライラに素晴らしい提言をしてくれたよ。まぁ、その提言がなくてもライラならいつでも甘えさせてくれるだろうけどな。


「コカトリアン共がやっかいなのは毒霧を吐くので近づくのが難しいことと、視線で相手の身体を硬直させるスキルじゃな。【硬直視線】とか言ったか」


「それならちゃんと受けちゃったよ。身体が硬直して動けなかった」


「それでよくやつらを一網打尽にできたものじゃのう」


「ほんと……今回はただただ運が良かった。それだけだよ」


 もし光線ポーズの練習をしている状況で硬直していなかったら、一方的になぶり殺しにされていたはずだ。


「あっ……」


 俺は無意識にライラの腕を強く吸っていた。ライラの白い肌にうっすらと赤い跡が残る。


「ご、ごめん」


「い、いえ……ご満足なされるまでお好きになさってください」


「ライラ……」


「シンイチさま……」


 俺の手がライラの頬を撫でる。


「ふぅ、まぁ今日は大変だったじゃろうから、せいぜいライラに慰めてもらうがよいわ!」


 ルカが練乳チューブを口に咥えたまま手を振って部屋を出て行った。 


「ライラ……」


「シンイチさま……」


「……」※沈黙


「……チュッ」


 ガバッ!


 3時間後、俺はぐっすりと眠ることができ…… 


 るかなと思ったら、隣で眠るライラがあまりにも『まじてんし』だったので彼女にイタズラしているうちに――


 ガバッ!


 そこから1時間後、ようやく俺とライラは泥のように眠ることができたのだった。



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