第三章 可憐と僕と隆二
1
「空良くん、どうして?」
僕がげっそりとした顔で運転中の空良くんの顔を見ると、彼は額に汗をたらし苦笑いをした。
「す、すみませんっ、守さんのお姉さんと伺っていて、これから守さんお仕事あるんですけどおことわりはしたのですが、構わないということだったので」
「僕は構うんだけどっ」
小声で涙目で空良くんに訴える。
「すっ、すみませんっ」
空良くんはやっちゃったという顔で信号で車が止まった時に、何度も僕に申し訳ないというアイコンタクトを送ってきた。
道路の街路樹は桜が満開で眩しいくらいふっくらと咲き誇っていた。まるで綿あめみたいに甘そうに見える。
咲き乱れ今にもこぼれ落ちそうに小さな花びらが時折吹く風にこぼれ落ちるように降っている。
「この後の仕事も同席するのっ、この人は?」
こっそりと話したつもりでも、昔から地獄耳の姉には筒抜けで。
「お前の仕事の邪魔なんてする気ないよ。車で待ってるからさ」
と言いつつ、ボストンバッグから付箋だらけの合気道の指導本を取り出して眺め始めた。
その後僕は雑誌のインタビューを初めて受けた。可憐がその場にいなくて本当に良かった。内容がこの間のBLドラマについて、原作者の方と対談をするというものだったからだ。
原作者の方は夢彩(いぶき)はるかという女性で、年は恐らく30代後半位の方なのだろう。その世界では中堅の方らしい。
スーツが似合うキャリアウーマンっぽさを滲ませつつも、こんな格好するのは久しぶりだと笑う。もともと雑誌の編集をしていた方で、投稿も続けているうちに作家になったそうだ。
家ではすごく適当な格好をしているのよ。と目尻を下げて笑った。
対談の休みの間に彼女は微笑みながら僕に気さくに話しかけてきてくれた。
「大変だったでしょう?」
「え、何がですか?」
彼女はキョロキョロと辺りを気にしながら僕にこっそりと耳打ちする。
「役者さんってほんと凄いと毎回感謝しています。ボーイズラブなんて緊張したでしょ?」
「いえいえいえ」
僕は緊張しながらも微笑みながら首を横に振った。これは社交辞令なんかじゃない。
このドラマがあったおかげで僕は自分を取り戻せたし、いい事が沢山あった。
こうして俳優として一歩でも進むことができたのも、こういうお話を書いてくれた先生のおかげだからだ。
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