10
寿司屋から盗んできたようなでかい湯のみを片手で掴んで、豪快に飲み干すと、可憐はオヤジみたいにはーっと息をついた。
相変わらずの食いっぷりだ。お弁当には米粒が一つもついてない。
元気にかっこむ割には変に行儀がよかったりする。そう言えば僕のお弁当も残してきた事がなかったっけ。
……あの日以外は。
帰り、僕はなんとか可憐の目を盗んで逃げ出せないかと思案していた。可憐の姿が見えないので、いまのうちとばかり空良くんの待つ駐車場へ向かい、辺りを見回し誰もいないことに安堵して車に乗り込む。
「守さん、どうしたんですか? そんな慌てなくても大丈夫ですよ」
車の助手席に座って息を整えつつ、ため息をつくと、空良くんが微笑みながらのんきな顔でクリアファイルの中の予定表にボールペンでチェックを入れていた。
「いや、ちょっとね。煙に巻きたい奴がいて、いなくなったのを見計らってきたんだ」
「えっ、そうなんですか? だ、大丈夫ですか?」
空良くんがボールペンを胸のポケットに差しながら焦って周囲を見渡したので、僕は手のひらを胸に当てて視線を送った。
「大丈夫、大丈夫。見つからないように来たよ、今夜僕の家に泊めてくれって強引に言うもんだからさ、参ったよ」
「なんで参るんだ?」
「そりゃ、僕のプライベートはそいつには絶対知られたくないもん」
質問してきた声が明らかに違うのは、僕が苦い顔をして背後に座っている奴の気配を察知したときだった。
しかし、時既に遅し。思わず緊張してカチコチになった体は、油を差し忘れたアンドロイドのようなぎこちない動きで、ゆっくりと背後を振りかえる。再び戦慄が走った。
「か、可憐~?!」
車の後部座席には荷物をまとめてとっくに私服に着替えていた可憐が、大きなボストンバッグと共にどっかりと腰掛けていた。
もちろん視線は地獄にいる閻魔大王並に炎の様に燃えた、怒りに満ち満ちていらっしゃる。
ああ、もう最悪だ。
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