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「あーそのっ、こ、こいつは……」


 言いかけた瞬間僕はふっと腕を捕まれ遠心力ですごい勢いで飛ばされると、壁といつの間にか仲良しになりチューをしていた。


「は、初めましてっそのっ、守とお付き合いしている彼女のお兄さんでいらっしゃいますか? あのっ、私は守の姉の春原可憐と申します。いつも妹さんにお世話になっております」


 っておいっ。


 一瞬のことで僕は頬に壁のゴツゴツの跡をつけながら可憐を睨みつけた。

 可憐は全く似合わずに顔を上気させ、事もあろうに目をハートにさせている。


 うわっ。これはマズイ。危険だ。


 可憐は突然カバンを取り出し、長い和紙を取り出した。床に紺色の毛氈を広げてそこに和紙を置く。

 硯に即座に墨汁をたらし、まるで似合わない。恥ずかしそうな振る舞いをしつつ筆で何やら書き綴ると、すぐにそれを封筒に入れ、隆二に押し付けた。


「なんですかこれ……」


 隆二が紙を広げて見る。僕もさりげなく覗き込んだ。

 そこには決闘状と書かれてある。隆二が怪訝そうな顔をした。


 決闘状を渡した可憐は背を向けてコンクリートの壁に恥ずかしそうにののじを指で掘っていた。

 可憐にターゲットにされるそれは=決闘だ。

 可憐は自分より強い男を求めているので一目で隆二に惚れたらしい。


「っておいっ、何してんだよ!」

「ごめん、守。お前の義理のお兄さんになるかもしれない人なのに。こんな試練を与えてしまって……」


 遠い目をして可憐は空を見上げた。



「守、これはどういう……」


 僕は口パク状態で隆二に平謝りした。


「やめろっての。隆二は関係ないから、大体彼は恋人がいるんだしっ!」

「えっ……」


 振り返った可憐はあからさまにショックな顔をしている。


「そ、そうよね……こんな素敵な人に彼女がいないわけないわね。ごめんなさいっ、お義兄さんっ。でも、そのお付き合いしている人が羨ましいわ。今私、その人と決闘したい気分です」


 僕は背中がゾクリとし顔面蒼白になった。僕はしたくない。断じて決闘などしたくない。秒速で負ける。というか命の補償がない。

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