第4話 いきなり命と貞操の危機

「お父さん、お母さん、異世界に来て約5分。もうすぐ会いに行けそうです」


 いま俺は、すでに他界している両親に宛てて、脳内で手紙を書いている。


 そういや俺もこの異世界に他界しているわけだが、このまま死んだら両親に再会できたりするのだろうか。


 なんてことを考えているうちに、いつの間にやら俺はむっさい3人の野郎に取り囲まれていた。


 おそらく山賊だろう。


 なぜならここは山道だし、3人の服装も装備も見た目も口調も、その他のありとあらゆる要素が山賊っぽいから。


 そしてこの3人の中心で、片膝ついてしゃがんでいるのが俺というわけだ。


 素っ裸ですわ。


 異世界のどこぞとも知れぬ山道の、山賊に囲まれた状態で、フルチン状態ですわ。


 なに? 俺ってどこぞのAIと戦う未来から送られてきた戦士なの?


 転生にあたっての初期装備とか一切ないの?


 バカなの死ぬの? 死ねっ! というか死ぬっ!


 山賊に囲まれたこの状況、恐らくあと数分で死ぬわ俺っ!


 そんな心の葛藤をガン無視して、山賊たちが俺の顔を覗き込む。


「なんでこんなところに、素っ裸のガキがいるんだよ?」


「小綺麗な身体してるな。どっかの貴族の坊ちゃんが、誘拐されでもしたか」


 山賊の一人が、全身ガクブル状態となっている俺の腕を、乱暴に引っ張って全身のあちこちを確認する。


 ナニコレ怖い! こいつら超怖い!


 あまりの恐怖で、涙と汗と鼻水が、だらだらと流れ出し始めた俺の様子など一切気にすることなく、山賊たちは勝手に話を進めていく。


「それにしちゃ怪我のひとつもねぇ。親に捨てられたんかもな」


「誘拐なら、親元に返せば謝礼がたんまり貰えそうだが……」


「捨てられてんなら市場へ連れていくか。いろいろと面倒だし、売り払っちまう方がいい」


(金になると踏んでくれるのなら、とりあえず命は助かるか……)


 と少し気を緩めた次の瞬間、山賊たちがトンデモナイことを言いだした。


「それにしても綺麗な身体だな。とりあえず遊んどくか」

「そうだな」

「よしっ!」


 山賊が俺を押し倒し、三人で暴れる俺を押さえつける。


「嘘だろっ! おい、やめろ! 畜生!」


 必死で暴れても、三人が掛かりで抑え込まれていては抵抗に意味はない。


 いやいや、俺はDT捨てる気はあっても、処女を捨てる気はないぞ!


 ちょ、ちょ、ちょ助けて、助けて!


 このっ!


 頭が真っ白になった。


「やめろっつってんだろぉぉ!」


 俺が力の限り絶叫したその刹那、


(スキルの発動を進言します!【幼女化】スキルの発動は……)


 突然、頭の中に女性の声が響いた。


 その声に従って、俺は喉が潰れるほどの勢いで叫ぶ。


「イェスロリィタァァァァァァア!」




 ~ 数分後 ~


「……」※沈黙


「……」※沈黙


「……」※沈黙


 見上げれば、木々の間から青い空が見える。そこを悠々と雲が流れていく。


 ぼんやりと俺は考えていた。


 野郎に襲われる女の人が感じる恐怖って、とんでもねぇな……と。


 もう二度と、あんな思いをするのはゴメンこうむりたい。


 それどころか、他の誰であれそんな目に会うのも嫌だという気持ちが、俺の魂に刻まれた。


 この先の人生で、何であれ無理やりってのは、自分にも他人にも許せそうにないな。


 ゴブリンに襲われる美少女エルフや女騎士なんて、ただのエロネタでさえ今では吐きそうになる。


「ぐすっ……」


「うぇっ、うぇっ……」


「うわぁぁぁん!」


 周囲から聞こえてくる子供の泣き声で、俺の意識が引き戻される。3~6歳くらいの幼女が三人、それぞれ素っ裸のままで泣いていた。


 幼女たちの足元には、先程まで山賊が身に着けていた服や装備が落ちている。


「幼女に……なったのか……」


 大声で泣いている幼女の頭をそれぞれよしよしすると、幼女たちはすぐに落ち着いた。


 この状況……もし誰かに見られたら社会的に瞬殺されかねない。すぐになんとかせねば……。


 俺が立ち上がると、ちょうど頭を撫でていた幼女が俺の右腕にしがみついた。


 それを見た他の幼女も、俺の右腕と右足にがっしりとしがみついてくる。


「事案ですなwww」とニヤニヤ笑いするエンジェル・キモオタの顔が思い浮かぶ。


 そろそろ言い訳しておかないと、ナニカにBANされそうなのでハッキリ言っておくが、俺のリビドーは一切合切微動だにしていない。


 こいつらはただの子供であって、少女ですらない。


 俺がそう感じていることが嘘でないことについては、自身の身体反応が証明しているので確信を持って言えるのだ!


(そうやって、いちいち弁解しようとするから、余計に怪しく見えるのです)


視界の中にメッセージが表示され、頭の中に無機質で合成音声のような女性ボイスが響く。


≫ 盗賊Aを幼女化しました。残り時間 01:58:57

≫ 盗賊Bを幼女化しました。残り時間 01:58:55

≫ 盗賊Cを幼女化しました。残り時間 01:58:53

≫ EONポイントを210獲得しました。

≫ 続いて獲得可能アイテムをマークします。


 周囲に落ちている山賊の装備に▼の印と名称が表示される。


▼ 盗賊の短剣

▼ 銅貨6枚

▼ 山賊の皮鎧

▼ 山賊のズボン


……という感じで、他にも多くのものがマークされている。


「んっ? なんか点滅してる?」


▼ 山賊のシャツ(幼女の服!)

▼ 山賊のシャツ(幼女の服!)

▼ 山賊のシャツ(幼女に服!)


この3点がやたらとしつこく点滅していた


「なんで点滅……って、そうか、この子たちに服着せてやらないとな。」


 右足にしがみついている幼女が「これナニ?」と言いながら、俺のマンモス(見栄)に手を伸ばしかけていたその手を引いて、視界でマークされている山賊のシャツを回収して着せた。


 幼女たちは身体が小さいので、元々着ていたシャツをおっかぶせて紐で結べば山賊幼女のワンピースが出来上がる。


 他の二人にも同じようにワンピースを作って着せてあげた。


 うん、かわいいな。


 俺がそう褒めると、三人の幼女たちはくるくると回って見せてくれた。


 キャッキャッとお互いに手を取り合ってはしゃぐ様子に、俺の心はホワホワとなごむ。


 やっぱ子供っていいよな。


(ジィィィィィ……)


 うん? なんだろう、今すぐ警察に通報するぞという、強い意志を伴った視線を感じる。


(ジィィィィィ……)


 た……確かに子供に服を着せたとは言え、幼女に囲まれたフルチン男という構図は通報されても仕方ないか。


 俺はいそいそと山賊のズボンと皮鎧を回収して、身に着ける。


 サイズ的にはぶかぶかだったけど、調整すると一周廻っていい感じに仕上がった……気がしなくもない。


「さて……と」


 俺は自分の頭の中に、心の声で語りかける。


(はじめまして……えっとココロチンさんでいいのかな?)




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