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馴れ馴れしく話しかけてくる男達に可憐は怪訝そうな顔をする。
その頃はまだ可憐は合気道を習って一年くらいだったけど、睨みつける眼力が怖かったのか、学生たちは最初から可憐というよりもひ弱そうな僕に目をつけていたようだった。
「ね、僕。女の子みたいだね。ちょっとお兄さんたちとそこの草陰で遊んでかない?」
僕は意味不明だった。
どうして見ず知らずの大きなお兄さん達と遊ばなくてはならないのだろうかと。
嫌がる僕の腕を大きな手が掴み、何故か大きな手が僕のお尻を撫でてくる。
僕は得体のしれない恐怖に怖くて泣きそうになった。
「あんたたち。相手ならあたしがするよ」
僕の腕から奴らの腕を引きはがし、僕とそのお兄さんの間に割って入るように可憐が立ち尽くした。
僕に茶畑に戻れ、そして両親を呼んで来いと耳打ちする。
今きた道を走って行けと促す。後ろを決して振り返るなと……。
僕はすっかり怖くなって、でもお姉ちゃんも助けなきゃ、お父さんとお母さんを呼ばなきゃと思い走り出した。
茶畑までどうやって戻ったのか覚えていない。
けれど、得体のしれない不安と恐怖で一杯になった僕は、気持ちをうまく表現できずにただ泣きじゃくっていた。
状況を察した両親が直ぐに可憐の元へ行くと言うと、他の茶畑で働いていたおじさんおばさんまで共に桑を持って向かってくれた。
けれど、道の途中で可憐の姿を見つけた僕らは彼女の姿に唖然としてしまった。
顔に煤が付いた状態で、少しだけ服が土で薄汚れていて、膝も擦りむいていたけど。
可憐は仁王立ちで堂々として、向こうに逃げていく人中学生たちが見えたそうだ。
それ以来僕の周りであの日のような怖いことが起こらなくなった。
可憐が隣の村の年上の男連中を蹴散らしたという話は、狭い田舎の中であっという間に広がったからだと僕は思った。
隆二の話ではあの時僕がいない間にこんな会話が展開されていたらしい。
それは僕が中学、高校の頃の話だそうだ。
「あたしがいなきゃあいつ絶対誰かに襲われてたわ、男でも女でも狙ってた奴いたし」
可憐は何かを思い出したように空を睨んでいたそうだ。
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