第18話 クエスト受注済み

 現在、我がコボルト軍団は、男6人、女4人、子ども5人で構成されている。ちなみに雄とか雌とか一匹二匹とか言わない。今ではもう彼らは仲間なので。


 子コボルトたちは、ほぼ一日中俺と一緒に過ごしている。


 俺は彼らに【幼女化】(1時間)を繰り返し発動している。リキャストタイムは30分なんだけど、子どもたちになるべく負担がないように持続時間は1時間にしている。


 子ども一人当たり1日5回の発動。就寝時に女コボルト4人と男コボルト1人にも1回だけ協力してもらって、1日で計30回の【幼女化】スケジュールを組んだ。


 大人と違って子どもの順応力が高いのはコボルトも同じだ。


 子コボルトは【幼女化】しても平気で遊びや採集に夢中になって飛び回る。【幼女化】が解けると、自分から俺のところへ「幼女化して!」と駆け寄ってくる。


 一方、大人コボルトはなかなか幼女化に慣れないようで、幼女になると基本的には大人しくじっとしていた。


 コボルトたちの協力によって【幼女化】スケジュールが順調に回り始めたころ、街に出掛けていたマーカスとヴィルが馬を連れて戻ってきた。




 ~ マーカスたちの報告 ~


「ゴブリンのクエスト? あぁ、あるにはあったぞ。依頼主はここから少し南の方だったから、受注しちまおうかと思ったんだが、その前に別のパーティーに取られちまってな」


「やな感じの奴らだったぜ、兄ちゃん。イケスカナイ奴らだった」


「亜人を見下してる連中でな。ちとヴィルと揉めそうになった」


「トラブルになったの?」


「いや、受付の姉ちゃんが途中で止めに入ったから何もなく終わったよ。まぁ、その前にヴィルがリーダーらしい男に蹴りを入れてたがな。あれはいい気味だった」


 そう言ってマーカスがヴィルの頭をなでると、ヴィルが嬉しそうに尻尾をパタパタさせる。何があったのか知らないけど、結果的に二人の仲が深まったのなら何よりだ。


 マーカスの話を聞いたネフューが顎に手を当てて少し考え込む。


「ふむ。ということはあのゴブリンたちはそのパーティーが駆除するのか」


「あのゴブリンたちってのは?」

 

 マーカスの問いに俺が軽く説明する。


「ネフューがこの近くの山の中にゴブリンが住んでいる洞窟を見つけたんだよ」


「ぼくが見たのは8匹だったが足跡はもっと多かった。20匹はいると想定しておいた方がいいだろう」


「そんなに数がいるのか!? あのパーティーじゃ到底無理だな」


「そうなの?」


 マーカスの話によるとそのパーティは6人編成。リーダー格の男を除いて他全部が若い女性らしい。


「なにその破滅確定テンプレ編成!?」


 思わず俺は思っていたことをそのまま声に出してしまった。


「テンプ……がなんかよくわからんが、破滅確定ってのはあながち間違ってないぜ。戦士と奴隷らしい拳闘士はそれなりの手練れみたいだったが、あとの連中はわからん。服装で神官だけはわかったが、あとは魔術師と盗賊といったところだろうな」


「その編成自体は悪くない。寧ろ恵まれていると言える」


「そこはネフューの言う通りだが、なんにしろリーダーがあれじゃなぁ」


「あれじゃ駄目と思うよ、兄ちゃん」


「あれじゃわからん」


 詳しく聞こうと……思わなかった。他人のハーレムパーティーなんてどうでもいいや。


 どうでもいいことはさておいて、俺はマーカスとヴィルにコボルトたちの居住地の話をした。


「ネフューがコボルトたちが住むのに適した場所を見つけてくれたんだ。さっきのゴブリン洞窟とあと2つ、ひとつは環境はいいけど街道に近くて、もうひとつも環境は良いけどグレイベアの穴倉」


「ならゴブリン洞窟一択だな」


 マーカスが即答する。


「街道に近いのは論外だ。まだ噂でしかないが、数年以内に魔王との戦いが始まるらしい。もし本当なら今後は街道の往来が多くなるだろう。その際に見つかる可能性が高い」


 魔王……そういえば勇者の転生はどうなっているのだろう。勇者にはきっちり魔王を倒してもらわないと、やはり枕を高くしたまま眠れそうにない。


「グレイベアだが、そこに住み着いてるってことはグレイベアにとって住みよい環境なんだろう。今いるのを倒した後も、その後の対処をきっちりやっておかないとまた別のグレイベアがやってくる恐れがある」


 ちらっとネフューを見ると、彼はマーカスの意見に同意しているようだった。ということは最初からゴブリンの洞窟に決まっていたということか。


「ゴブリンなら、倒して住処を奪っても誰も文句言わないし、むしろ奴らに襲われる犠牲者を減らすことになるわけで間違いなく感謝される。もちろん他のゴブリンがまたやってくる可能性はゼロじゃないがかなり低い。それにしっかりと防御を固めてさえいれば、奴らの方が避けていくさ」


「ということは、さっきのハーレムパーティの活躍に期待ってこと?」


「いや、そりゃ期待薄ってとこだろうなぁ。下手すると全滅しちまうかもしれない」


「そんなに駄目なの? 強そうな人もいるんだよね」


「だがリーダーがアホだと、強さを出せないままに全滅しちまうこともあるんだよ」


 マーカスが遠い目をして言う。


 そういえばマーカスは元傭兵で、部隊が全滅したって言ってたか。まさかアホなリーダーってマーカスは自分のことを言ってるとか。


「おい。坊主、俺はアホじゃねえからな。アホなリーダーに振り回されて散々な目にあった末に奴隷にされちまったんだ」


 それってやっぱりアホなんじゃ……。


 マーカスが鋭い目で俺を睨んだ。


 言葉に出さなくても考えてることがわかるなんて、俺たちのパーティーはいつの間にか深い絆で結ばれていたんだね。


「お前は考えてることがいちいち顔に出てるんだよ!」


 おうふ。


 俺は口を一文字にしてもう何も考えないと固く決心した。






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