第5話 救世主ココロチンさま!

(ジィ……)


「さっきは助けてくれてありがとう。俺がどれだけ感謝しているか言葉だけではとても伝えられないけど、ココロチンさまには一生の感謝を捧げさせていただきます」


 返答はなかった。けど俺は頭の中にココロチンの存在を感じていた。ココロチンは俺とのコンタクトをどのようにするか思案しているような気がする。


 脳内に女性の声が聞こえてきた。


(わたしはココロチンではありません。それはあのキモオタが勝手にそう呼んでいただけです)


「ん?」


 無機質で抑揚の少ない語り口だが、俺を危機から救ってくれたマジ天使の声に俺は感動していた。


「それじゃあ本当の名前は……」


(わたしは”ココロ”……)


「おにいちゃん誰と話してるのー」

「ねぇねぇ、これ見て!キレイな石見つけたよ!」

「むぅ。おしっこ……」


 いつの間にか幼女がまとわりついて俺の手や足を引っ張っていた。


 これじゃココロさまとお話することができない。俺はまず優先度の高いタスクから順に処理していった。


 しばらくドタバタした後、今幼女たちはそれぞれが俺にもたれかかってお昼寝タイムに入っている。いや子供の寝顔って本当に天使そのものだよな。


(ジィィィィィィィィィ)

 

 そういえば頭の中で会話できるんだよな。いちいち声を出してココロさまと話してたら、周囲からはブツブツ独りでしゃべってる怪しい人になってしまう。


(あらためて、はじめましてココロさま。貞操の危機を救われて貴方に生涯の感謝をささげることを誓った田中真一です)


(はじめまして田中様。わたくしロリコン殲滅事案発生即通報型支援精霊オペレーターココロと申します。今後、田中様の性癖矯正社会隔離を支援させていただきます)


(へっ!?)


 クール……というか一切の感情を絶った無機質な声が頭の中で響く。


(わたくしに感謝を捧げてるとのことですがその必要はありません。田中様をお助けしたのはわたくしの仕事ですから当然のことをしたまでです。それに正直に申しますと、先程は田中様を助けるかどうかナノマイクロ秒ほど躊躇しました)


(なんで躊躇したの!? そういうのやめて!? ピンチのときは迷わず助けて欲しいのですが!?)


(まず最初に大切なことをお話いたします。わたくしの座右の銘は「ロリコン死すべし慈悲はない」です。これは絶対に覚えておいてください)


(は、はぁ……?)


(山賊にロリコン田中様のお尻がどうこうされようと、わたくしにとっては全くもってどうでもよいことだったのですが、もしここで田中様に死なれてしまった場合、わたくしはあの気持ち悪い上司エンジェル・キモオタから直接報告を求められるかもしれません。それだけはどうしても避けたかったのでお助けしただけのことです)


(おいちょっと待て! 聞き捨てならねー! 俺はロリコンじゃねーよ!? あいつと一緒にするんじゃねぇ!)


 俺はロリコンなんかじゃない。それだけは確信を持って断言できる。今だって俺にもたれ掛かって寝ている幼女たちに対して、俺のリビドーはピクリとも反応してないからな!


(もしかして、その子たちに劣情を抱かなかったからセーフとか思ってます?)


(そうだよ! あきらかにセーフだろ!?)


(わたくしの気味の悪い上司エンジェル・キモオタを比較対象とした場合は、確かに田中様でもセーフかもしれません。しかしその場合、人類ほぼすべてがセーフということになりますが? 田中様はご自身がロリコンではないと、この証拠映像をご覧いただいても言えますか?)


 ピロッ!と音がして視界にウィンドウが現れた。続いて動画が再生される。そこにはエンジェル・キモオタとの会話の中で暴かれた俺の秘蔵のコレクションが映し出されていた。


(これらを見てもまだロリコンであることを否定されますか?)


 コレクションの中から駆逐艦少女があられもない姿になっているような同人誌が次々と目の前のウィンドウに表示される。


 くっ……たしかに駆逐艦はマズイ、マズイけど……。


(よ、じゃねーしだし! セーフ! 二次元だしセーフ!)


(……)※審議中


(……)※審議中

 

(ギルティ)


(ノォォォォ!)


(ロリコン……)


 マジか……俺はロリコンだったのか……やっぱり……。


(もしかしたらほんのちょっとそうかも知れないなと思ったことはあるが……まさか俺はロリコンだったのか)


(ようやくご自身の性癖と向き合うことができたようですね。ぴろろん! 田中真一は最低ドクズ野郎から最低クズ野郎に昇格しました!)


(ああそうですか……あはは)


(さて、田中様をいじるのはこの辺までにして、まずは現状の危機的状況からの脱出をする方法について提言いたします)


(弄る……って、今のやりとりは全部冗談だったの?)


(いえ間違いなく田中様はロリコンです。最低クズ野郎ではありますが、まだ犯罪に手を染めておらず、更生の余地も期待できることから、まずは生存するための支援を優先します)


 くっ、いちいち当たりがキツイ。でも危機的状況ってのが気になるからスルーするぜ。


(幼女化の残り時間が10分を切りました)


(えっ? それってこの幼女がまた山賊に戻るってことか?)


(肯定。現状、幼女化中の記憶はないため多少の混乱はするでしょうが、すぐに田中様への性的暴力を継続しようとするはずです)


(幼女化って重ね掛けできないの?)


(可能ですが、現状では掛けた時点から2時間延長されるだけとなります)


 いそいで俺は幼女たちに幼女化スキルを使った。これであと2時間の猶予ができるはずだ。


 さて、これからどうするか……。


(ココロの支援って具体的にどんなのが受けられるんだ?)


(支援内容のリストを表示します)


 俺の視界に一つずつ項目が表示されていく。


【支援精霊ココロのサービス一覧】

・田中殿とお話してくれますぞ。開示可能な情報は全て答えてくれますから色々聞いてみると良いですなwww

・索敵範囲は20m。マップも作れますぞ。さらに範囲5mの重要アイテムや人物について情報を表示してくれますなwww

・ココロちんが無機質な感じで対応してくるのはデフォですな。冷たく見下すような態度はおそらく我輩と田中殿だけですなwww 気長に好感度を稼いでいけばいつかきっとデレる日が来るはずですぞwww


(あのブタ上司……文章改ざんしていたとは……)


 ココロの声に怒りが漏れ出ていた。


 もしココロに実体があったら、きっと今頃こめかみがピクピクしていることだろう。


 それにしても文章の改ざん?


(いえ、なんでもありません。ブt……上司が勝手に説明文に手を入れてしまったようです。とはいえ概ねこの通りです。デレる日がくるという点以外はこの通りです)


 なんだろう……面倒くさい。この精霊面倒くさい。





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