12

 リビングの時計のデジタルがカチリとジャストの時間をしめしてお昼近くになっていたことに気づいた。

 それでも僕はそのまま動く気になれなくてその場で膝を抱えて固まっていた。

 こういう瞬間ってどう説明したらいいのだろうか。

 僕はずっとずっと何かに助けてもらいながらそれがさも当たり前のように生きてきていた。

 そして意地悪だと思っていた本人は、僕に表面上には意地悪をしてる振りをして、実は大きく僕を守ってくれていたんだ。


 どれくらい時間が経っただろうか。

 ふと喉の渇きに気づいて、僕は立ち上がった。ふと窓から外を見ると西の方が暗くなってきている。

 空が曇っていて、そのうちガラス窓に雨の粒がぽつぽつとつきはじめた。


「いつの間にか夕方になっちゃってたんだ……」

 僕はキッチンに立つとガラスのコップを取り出してお水をくんだ。

 一口口にしてふと顔を上げた時にトランプをしていた時の可憐の下着姿を思い出した。

 思ったよりすごいフリフリしていて可愛らしい下着に実はちょっと驚いた。

 どうせスポーツタイプの色気も何もない下着だろうと思っていたし、僕がまだ田舎にいる頃は本当にそんなもんだけだったから。


 雨……か……。


 僕の記憶はまたあの日に戻っていた。


「可憐ちゃん!」

 母ちゃんが家の勝手口で声を上げた。


 僕はその日は宿題を終えて夕飯を食べたあと自室の畳の部屋で漫画の本を読みながらくつろいでいた。

 いつもののんびりした母ちゃんが珍しく悲鳴に似た声を上げたので、僕はどうしたのだろうかと部屋から顔を出した。

 可憐はいつものように部活で遅くなったのだとばかり思っていた。

 母ちゃんがドタバタと落ち着きのない様子で廊下を走りぬけると、奥の部屋の寝室にあるタオルを何枚か取り出し、再び戻っていった。

 僕はなんだかいつもと様子が違う空気に気圧されたように台所に足が向く。

 そこには母ちゃんが必死で可憐の背中の部分をタオルで拭ったり、巻いたりしていた。


「大げさだよ、こんなん寝れば治るって」

「何バカなこと言ってるの、可憐ちゃん、これから隣村の病院行くから」

 

 病院……怪我してるのか姉ちゃん……。

 僕は母さんから替えのタオルを渡されて驚いた。

 物凄い血の量だ。

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