第19話 索敵機能
みんなで話し合った結果、ハーレムパーティがゴブリンの洞窟に向かう前に一度協力を申し出ることにした。
それで同意が得られたら共に戦い、断られた場合にはハーレムパーティが洞穴に入ってから、その後の状況を見て対処しようと言うことになった。
一番楽なシナリオは、彼らが俺たちの提案を断り、その後、彼らがゴブリンを退治して洞窟を去ったところで洞窟を占拠するというものだ。
俺たちが先行してゴブリン退治するというのは全員一致でNGだった。
その場合、ハーレムパーティは何もせずにクエスト条件達成となり、彼らが報酬を受け取るだけだからだ。
「まずは話し合いからだね」
俺がそういうとマーカスとヴィルが苦虫を潰したような顔をした。
「ふむ。シンイチとぼくが行くしかなさそうだ」
「そうだね。この二人がいると逆に戦闘になる予感がする」
「たぶんそうなるだろうな」
マーカスがそれが当然だと言わんばかりに応える。
「あと話し合いの際には、一緒にロコを連れて行くといい。ロコには悪いが奴らの本音が聞けるはずだ」
「別に今回のゴブリン退治だけの付き合いなんだから、本音とかどーでもよくない?」
俺が聞くと、マーカスはニヤリと笑って、
「ゴブリン退治のついでにコボルトも退治されかねないし、その群れのリーダーも狙われるかもな」
「そこまでなのか!?」
「たぶんそれ以上だよ」
~ 見張り ~
ネフューとロコが街道でハーレムパーティが来るのを見張ることになった。俺はキャンプで子ども相手に【幼女化】を続けている。
もしパーティーが来たら、ロコが俺を呼びにくる手筈だ。
マーカスとヴィルがゴブリン洞窟に斥候に向かう。
翌日、斥候から戻ってきたマーカスからゴブリン洞窟の現状について報告を受けた。
「出入りの数と足跡を見る限り、俺もネフューとだいたい同じ数なんじゃないかと思う。最大で20体。ただ他に出入り口が無ければの話だが」
「おっちゃんに言われて山をぐるっと一回りしてきたけど、他の出口らしき穴や足跡は見つからなかったよ」
ネフューが頷く。
「ハーレムの連中は今日はまだ現れていない。念のためロコと交代で夜も見張ることにする。シンイチ、【幼女化】のスキルアップはどこまで進んでる?」
ネフューが尋ねる。
「あと40回。就寝前にもう5回するから、35回かな」
「そうか。いまのところ焦る必要はないが無理すれば明日中になんとかできなくもないか」
その日はそれで解散となった。ネフューはロコのところへ戻り、残った俺たちはそのまま就寝する。
(ココロチン、ココロチン)
(なんでしょうか?)
(そういえばココロチンって索敵できるよね?)
(はい。現状では範囲28mまで索敵が可能。マップを表示することもできます)
視界に円が現れる。円の中心近くにはたくさんの青白い点が表示されている。
(おぉ、ココロチンさまマジスゲェ。えっとこれって直径28mなの?)
(半径です。青い点は田中様が味方と認識しているもの、赤が敵性存在になります。これは田中様が敵と認識したものだけではなく、田中様にとって危険と見なされる存在とお考えください)
(田中様へ注意を向けている存在は黄色、無関心な存在や無害な野生生物などは緑の点で表示されます)
すげぇ、ココロチンにこんな機能があったなんて……。
(他にも凄い機能があったら教えてよ)
(それはもう無数にあるのですが、基本的にはレベル等の条件が満たされた時点での開示となります)
(そうか仕方ないね。でも今はこの索敵だけでも十分だよ。これって障害物があっても大丈夫なの? 例えば洞窟の外から中にいるゴブリンとか検知できたりする?)
(検知可能です)
(マジか!)
(マジです)
翌朝、俺は自分の索敵能力についてみんなに話した。
「なので、俺が洞窟に行ってバシッと索敵してくるよ」
ところがネフューもマーカスもそれには反対する。
「そのスキルは確かにすげぇと思うが、坊主の足じゃゴブリンに見つかったときに逃げ切れないかもしれねぇ」
「そうだな。実際に洞窟に入る段になったときに中にいるゴブリンの数と位置を教えてくれれば十分だよ」
「そうなの……」
俺は大活躍できると期待していたので、ちょっと凹む。
「外から洞窟の中のゴブリンの居場所がわかるなんざ、十分どころか十二分のありがたさだぜ。うまくいきゃ誰も傷さえ追わずにゴブリン共を一掃できるかもしれねぇからな!」
マーカスが俺の背中をバシンッと叩く。
「痛ぇよ」
文句を言う俺の口はニヤッと笑っていた。
~ 夕方 ~
斥候から戻ったマーカスとヴィルは暗い表情だった。何事かあったことを察した俺は、男コボルトの一人にネフューを呼んでくるように伝えると、彼は急いで駆けて行った。
全員が揃ったところで二人の報告を聞く。
「まずいことになった」
マーカスが口を開くと、ヴィルも黙ったままうんうんと頷く。
二人の話によると、つい先刻、ゴブリンがどこからか攫ってきた人間たちを引き連れて洞窟の奥へ消えていったということだった。
「男が一人と女が三人、子どもが二人だ。それと……」
ヴィルが顔を横に背け、ネフューが目を細める。マーカスが絞り出すような声で続けた。
「首と身体が離れた遺体が四……」
重々しい沈黙が周囲に落ちる。
ガサガサッ!
草をかき分ける音がしてみんなが一斉にそちらの方向を向くと、そこにはロコが息を切らして立っていた。
「ばしゃ、くる、ぶき、もつ、たくさん」
「もしかしてハーレムパーティか?」
「そうかも知れない。ぼくが見てこよう。彼らが野営し始めたら戻ってくる。みんなは休んでいてくれ」
そう言ってネフューは暗闇の中へ消えて行った。
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