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「うおーやったな、綺麗なんだな。お前にしては凄いな! じゃ、可愛い弟の綺麗な彼女のお邪魔にならない程度に、隅っこに泊めて!」
ちょっ、どっちみち泊まる気満々。というかその選択肢しか用意してないだろ?
困った。本当に困った。
僕は会議室でお弁当を嬉しそうに食べる姉を目の前になんとかここから逃げ出せないかと画策をしていた。
あの後、可憐にお弁当が配られて、僕は退場しようとしたのだけど、七瀬さんが食べるはずだったお弁当を彼女が機転を効かせて自分の分を僕にくれたのだそうだ。兄弟で積もる話もあるだろうからってのがお弁当を支給してくれた西映の人の話だ。
七瀬さんは他の誰かからかに僕らが兄弟だと教えてもらったようだ。
積もり積もった憎しみはあるけど、こんな大女と話なんてないんだけどな。
はぁー隆二今頃何してるんだろうなぁ。
新作のドラマ撮影かな。なんでも有名な女優さんと俳優さんの間に割って入る恋敵役なんだそうだ。僕と立ち位置は似てるけど、全然違う。
僕は完全に当て馬だけど、その放送が始まってから、主役の人よりも隆二の方に視聴者の興味が行ってしまっているのだと言うし。
当初よりも出番が増えてしまったらしい。脚本まで変わっちゃうんじゃないだろうかという位の勢いだ。
僕も確かに見ていてどうしても隆二の方に意識が向いてしまう。
というか当て馬にしては格好良すぎて、情が主人公よりもあるものだから、顔だけでなく気持ちまで持って行かれそうなんだ。
この脚本書いてる人はきっと隆二を気に入ってるに違いない。
というか主役がなんか今ひとつなんだ。どうしてこの人が? と自分のことは大きく棚に上げてしまっている。
海倉監督情報だと、ベテラン俳優の息子なのだそうだ。親の七光りで出ている役者さんでもちゃんと演技できて自分がある人は沢山いるんだけど、あまりに大物すぎるのも考えものらしい。
僕はその辺よくわからないから、聞き流すしかなかった。
「お前食べないの? お昼終わったらまた続きやるんだよ?」
割り箸の先で僕のお弁当を指す。
「……食欲ないんだよ」
「飯作るの好きなくせに、相変わらず少食なんだよなぁお前。で、糖分控えめーの自作プリンばっか食ってる」
「うるさい」
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