第20話 ハーレムパーティとの交渉
俺は【幼女化】のレベルアップをあと1回というところで止めた。
レベルアップ時にも【幼女化】の発動回数がリセットされるのを利用して、戦闘時に1回分多く【幼女化】を連発できるようにしたのだ。
ただ実戦ではすぐにビームが必要になる場面が来るかもしれない。そうした事態にも即対応できるように1回分だけに止める。
ココロチンには次のレベルアップから使えるようになる幼女化ビームの発動手順を確認しておく。
(【幼女化ビーム】って叫べばいいですよ。周りから見たら頭のおかしい変態以外の何物でもありませんが)
うん。聞くまでもなかったよ。というか聞いて心を凹まされた分、損したよ。
「シンイチ、そろそろ行けそうか?」
ネフューが声を掛けてくる。俺たちは、今夜のうちにハーレムパーティと合流してゴブリン退治で連携する相談をすることにしたのだ。
洞窟に捕らわれている人たちには一刻の猶予もない。
ネフューと俺とロコの三人は森の暗闇の中を急いだ。
~ ハーレムパーティの野営場所 ~
「「「わっ!」」」
「な、なんなんだお前ら……」
焚火を囲んで酒盛りをしていたハーレムパーティの六人は、暗闇の中から突然ヌッと現れた長身のエルフに驚いていた。
女戦士と拳闘士、女盗賊の三人はさっと立ち上がって身構える。女僧侶と女魔法使いが慌てて手にしていた飲み物をこぼしてしまったようだ。
リーダーの男が酒袋を持ったまま三人の女の後ろで固まっていた。
「一応、声は掛けたつもりだったんだが聞こえていなかったようなので、驚かせてしまって申し訳ない」
「あんた誰だよ!?」
「ぼくはネフュー・シンダリン。冒険者だ。こっちがシンイチ、彼も冒険者で、その隣にいるのがロコ。シンイチの……従者だ」
「いきなり何の用だ!」
まだ驚きが覚めないのだろう、リーダーの男が声を荒げる。いつの間にか女戦士は剣を抜いて構えていた。
「探知」
俺が口の中で小さくつぶやくと視界に彼らについての情報が表示される。
▼ 剣士(♂) Lv21
▼ 戦士(♀) Lv30
▼ 奴隷拳闘士 (♀)Lv26
▼ 僧侶(♀)Lv16
▼ 魔術師(♀)Lv17
▼ 盗賊(♀)Lv19
基準はよくわからないけど、これってゴブリン相手ならそこそこ通用しそうなレベルじゃないのか。
Lv17のヴィルがゴブリン5匹くらいなら余裕で勝てるって言ってたし。まぁ、闘技場で同じ武器という条件付きだけど。
『ゴブリンを決して侮るな』
ネフューが真剣に俺に伝えようとした言葉が俺の脳裏を過ぎる。
そもそもレベルやステータスだけで単純に戦力が図れるわけないし、しかも洞窟という相手のホームグランドで戦うのだから、もし彼らと共闘できたとしても油断は禁物だ。
ネフューが話始める。
「実はこの先にゴブリンたちが住み着いている洞窟を発見した。その時はちょうど奴らが狩を終えたばかりだったらしく、捕らわれた6人の人間が洞窟の中へ連れていかれるのを見た。何とかして助けたいと悩んでいたところへ、あなた方の姿が見えたのでこちらにお邪魔した次第だ。できればゴブリン退治に協力して貰えないだろうか」
「フンッ」
リーダー格の男が鼻を鳴らした。これは俺でもわかる「俺がここにいて幸運だったな、せいぜい感謝しな」だ。
「あんた、俺がここにいて幸運だったぜ。俺たちに精一杯感謝することだな! そのゴブリンは俺たちのクエストの獲物なんだよ!」
もしかしたら俺は予知能力に目覚めたのかもしれない。あんなドヤ顔までは予測できなかったが。
「なっ、こいつは幸運だったよな!」
「「「幸運だねーっ」」」
女僧侶と女魔術師と女盗賊が声をハモらせる。女戦士は声こそ上げなかったが大仰にうんうんと何度も頷いていた。女奴隷拳闘士だけはただ黙ってネフューを睨んでいた。
それにしても森に囲まれた夜の街道でバカでかい声出しやがって……。魔物でも呼び寄せたいのか。いくらレベルが高くても、俺の中でこいつらの評価はザコレベルに落ち着きつつあった。
「それはありがたい。そうであれば、ぼくたちにもぜひ協力させてもらいたい。もちろんクエスト報酬の分け前は不要だ。現取りだけ許してもらえばそれで構わない」
現取りは冒険者の隠語で、クエスト報酬を受け取らず、敵を倒した際に持っていたお金やアイテムを山分けするというものだ。
「あんた、クラスは?」
「ぼくはクラスB冒険者だよ」
「「「「「えっ!?」」」」」
女奴隷拳闘士を除くハーレムパーティの全員がハッと息を呑むのがわかった。ということはこいつらはC以下ってことか。
「そ、そうか……まぁよろしくな」
リーダーの男は自分の冒険者クラスを答えなかった。基本的に他のパーティーと組む場合、冒険者クラスがより高位の者がリーダーを務める。
つまり、この男はハーレムパーティーの主導権を渡したくないのだろう。
ネフューも敢えてその点を突くようなことはしなかった。
「で、あんた一人だけか?」
ハァ?
何言ってんのこいつ。ネフューも戸惑いながら後ろにいる俺とロコを指し示した。
「いや、彼らとあと他に仲間が森の奥にいる」
「彼ら?」
リーダー男が目を凝らし、ようやく俺たちの存在に気が付く。そして目を見開いて叫んだ。
「おいおい! 亜人と獣人連れてんじゃねーか! んな、薄汚ねぇ奴らと協力なんかできっかよ!」
おーし! お前は今から俺の敵だ!
俺たちを薄汚ねぇと抜かしやがった! おう、おう、幼女にすっぞゴルァ!
……と思ったし、顔にも出ていると思うけど、一応交渉はネフューに任せているので俺は黙っていた。
黙ったまま、この6人をどうやって【幼女化】するか脳内シミュレーションを開始する。
「ゴブリンは俺らが退治すっから、お前らはとっとと森の奥の巣に帰りやがれ! 臭ぇんだよ」
「ぷっ!」
「ちょっ、ステファン、右のは人間だよ! 亜人って酷くないwww」
「ぶっさいくな獣なんかと一緒に戦えるわけないじゃない」
「「「ぷーくすくす!!」」」
女僧侶と女魔術師と女盗賊が思い思いの悪口を並べる。
おーし、お前らも敵だ!
だいたいハーレムにいる女なんてそれだけで敵だかんな! 畜生! 泣いてないぞ、悔しくてないてんじゃないからな!
俺がいつでも【幼女化】を発動できるよう体の重心をわずかにずらすと、それに反応して女戦士と女奴隷拳闘士が身構えた。
女盗賊も高笑いを止めて警戒姿勢を取る。
ちょっ、この女たち怖い!
ネフューが俺の方を向いて視線で大人しくしているように伝えてくる。
「そうか……残念だ。ではゴブリン退治は貴方にお任せして、ぼくたちは失礼するとするよ」
「あぁ、とっとと失せな!」
俺たちが森の中へ戻っていくと後方から笑い声が上がる。
交渉は、マーカスとヴィルのほぼ予想通りの結果となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます