8
ああっ、そうだった。そういえばまだ実家に新しい住所教えてなかった。
「今どこに住んでるんだよ、帰りに案内しな」
「えっ、それはちょっと」
僕が縮こまったように声を次第にすぼめていくと、可憐は僕を針を刺すような視線で一瞬ギロリと睨んだ。
「なんだよそれ、お前ちょっとさっきからコソコソ挙動不審だぞ」
「そんなことないよ。て、てかさ、お昼っ食べないと午後の撮影がっ!」
お昼なんてどうでもいいという風体で可憐は僕の前に再び仁王立ちした。
「お前、今日見学なんだろ? さっき聞いたよ。あたしは出演者の名前とか全部知ってるんだ。隠れようとしたってバレてるっての。で? 芸能活動できるくらいにはなったんだな」
「いやーまだこれがスタートで、うん」
「これが初めての仕事なのか?」
「あーーうん」
言えない。まさかその前にボーイズラブドラマ撮ってました~なんて陽気に言えない。
しかも男の人に食べられちゃいましたーえへ、とか言ったらどんな態度になるかと考えただけで身が竦む。
全身が総毛立つほどの恐怖。
僕だけならいいけど、大事な人にまで危害を与えたくないっ。
「全く。とにかく帰りついて行くからな。今朝の始発で東京に出てきてさ、本格的に住む場所あたしも探さないとなんないからさ、その間とりあえずお前んち泊めてよ」
「泊めっ?!」
素っ頓狂な声を出す僕に更に黒い氷のような視線を僕に向ける。やばいなんかお気に触ったようで、段々イライラしてきてる。
「んだよ、いいから泊めろよ」
「あーーでもそのっ、僕の家じゃないもんで、そのっ」
「はぁ? あっ!」
突然の可憐の叫びに僕はビクッと体が反応する。
「わかったー! こいつーまさかまさかの、彼女と同棲してるな?」
可憐の顔が興味津々で今まで睨みつけていたのが嘘のような柔らかな視線を向ける。ちょっと、いやかなり気色悪い。目が宝石のように瞬いている。
「あーうーまぁーそのっ、うん。そ、そんなもんなんで。だから無理なんだよ、はは」
こうなったら、お前はダメなんだよ、わかるよな? 空気読めよな? という態度に出るしかない。
「ばーか。それもっと早く言えよ。可愛い子なのか?」
「あーはぁーまぁ、そのっ、綺麗な人で」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます