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「君がいない間に彼女から聞いたんだ。僕は彼女ほど君を命懸けで守れるかどうか……僕はそれを聞いて相当覚悟が必要だと思った」


 僕はなんの話なのかわからなかった。


「お姉さんの背中の傷の話はお姉さんの心の中にだけに留めておきたかったみたいだけど、それだと君が先に行けない気がして、僕は言うべきだと言ったんだ。出過ぎた真似だと思ってはいる。そうしたら君のお姉さんは僕の口から君にいつでも伝えていいって、僕に話してくれた」

「え?」

 隆二さんはソファを軽く座り直し、少しだけ言うことを頭の中で整理しているようだ。



「君のお姉さんのあの背中の傷は君を守る為に受けた傷なんだよ」


 隆二の口から出た言葉は、僕にとっては重くて、頭の中を真っ白にするには十分だった。


「当時、高校生の頃、君あての手紙にその……一部だけど、性的な嫌がらせの手紙が何枚かあったそうだ。それを君のお姉さんは見つけるとすぐに相手を割り出して一人一人説得したり、あるときは決闘になった事もあったそうだ」


 僕は思わず息を呑む。

 今までずっと可憐が格闘好きのマニアであちこちの決闘相手を探して勝負を挑んでいるのだとばかり思ってたから。


 隆二さんの話を聞きながら僕は当時の自分と田舎街に思いを馳せる。





 段々茶畑はとても横に長く長く、僕らは両親働いている畑で遊んでいた。

 まだ小さかった僕はすぐに隠れられて、その当時からもう既に体の大きかった可憐は僕を探すのに少し手間取っていた。

 僕は茶葉と茶葉の間の隙間に隠れて右往左往する彼女の足を見て両手で口を抑えながら笑いをこらえていた。


 よく隠れんぼしたよなぁ。

 

 親戚が一同揃い茶摘みをしている横で、僕は一番茶の葉を青々とつけた小枝を左手に持ちかざしてみた。

 透き通るような瑞々しい色の葉をどうしても欲しいというワガママを言ってしまった。母親が笑顔でくれたのだ。

 両親はまだ仕事があるようなので僕らは先に帰ることになった。

 家にはばぁちゃんがいるはずだ。

 二人で家に戻るまでの畦道を時折ふざけながら歩いていた。

 茶摘みは年に二、三回、今度の収穫時期は六月半ば。

 恋地蔵の祠を過ぎた辺りで、目の前に知らない学生服の人が現れて僕らは囲まれた。

 男は訝しんで見上げる可憐の顔より何故か僕の顔を見ていた。


「こんにちは、キミ達二人?」

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