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ああ、どうか隆二が家に帰ってきてませんように、帰ってきてても、そっと彼に今日はホテルに泊まってくださいとお願いしよう。そして明日速攻不動産屋に可憐を行かせてその日のうちに契約させるんだ。
うん、それならバレないバレない。
僕はポケットに鎖でくくりつけてある合鍵を握り締めながら、どうかまだ家に隆二がいませんようにと祈りつつ最上階へのエレベーターに可憐と乗った。
家の玄関前にきて僕は息が止まりそうになった。
マンションの外周に何本か置かれた桜の木を、廊下の外壁の上に両肘を乗せながら見下ろしている美麗な青年がいる。
まだ若干肌寒い春先に着るチャコールのメルトンPコートに下は黒のスキニーブーツカットのパンツと革靴を穿いている。
今日の隆二はとてもカジュアルな格好で、散る桜の花びらを遠くに眺めていた。
時折吹く風に柔らかなくせっ毛がふわりとなびいていた。
堀は深いけれど濃すぎず、相変わらず美術品を眺めるような美しい肌造形をしている。それは美麗な横顔だけでなく彼を形作る全てが神がかっている。
風に煽られ巻き上げる中に紛れ込んだ桜の花びらを、そっと指の長い綺麗な手のひらの上に置き、それをぼんやりと眺めていた。
さりげない仕草なのに、胸の奥がきゅっと締め付けられるように苦しくなる。毎日一緒にいるのに。
まだ僕は彼と再会する度に動悸がおかしなことになっちゃうんだ。
僕と可憐の存在に気づいた隆二は、真っ先に僕に視線を流すと、少しだけ怒ったような視線を流す。
「守、あれだけ連絡したのに、なんで返事をよこさないんだ。今日は早く帰るって、でも鍵を忘れたからどうしたらいいかってメールしただろ?」
「えっ、あっ、ご、ごめんっ」
僕はその時になって慌てて持たされていた携帯を取り出した。うわー。もうメールが5通溜まっていた。
僕はすぐさま謝りに隆二に駆け寄った。
「ごめん、結構待った?」
「いや、コンビニで時間潰したりしてたから、大丈夫だけどさ」
左手にはコーヒーの缶が握られていた。
「ところで、守その方は?」
隆二は僕の背後に視線を向ける。僕はたらりと背中に汗を滲ませた。
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