7
そのまま部屋を真っ先に出ていこうとしたが、そんな僕の行動を先読みしていたのか、ドアの前で彼女は彰人くん達を柔らかな微笑みで見送っていた。
出口を塞がれた僕は窓はないかとキョロキョロしたが、ここは地下一階なので当然ない。通風孔でもいいからないかとあちこちを探しまくったが人が入れるような大きさのものはなかった。モグラでもないのに思わず壁を掘る仕草までする。
「春原さん、お昼行きましょう」
七瀬さんがドアから顔を出して天使のような声で僕を呼んでいる。天からの使いだ。僕はそのまま「はーい」と元気よく返事をしてさりげなく出口から出ていこうとしたが、それを大きな長い足が門のかんぬきの如く遮った。
「あーすみません、ちょっとこの方とお話があるので先に行っていてくださいー」
いつもよりもワントーン高い愛想の良い声でその大女が七瀬さんに告げると、妙に聞き分けよく彼女はうなづいて行ってしまった。
ドアを閉じられ鍵までご丁寧にかけられた。彼女はドアに背を向け振り返ると仁王立ちする。その姿がまるで地響きを纏ってるような気がして、僕はさながら中ボスに会わずにラスボスに遭遇し、まだこん棒と旅人の服しか着てないヒットポイント10位の哀れな冒険者のようだった。ああ、せめて洞窟から抜け出す呪文を体得してからラスボスに逢えばよかった。
「守、久しぶりだな」
「ううっ」
「ううっじゃねぇよ。お前、どこで何してたんだ。専門学校は?」
いきなり地に戻る彼女。顔つきがさっきと全然違う。もう完全に仁王像のようだ。あ、うんを一人二役で軽くこなせそう。
「そ、卒業したよ、だから今ここにいるんだろ」
かわいそうな旅人の僕と対峙している大女はもう読者の人にはとっくに悟られていると思うけど、春原可憐。そう僕の兄、もとい、姉だ。
顔つきからもっと凄まじく怒鳴られるかと思ったけど、案外可憐は声は普通の態度だ。恐らくドアの外のシャバに気を使ってるんだろう。なんていう計算高い女。
閉じたドアの前に腕を組みながら立ち尽くす姿は、これから道場破りでもするような勇敢な豪腕にも見える。
可憐ははーっと下を向くと重くため息を漏らした。
「お前さ、100歩譲ってあたしはいいとしてちゃんと親に連絡してるのか? 前のアパートにはもういないみたいだし、仕送り返ってきたって母さん心配してたぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます