13

「守ちゃん、可憐ちゃんが怪我をしてるのっ今から隣の村のお医者さんに行ってくるわ」

「大げさだな、母ちゃん大丈夫だよ……」


 いつもよりどこか力のない声が薄暗い台所の隅から聞こえて、可憐の陰は少しだけ震えているように感じた。


「姉ちゃん大丈夫? どうしたの?」

「近づくなっ!」


 威嚇するような語気に僕は思わず身がすくんだ。僕はそれ以上彼女に近づけなかった。


 なんだよ、心配してやったのに。


 僕の家はじいちゃんの代から住んでる築40年以上もする平屋だった。

 家そのものは田舎だから広くて、隣の家までも距離があった。


 母ちゃんは着替えを持って、姉ちゃんと一緒に隣の村のお医者さんへ行った。


 その日の夜は僕は父ちゃんと二人きりで不安な夜を過ごした。

 母ちゃんから電話があって、その日は可憐が熱を出したらしい。

 そのまま村の小さな病院にお世話になることになって、その晩は母ちゃんも泊まることになった。



 翌日学校の教室に入り、机にカバンを置くと、早速何人かのクラスメイトが好奇心旺盛な顔をして近づいてきた。


「なぁ、守、お前のお姉ちゃん昨日なんかやらかしたらしいぜ」

「え?」


「誰かはわからないんだけどさ、この中学の連中と高校に進学した生徒数名とお前の姉ちゃんと決闘があったらしい」

「ほんとに?」

「で、今朝その事が問題になって、お前の姉ちゃんと身バレした数名の生徒が停学になったって、一週間謹慎処分だってよ」


「お前の姉ちゃんちょっと野蛮すぎじゃないか? そのうち警察にお世話にならなきゃいいけどな」

「……! いくらなんでもそんなことない!」


 今までだって決闘だって言っては飛び出して行った。

 僕にこんな恥かかせて、いい加減にしろよ、 あいつ何やってるんだ……!


 可憐はいつもと変わらない様子で学校から一目散に帰ってきた僕を笑顔で迎えた。


「へへへ、停学くらったわ」

「姉ちゃん! 何やってんだよ」

「別にお前が気にするような事じゃないよ」

「気にするよ、今日僕は学校で恥かいたんだよ、いい加減にしろよ!」

「……守」

「決闘マニアかなんか知らないけど、母ちゃんや父ちゃん悲しませるなよ! 前から乱暴者だと思ってたけど、ほんと最低だな!」


 僕はその時ほど可憐に嫌悪感を覚えたことはなかった。


「わかったよ、もう決闘は止める……」

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