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 僕らの会話を聞きつつも、口元に手を置いて思考を巡らせた隆二はなにか察したらしい。


「妹がいつもお世話になってます」


 と僕らの会話にまるで芝居のように入ってきた。その辺は自然にできるのが職業柄というか見事だった。


「あの、隆二、もとい、お義兄さんっ、そのっ今日僕の姉がここに泊まりたいと言っていまして、あ、でも、家を探すまでの間なのですぐに出ていくとは思いますっ」

「そうですか。わかりました」


 そっと隆二が僕の耳に顔を近づけて小声で言う。


「鍵、鍵だけ、中から取ってきてくれ、たぶんリビングのテーブルの上にあると思う」

「わ、わかった」


 僕はそのまま部屋の鍵を開ける。


「妹がちょっと友達と海外旅行に出てまして、僕が代わりにと思ったのですが、お姉さんがいらっしゃるのなら僕はここで」


 隆二はその場を去ろうとしたが、あろう事か可憐が引き止めにかかった。


「えっ、えっ、お義兄さん、そういうことなら私は一向に構いません、そのっ、お義兄さんとそのっ、別のお部屋なら全く構いません」


 柄にもなく、きゃー恥ずかしっという感じに顔を上気させている。

 片手で顔を覆うがもう一方の腕が隆二の腕をがっちり掴んで離さない。

 背は隆二の方が高い。そこがまた可憐のストライクゾーンだったようだ。

 彼女の身長だとなかなか自分より背の高い男がいない。身長が177cmもあるからだ。


「こらっ、可憐、無理に引き止めたらっ」

「いいえ、そういうことなら構いませんよ」


 ニッコリと笑顔を可憐に向ける隆二もちょっと額に汗をかいているように見える。


「いいですって、こいつ甘やかすと調子に乗るから」


 隆二は強く握ってる可憐の手をそっと一指づつ引き剥がすと、僕を廊下の隅に連れてった。

 可憐はそのまま両手で顔を隠してまだ真っ赤な顔をしている。それを尻目に僕らはこっそりと作戦会議に突入した。


「そういう問題じゃないことに気づいた」

「えっ」

「お姉さんを今夜どこに寝かせるかなんだが」

「うん」

「とにかくあんまり部屋の中見られると色々とバレるかもしれないから、お姉さんをちょっとだけ外に待たせてる間に、うん、そうだな。僕が惹きつけておくから、お前がヤバそうなのとか隠してくれないか。特にベッドルーム周辺」

「うん、わ、わかった」

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