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 ああっ、そうだった。そういえばまだ実家に新しい住所教えてなかった。


「今どこに住んでるんだよ、帰りに案内しな」

「えっ、それはちょっと」


 僕が縮こまったように声を次第にすぼめていくと、可憐は僕を針を刺すような視線で一瞬ギロリと睨んだ。


「なんだよそれ、お前ちょっとさっきからコソコソ挙動不審だぞ」

「そんなことないよ。て、てかさ、お昼っ食べないと午後の撮影がっ!」


 お昼なんてどうでもいいという風体で可憐は僕の前に再び仁王立ちした。


「お前、今日見学なんだろ? さっき聞いたよ。あたしは出演者の名前とか全部知ってるんだ。隠れようとしたってバレてるっての。で? 芸能活動できるくらいにはなったんだな」

「いやーまだこれがスタートで、うん」

「これが初めての仕事なのか?」

「あーーうん」


 言えない。まさかその前にボーイズラブドラマ撮ってました~なんて陽気に言えない。

 しかも男の人に食べられちゃいましたーえへ、とか言ったらどんな態度になるかと考えただけで身が竦む。

 全身が総毛立つほどの恐怖。

 僕だけならいいけど、大事な人にまで危害を与えたくないっ。


「全く。とにかく帰りついて行くからな。今朝の始発で東京に出てきてさ、本格的に住む場所あたしも探さないとなんないからさ、その間とりあえずお前んち泊めてよ」

「泊めっ?!」


 素っ頓狂な声を出す僕に更に黒い氷のような視線を僕に向ける。やばいなんかお気に触ったようで、段々イライラしてきてる。


「んだよ、いいから泊めろよ」

「あーーでもそのっ、僕の家じゃないもんで、そのっ」

「はぁ? あっ!」


 突然の可憐の叫びに僕はビクッと体が反応する。


「わかったー! こいつーまさかまさかの、彼女と同棲してるな?」


 可憐の顔が興味津々で今まで睨みつけていたのが嘘のような柔らかな視線を向ける。ちょっと、いやかなり気色悪い。目が宝石のように瞬いている。


「あーうーまぁーそのっ、うん。そ、そんなもんなんで。だから無理なんだよ、はは」


 こうなったら、お前はダメなんだよ、わかるよな? 空気読めよな? という態度に出るしかない。


「ばーか。それもっと早く言えよ。可愛い子なのか?」

「あーはぁーまぁ、そのっ、綺麗な人で」

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