第10話 レベルアップ

 冒険者ギルドでの登録はエルフ男がサポートしてくれたおかげで何事もなくスムーズに終わった。


 何事もなかった。


 俺の隠された才能が判明して周囲が驚愕!


 ――なんてことは欠片もなかった。


 普通に書類に記入して、身体検査みたいなことして、説明受けて、登録料を支払って、それで終わり。


 マーカスのおっさんだけ木剣を使った実技試験みたいなのがあったけど、俺とヴィルにはなかったよ。


 貧乳だけど美人の受付のお姉さんが、ぼくたちに冒険者カードを手渡す。


 結果

 マーカス・ロイド > クラスC冒険者

 ヴィルフォランドール > クラスD冒険者

 シンイチ・タヌァカ > クラスE冒険者


 ちなみにエルフ男はクラスB冒険者だ。


 知ってたよ。


 どうせ俺は何をやっても駄目なやつなんだよ! 畜生!


「まぁ、これから頑張っていけばいーじゃねーか。なっ?」


 俺の肩を叩きながらマーカスのおっさんが言う。

 

「兄ちゃん気にすんな! 兄ちゃんならすぐSクラスになれるって!」


 Sクラスとは大きく買い被ってくれちゃって……ヴィルは良い子だな。そう言って俺はヴィルの頭をなでなでする。


「シンイチの年頃なら最低のFが普通なんだ。かなり良い方だと思うよ」


 エルフ男の言葉に俺の耳がピクッと反応する。


 貧乳だけど美人の受付のお姉さんも俺のしょんぼりした様子を見てフォローを入れてくれた。


「シンダリン様の仰る通り、シンイチ様の年齢であれば一般的にクラスFからのスタートとなります。ここの受付を始めて3年になりますが12歳でクラスEの方は初めてですよ」


 そうなの!? 俺、ちょっと凄いの?


 俺の中で自分に対する自信とお姉さんへの好感度が急上昇した。


 お姉さんがエルフ男に視線を向ける。


 まるで子犬が主人にご褒美をねだるときのようなキラキラとした瞳だった。


 視線に気づいたエルフ男がお姉さんにうなずくと、お姉さんの頬が真っ赤に染まる。


 貧乳なのに雌の顔しやがって!


 どうせこのエルフ男がイケメンだからでしょ!


 イケメンのご褒美が欲しくて俺のフォローをしただけなんでしょ!


 お姉さんへの好感度がリセットされた。


 その後、俺たちは宿に戻って当面の方針について話し合った。


 話し合いの結果、とりあえずパーティーリーダーはエルフ男ということに決まった。


 当面の間、俺はエルフ男の指導を受けて冒険者として最低限の技能を身に着けることに重点を置く。


 受注するのは採取クエストかお使いクエストに限定し、マーカスのおっさんからは剣術、エルフ男には弓と体術の手ほどきをしてもらうことになった。


「俺も拳闘術なら教えてやれるんだが」


「シンイチの【幼女化】は相手に触れる必要があるので、わたしの体術の方が恐らく適していると思う」


「体術ってナニ?」


 説明するより実際に見せた方が早いと考えたのか、エルフ男はマーカスを立たせて彼に殴り掛かってくるように言った。


 マーカスはやれやれと言いながら、いきなり鋭いパンチをエルフ男に放つ。


「なっ!?」


 次の瞬間にはマーカスは床の上に倒れ、その首と腕をエルフ男によって押さえ込まれていた。


「「すげぇ!」」


 俺とヴィルは目を丸くして驚いた。確かにこれは俺のスキル向きだ。少なくとも幼女化ビームが使えるようになるまでは必須の技術になるに違いない。


「先生、ご指導よろしくお願いします!」


 俺は腰を90度に曲げてエルフ男に礼をした。




 ~ 打ち合わせ ~


 俺の【幼女化】スキルが使い物になるのは幼女化ビームが使えるようになってからだというのはみんな同意見だった。問題はいかに早くレベルを上げるかだ。


「レベル3になれば、亜人を【幼女化】できるようになるんだよな?」


「そだね」


「ぼくとマーカスでゴブリンを捕らえて、それをシンイチが【幼女化】すれば足りますね。集落を狙えば一気に数をこなせるのでは?」


「そだね」


「でも、レベル3まで50回の【幼女化】はどうすんだ?」


「そこだよねー」


「……」※沈黙


「……」※沈黙


「……」※沈黙


「……」※沈黙


 沈黙を破ったのはマーカスのおっさんだった。


「やるしかねぇ」


「なにを?」


「交代で【幼女化】するしかねぇ!」


「「えっ!?」」


「そだね」


 俺たちは相談の上、大人二人がローテーションを組んで【幼女化】することになった。


 起床時にマーカスのおっさんかエルフ男のいずれか一人を【幼女化】(+1回)する。


 それが解除されたらもう一度【幼女化】(+1回)。


 そのままクエストに向かうのだが、採取クエストのポイントに着く頃には【幼女化】の効果時間が切れて解除されている。


 クエストから戻ったらもう一度【幼女化】(+1回)。


 夕食後に【幼女化】して(+1回)、就寝前に【幼女化】(+1回)。


 こうして1日5回、10日後に俺はめでたく【幼女化】スキルをレベル3に引き上げることができた。


(ぴろろん! レベルアップしました。各ステータス値が向上しました。【幼女化】レベル3。幼女化の持続時間が1日になります。魔力デポジットが18%。リキャストタイムが40分になりました。対象者の意識継続が可能になりました。亜人系種に効果が及ぶようになりました) 


「【幼女化】がレベル3になったみたい」


 俺がレベルが上がったことを告げると大人二人が――


「こ、これでヴィルも【幼女化】できるようになったんだよな?」

「【幼女化】しても意識をそのままにできるんだね?」


 と喰いつき気味に聞いてきた。


 さすがに連日【幼女化】は堪えたのだろう。マーカスのおっさんとエルフ男はかなり憔悴していた。


 俺にとってもこの10日はとても長かった。とても。


「兄ちゃん、おめでとー!」


 【幼女化】ルーチンワークについてずっと蚊帳の外にいたヴィルだけが元気だった。


 それにダメージを受けているのはマーカスのおっさんとエルフ男だけではなく、冒険者ギルドの貧乳だけど美人の受付のお姉さんにまで被害が及んでいたりする。


 今や俺たちは、幼女を連れ回しているパーティーということで宿屋や冒険者ギルドで妙な注目を浴びるようになっていた。


 貧乳だけど美人の受付のお姉さんは、エルフ男の面影のある幼女を見てかなりの衝撃を受けたようだった。


「シンダリン様が子持ちだったなんて……」

 

 お姉さんの目に涙が浮かぶ。


「だよねー! やっぱりネフューさんの面影あるよー。ねっ、兄ちゃん!」


 ヴィルに止めを刺されたお姉さんが床にくずれ落ちる。


 その様子を見ていた俺とマーカスのおっさんも、精神疲労が蓄積していて面倒だったのでお姉さんに何のフォローもしなかった。





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