第9話 役立たないマイスキル
「それじゃ改めて自己紹介しよう」
とりあえずその日の宿屋を決めた俺たちは、食堂で食事をとっていた。
「俺はマーカス・ロイド。傭兵だ。前の仕事で傭兵部隊が壊滅しちまってな、必死で逃げていたら、下手うって気が付いたら奴隷商人に売り払われてた。坊主がクエストで喰ってこうってんなら俺を前衛に使うといい。あと剣術も仕込んでやるぜ」
「ぼくはネフュー・シンダリン。冒険者をしながら旅を続けている。魔女の館で油断して捕まってしまい、身ぐるみ剥がされて奴隷にされた」
「オレは白狼族のヴィルフォランドールだぜ兄ちゃん! 9回の冬が来る前に故郷の村が海賊に襲われて、俺と姉ちゃんは奴隷にされちまったんだ。姉ちゃんを探すために屋敷を脱走したんだけど、奴隷商に捕まっちまった。兄ちゃんには本当に感謝してる!」
賊に襲われて……それを聞いた俺は犬耳少年に一気に同情した。わかる。わかるぞ少年。賊っていうのは最悪だ。
よし、兄ちゃん決めた。今後、賊は山賊だろうと海賊だろうと発見次第、即殲滅だ。
「あと、オレの名前なげーから、ヴィルって呼んでくれよ!」
俺はヴィルの頭を優しくなでなでした。パタパタと尻尾が振れる。
ちなみに後ほど少年が俺のひとつ年上であることが判明したが、それでもヴィルは俺のことを「兄ちゃん」と呼び続けた。
三人の話が終わったので、俺も改めて自己紹介をする。
「俺はシンイチ・タヌァカ。見ての通りの子供だ。坊主とでもシンイチとでも好きに呼んでもらって構わない」
三人がジト目になっているが俺は気にしない。
「二日前、気が付いたら森の中に素っ裸で放り出されていた。いま自分がどこにいるのかもわからない。昔の記憶はあるが、何もかもがこことは全く掛け離れていて、見聞きするものすべてに違和感しかない」
せっかく出来た仲間になるべく嘘はつきたくないが、何もかもぶちまけても却って不信がられるかもしれない。
「ふむ。精霊にかどわかされたのかもしれないな」
エルフ男が言った。
「神隠しってやつか」
おっさんが続ける。神隠し……まぁ転生もある意味似たようなものか。
「なら坊主は故郷に帰りたいってとこか?」
「いや。特にそんなことはないかな。少なくとも今は。どちらかというと今いるこの世界で生きる術とか地盤とか、そういうのを確保したい」
「そうか。お前は恩人だ。さっきも言ったが俺たちがこの世界で生きていけるよう色々教えてやるぜ」
おっさんがそう言うと、他の二人も頷いて賛同の意志を示してくれた。
「ぜひよろしくお願いします」
俺が立ち上がって三人に深く頭を下げると、彼らはポカンと口を開けて固まっていた。
「まったく……生意気なんだか、しっかりしてんだか、面白い坊主だな!」
「アハハ」
「なははは」
みんなとの絆がちょっと深まった気がして俺は嬉しかった。
~ 深夜 ~
冒険者登録してクエストを受注できるようになるまでお金は節約しようというマーカスの提案で、宿は二人部屋を取り、俺とヴィルがベッド、大人二人が床で眠ることになった。
みんなが寝静まった頃、俺はココロチンを呼び出して現状と今後についての話をした。
(ココロチンは止めてください)
(いや、奴隷馬車で俺に
(
(やつの場合は「ちん」がひらがなだから違うだろ。文字列検索で「ちん」を検索しても「チン」は引っ掛からない。そういうことだよ)
(意味がわかりません)
(まっ、俺が泣いて喜ぶようなサポートをしてくれたら呼び方はまた考えてもいい)
(まぁ、ようやく落ち着いて休めるようになったんだし、ココロちんには色々聞いておこうと思ってな)
(いま「チン」がひらがなでしたけど?)
(これから冒険生活を送ることになるんだけど、いま俺が使えるスキルで戦いに使えそうなものってある?)
(ありません)
(即答!?)
(あえて言えば【幼女化】ですが発動させるには相手に触れる必要があります。それに発動対象が人間以外の場合、亜人系ならスキルレベル3、獣や魔物の場合はレベル6が必要になります)
(おうふ)
(ちなみにスキルレベル5になると【幼女化ビーム】で5m先の対象に幼女化を発動させることができるようになります)
(なるほど何とか早急にレベルを引き上げたいところだな。ちなみにレベル6までにどれだけの【幼女化】を発動させる必要があるんだ?)
(レベル6の場合まで通算1000体の発動が必要となります)
(ほわっ!?)
(はい。ちなみにレベル5までは400体、レベル4まで100体、レベル3まで50体ですね)
(まずはレベル3を目指して50体か……)
(ちなみにレベル3になると、対象の意識をそのままで幼女化させることができるようになりますね)
(つまり中身がおっさんのままで【幼女化】もできるってことか。一体誰得なんだ?)
他にもまだまだ訪ねたいことはあったが、疲れが溜まっていたせいか、俺はいつの間にか寝落ちしていた。
翌朝、俺はみんなに自分の使えるスキルとその条件についての説明をした。
話しを聞いた三人は、俺に憐れみと残念さが入り混じった視線を向ける。
なんだよ! 俺のスキルに文句でもあるの!?
俺が戦えないとか思ってる? やろうか? やってやろうか?
お前を幼女にしてやろうかぁぁ?
……と、俺は涙を見せないよう床を見つめながら、そんなことを考えていた。
「まぁ、なんだ……その……なんとかなるさ。なっ」
「そ、そうだ。ぼくたちが支えるから安心するといい」
「そうだぜ! 兄ちゃんは俺が守ってみせらぁ!」
慰めないで!
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