第31話 ハーレム展開(俺以外)

 コボルト村の朝は早い。


 俺が洞窟の前の広場で早朝のラジオ体操を始めると、子コボルトたちが集まって来る。


「ロフィ、コティ、ロラス、コリン、ロロス、おはようさん」

「「「「「シンイチおはよー!」」」」」


 ちなみにコボルト族は、男は「ロ」、女は「コ」から始まる名前を付けるようだ。


「ちゃん、ちゃーか、ちゃかちゃか、ちゃん、ちゃーか、ちゃかちゃか」


 俺が歌いながら運動を始めると、子コボルトたちもみようみまねで動きについてくる。


「ちゃらーん!」


 ラジオ体操を終える頃になると、マーカスが救出した5人の女性たちが俺のところにやってくる。


「それじゃ、今日も申し訳ないですが……」


 顔にこそ出さないが、彼女たちがこれから俺がすることを嫌がっているのを肌で感じていた。女性のそういう空気に敏感なんだよ。俺は!


「「「「「はーい!」」」」


 子コボルトたちは俺の前に綺麗に整列する。俺は順番に子コボルトに【幼女化】を掛けていく。幼女になった端から、子コボルトたちは周囲を駆けまわってはしゃぎ始めた。


 どうやら、コボルトのときと幼女のときの身体感覚の違いが面白いらしい。


「それじゃ、皆さんもすみませんが……」


 彼女たちの顔に少し緊張が走る。


「いきますよ、3、2、1、はい!【幼女化ビーム】!」


 という感じで5人それぞれに【幼女化ビーム】を放って幼女にした。


 最初は普通に【幼女化】しようとしたんだけどね。


 俺が手に触れようとしたら、サッと引っ込められたんよ。ちゃんと事前に説明したのにも関わらずよ? アルコール除菌シートで手を拭いてから触れようとしたのによ?


 マーカスにはいちいち小さいことで凹むなと教育指導を何度も受けている。


 でも前世からずっとDTを続けているDT達人の俺には、女性の嫌悪の込められた目線をスルーするなんてハードル高過ぎるのよ。


 自分でも情けないとは思うけど、もう面倒くさいので彼女たちには【幼女化ビーム】を使うことにしたのだ。


 それにしても、毎日の【幼女化】はコボルト村で保護されている彼女たちが支払う対価なのだ。いちいち文句を言うなとは思う。


 まぁ、彼女たちから直接文句が出たことはないけど。


 ともあれ、朝昼夜の計3回、コボルト達と合わせて一日当たり30回の【幼女化】を行っている。この調子で行けばそう遠くない日にスキルレベル6に到達できるだろう。


 朝食の時間になる頃には彼女たちの【幼女化】も解けていた。


(それでだ!)


(なんですか。特に用事がないのであれば呼び出さないでいただきたいのですが)


(いや、これはどうしてもココロチンに聞いてもらいたい!)


(な、なんですか?)


(あれらを見給えよ!)


 俺はマーカスとネフューとヴィルに目を向ける。天気も良かったので今朝の朝食はみんな広場に集まって取っている。


 それではマーカスに目を向けてみよう。


 ほら、マーカスの左右に腰かけているのがカレンとエルザだ。ほらほら、エルザがマーカスの口元に干し肉を持っていて食べさせてますよ!?


 うらやましくない!?


 おやおやカレンさんたら、マーカスの腕を取ってその豊満なおっぱいをぎゅーって形が潰れる程押し付けているじゃないですか。おっぱいってあんなに柔らかいものなんですか? ちょっと、あれっていいんですか? 教育委員会は何してるの?


 うらやましいな畜生!


 俺知ってるよ。カレンさんの肌が艶々な理由知ってますぅ! DTセンサー舐めんな! 昨日はマーカスとお愉しみだったんですよね!


(ねっ! 絶対あの二人やってるよね?)


(知りません! なんでわたしに聞くんですか!)


(そうですか他人事ですかココロチンにとってはどーでもいいことですよね。なら、あれ見て、ネフューとフィーネ。俺、エルフと言えば銀髪緑目のスレンダーさんが超タイプで、フィーネがまさにドストライクなんすよぉ!)


(わたしの知ったことではありませんが!?)


 二人はもう朝食を終えたらしい。フィーネが頭をネフューの肩に寄せて何やら楽し気に会話しているのが見える。女性が心底楽しそうにすると、あんな風に周りに幻想的な花が咲くのか。


(ふおぉぉぉぉ!)


(ちょ、ちょっと大丈夫ですか? おちおち、落ち着いてください!)


(いいからあれも見てよ、ココロチンンン!)


 俺が指さす方向には、ミモザとミッシールの二人の少女に食事のお世話をされて照れているヴィルの姿があった。


(ココロチン、惑星破壊爆弾の発動を申請する! これは本気だ!)


(みんな幸せそうで良かったじゃないですか。それもこれも田中様が頑張られたおかげですよ。彼らだって感謝しているはずです)


(そ、そうかもしれないけど……そうかもしれないけどぉぉぉ)


 そういって泣きながら食事をしていた俺の口を、幼女が干し肉でつんつんと突いてくる。


 俺の周りでは5人の幼女が一緒に朝食を取っていた。


「シンイチ、ナク、ナゼ?」


「ホシニク、タベル、シンイチ、ゲンキ」


(ほら、田中様も幼女の皆さんに好かれているではないですか)


 いや、そもそも幼女は守備外だし、

 そもそも、コボルトだし、

 そもそも――


「ホラ、シンイチ、ニク、タベル」


 ロフィが俺の口に干し肉を押し付けてくる。


 こいつは幼女でコボルトで男だし!


 どうして俺はこうも女性と縁がないのか。もういっそのことコボルトでもいいのでは?


 もう種族なんて越えてしまえばいいのでは!?


 いいよね? ねっ?


 周囲に展開するハーレムによって極限まで追い詰められた俺は、とうとう種族の垣根を越えるべく女コボルトの方へと目を向けた。


 女コボルトたちはロコや他の男コボルトたちの膝の上で楽しそうに食事をとっていた。


 畜生めぇぇぇぇ!





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