3
ニッコリと悪びれた様子もなく微笑んでくれたものの、リアルでも恋人ですなんてとても言えるような状況ではないことは空気で察した。
……言うつもりもないけれど。
最寄りの階数に止まると早速スタジオ内に案内された。その辺は前の経験でどんな現場かは大体予想がついた。すべての機材が真新しい最新式であることを除いては。
「うっわ……」
前のところよりもだいぶ広くて綺麗なスタジオ内、一つ一つが新しい匂いがする。人も多くいるけれど、どの人影も身じろぎせず息を潜めているようだ。みんなが同じ方向を向いている先にセットが見える。
室内はどこかアンティーク風な喫茶店のようだった。そこで数人のスタッフのカメラや音声に囲まれた男女が様々な会話を展開させている。
今は本番中ねと七瀬さんは僕にジェスチャーで告げる。僕は思わず手を口に持っていき押し黙った。
場面は中央にいる黒髪の青年が少し活発そうな女の子とのやり取りをしていた。先ほど台本で読んでいたけど、アンティークカフェ Rainbow egg にてというシーンがあったので、ここで僕が合流するシーンを撮影するんだと思った。
カフェにお客さんとして来た元華族の役が僕なんだけど、うーん。上品に振る舞えるかな。
そしてそこに今撮影真っ最中の男性二人と女性一人の演技が熱が入っていてちょっとこれもまた違った雰囲気だった。僕が感じた印象では前のドラマ撮影よりより舞台に近いイメージがした。
まぁ子供向け番組だから、セリフもわかりやすくという演出なのだろう。
一番目立つ前にいる青年は声の張りが良くて、仕草も少しオーバーアクション気味だ。でもその一つ一つの仕草がまるで計算されたように格好良い。たぶん自分がカメラにどう映るのか普段から研究しているのかな。隆二さんみたいに。
隆二さんはどの角度から見ても格好良いと思う。普段適当な格好しているつもりでも、軽くシャツを引っ掛けてボタンも嵌めずにだらしなくしていても、それだけで僕はドキドキしてしまう。
もう普段から自分を演出する術をどこかでわかっているんじゃないだろうかと思うほどに。
この青年も自分の魅せ方をわかっているみたいだ。
僕もその影響でどうやったら自分が上手く魅せれるか鏡の前でやってみるんだけど、隆二さんに、その仕草可愛いって、言われるだけで少しも格好いい感じにならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます