第8話 旅の仲間3
馬車に閉じ込めた幼女たちを放置すると決めた俺に三人が驚愕の表情を向ける。
「あの子たちを檻に閉じ込めたまま置いて行くのか?」
「こんなところに子どもたちを置いたままにはできないよ」
「兄ちゃん、さすがにそれはないよ」
おっさんとエルフ男だけでなくケモミミ少年までもが俺を非難し始めた。
うん。やっぱり面倒くさい。
俺はおっさんに手招きする。
「んっ、どうした?」
おっさんが近づいてきたところで、俺はその手を掴み【幼女化】スキルを発動。
「イェスロリータ!」
ボンッという音と共に立ち昇った煙がおっさんを包み込む。
煙が晴れるとそこにはおっさんの姿はなく、代わりにポカンとした顔の幼女が立っていた。
「なっ!?」
「なんだこれすげぇー!」
エルフ男とケモミミ少年が驚く。
頭の中にココロの声が響く。
(魔力デポジットが100%を超えました。リキャストタイムが過ぎるまで【幼女化】を発動することはできません)
魔力デポジット? リキャストタイム? ナニソレ?
(魔力デポジットは【幼女化】発動の際に要求される魔力です。【幼女化】自体は魔力を消費しませんが、スキルの発動に当たっては
ふむ。スキルを使う際に魔力の消費はないが、魔力自体が残ってない状態ではスキルが使えないということか。
(田中様の【幼女化】スキルは現在レベル1。この場合、魔力デポジットは【幼女化】発動1回につき全魔力の20%分ずつ増えていきます。これが100%を超えた場合、リキャストタイムが経過して魔力デポジットがリセットされるまで【幼女化】を使うことはできません)
おっと、そういえばついさっきも4人を幼女化してたんだっけ。しばらく幼女化が使えないということか。
(肯定。現在のリキャストタイムは60分。その間【幼女化】は使用できません)
つまりこの【幼女化】スキルは、魔力を消費することはないが魔力デポジットで発動回数にキャップが掛けられているってことなんだな。
ちゃんと使い時を考えないと危険だな。
「どど、どいうことだ?」
エルフ男の困惑した声によって俺の意識が現実に引き戻された。目の前ではエルフ男が硬直から立ち直って全身をワナワナと振るわせていた。
俺は両手を軽く振ってエルフ男に落ち着くように言いながら彼の質問に答える。
「まぁ、そういう魔法だよ。俺は人間を幼女にすることができるんだ」
「よ、幼女に……する……する? だ、だとしたら、いまこの男を子供に変えたように、檻の中の子供達も……」
「そういうこと。まぁ3時間たったら元に戻るけどね」
「そ、そうか、戻るのか。よかった……。ところで檻の中の一人は奴隷商人だと思うのだが、他の三人は何に戻るんだ?」
「山賊。俺を襲ってきた連中だ」
「兄ちゃん、山賊をやっつけたのか! 俺と同じくらいの年なのにすげぇ!」
やっつけたという感覚はないけど、まぁ褒められて悪い気はしないな。
「つまり三時間後には、あの檻の中は奴隷商人と三人の山賊が収まっているということか」
「そだね。連れて行く必要ある?」
「うーん……ない……かな」
エルフ男はまだ呑み込めないところがあるようだったが、とりあえず現状を受け入れることにしたようだった。
「まっ、そういことで街に行くとしますか」
そう言って俺が幼女(おっさん)を馬に乗せようとすると、
「兄ちゃん、馬連れていこうよ! オレ馬乗れるよ!」
ケモミミ少年が言った。なるほど荷馬車の馬がいたな。俺がエルフ男に顔を向けると、彼はうなずいて荷馬車から馬をはずす。
そして、俺がケモミミ少年の後ろに乗り、エルフ男が幼女(おっさん)を抱えて馬に乗り、最後の一頭はエルフ男がロープで引いて行くこととなった。
~ 三時間後 ~
三時間過ぎるとおっさんの幼女化が解け、今はエルフ男が引いていた馬におっさんが乗っている。
おっさんには幼女になっていた間の記憶はなく、エルフ男から事情を説明されても素直に受け入れることが難しいようだった。
「うーん。どうにも信じがたいが本当のようだな」
「やっぱり実演してみせようか?」
俺がエルフ男に視線を向けると、エルフ男がビクッとなって首を振る。
「いやいや、本当に本当だ。そもそも思い出してくれ、ぼくたちが外に出たときには彼と子供しかいなかった。奴隷商人はどこへ行ったんだ? 直前までやつとこの少年の会話が聞こえていたじゃないか。突然、蒸発したとでも言うのか」
「どちらかというと蒸発したって方が、子供になったというのよりは信じられるんだが……まぁ、わかったよ。それで納得するさ」
「匂いはわかんなかったけど、あのDちゃんって子の目と髪の色は奴隷商人と同じだったよ」
「そうだったか?」
「そうだ! 確かにあの子供の目と髪は奴隷商のものだった!」
おっさんが疑問を差し挟むとエルフ男が慌ててフォローを入れた。それほど幼女化されるのが怖いのだろうか。
俺が再びエルフ男に視線を送ると、彼は目を背けて馬を少し後退させた。
ぐふふ。イケメンをイジメるのは楽しいなぁ。
俺は懐に収めた金貨の袋を確認する。これは奴隷商人から譲ってもらったもので、決して奪ったわけではない。
これはDちゃんに甘いマウンテンベリーと交換して受け取ったものだ。
うん。正当な取引だった。
俺はほくほく顔で街へと向かったのであった。
~ 奴隷商会 ~
「確かに奴隷証文を確認しました。奴隷契約の解除ということでよろしいですね」
「はい」
奴隷商会の受付嬢は大変綺麗でグラマラスなお姉さんだった。
それにしても奴隷商会って……まぁこの世界の常識がどうなってるのかしらないけど、現時点ではどうにも受け入れられそうにない。
「それではマーカス・ロイドさん、奴隷契約解除となります。後ろを向いてください」
おっさんが受付嬢に背中を向けると、彼女は魔法陣が彫られた銀製のスタンプのようなものを首に押し当てた。
銀のスタンプが離れたときには、さっきまでおっさんの首にあった奇妙な紋様が綺麗さっぱりなくなっていた。
「次はネフュー・シンダリンさん、どうぞ」
エルフ男にも同じようにして首から紋様を消す。
「では白狼族のヴィルフォランドールさん」
犬耳少年の紋様もめでたく綺麗に消去された。それにしても長い名前だな。
「それではタヌァカ様。こちらがお預かりしていた保証金となりますので、お受け取りください。また奴隷契約をご利用の際にはぜひ当商会をよろしくお願い致します」
受付嬢が俺に深々と頭を下げた。そのとき胸がチラっと見えたのを俺は見逃さなかった。
見逃さなかったがそのまま視線を外すことができなかったので、再び頭を上げた受付嬢にニヤリという感じのニコッとした笑顔を向けられた。
やべ、童貞だってバレちゃったかな。
いや今の俺ならそれが普通か。
「またのお越しをお待ちしております」
俺たちは奴隷商会を後にした。
~ 十分後 ~
奴隷商会から戻ってきた保証金は、マーカスのおっさんとエルフ男ネフューとヴィルフォランドールにそのまま手渡した。
「いいのか?」
「当面のやりくりするお金が必要でしょ。まぁ、俺は奴隷商人にたくさん交換してもらったから大丈夫」
「そうか。坊主にはまた借りが出来ちまったな」
「ありがとう。助かるよ」
「兄ちゃん、太っ腹だ! ありがとな!」
「いいってことよ!」
ガハハハと芝居がかった大笑いをしながら、俺がヴィルフォランドールの頭をなでなですると、よほど嬉しかったのか尻尾をバタバタと激しく動かしていた。
「それで、おっさんたちには早速恩返しをしてもらいたいんだけど」
「おう。何でも言ってくれ」
「出来る限りのことはしよう」
「なになに? 俺なんだってするよ!」
今何でもすると言ったか? あっ、エルフ男は言ってないか。賢しいやつだ。これだからイケメンは。
ケッ。
「詳しい話は全て省略して、端的に言うと、俺はこの世界のことをほとんど知らない。とりあえず今のところお金もあるし、できれば今日からは屋根の下で眠りたい。できれば仕事して金も稼げるようになりたい。既に知っての通り、俺は多少の魔法が使えるから冒険で稼げたらなお嬉しい」
「はぁ……坊主、しっかりしてんなぁ。よし、そんなことでいいんなら俺は力を貸すぜ」
「ぼくは冒険者をしている。手伝えることはたくさんあるだろう」
「やっぱ、すげぇ兄ちゃんだったんだな! 俺は兄ちゃんに付いてくぜ! 姉ちゃんの手がかりがつかめるまでだけどな!」
こうして俺はこの世界で初めての旅の仲間を得ることができたのだった。
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