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そこで、備え付けのポットで空良くんが入れてくれたお茶を飲む。
少しだけ気持ちが落ち着いてきた。しばらくしてドアをノックする音が聞こえる。
入ってきた人は女性で、長い髪の毛を一つに束ねていた。スタッフが着ているらしき会社のロゴ入りのオレンジのパーカーに、下はジーンズとラフな格好。
僕はふと以前ドラマでお世話になったスタッフの一人、千夏さんを思い出す。活発そうなそれでいて体にメリハリのある女性だった。
空良くんがそそくさと立ち上がり、その女の人のところへ挨拶に行く。僕も続いた。
「僕は春原守のマネージャーの絹美空良と申します」
お互いに名刺を交換し合って挨拶をしている。すぐに彼女は僕の方に視線を向けた。
「初めまして、春原守さん。「カメレオンライダー」の助監督の七瀬みつきです」
はつらつとした声で髪の短い彼女が僕に微笑みかけた。空良くんの紹介で僕はその女性に頭を下げる。
「よ、よろしくお願いしますっ」
「まず、何よりも現場を見るのが大事。このビルの5階の第7スタジオで今、室内撮影中です。また、アクションの演技指導もありますので、見学がてら出演者に挨拶に行きましょう」
僕らは七瀬さんについて行く。エレベーターホールに出るとすぐに彼女はエレベーターのボタンを押した。
階数を教えてくれる表示板の点滅を何気なく僕らは眺めていた。
扉が開くとすぐに僕らは乗り込む。
「春原さんはドラマ撮影経験はあの作品が初めてだったそうですね?」
「あ、はいっ」
「観ましたよ」
七瀬さんがにっこりと微笑みながら僕を見る。
僕のドラマは隆二さんと撮ったボーイズラブドラマしかないから、僕は「ありがとうございます」と言いながらも少し恥ずかしさで焦ってしまった。
「私滝川隆二さんの大ファンなんですよ。私だけでなく羨ましいと思った人は沢山いたと思うわよ、あなたラッキーですね」
隆二さんの事を話されて、思わず自分のことを言われるよりも、心臓がトクトクと早く波打ち、緊張してしまった。しまいには飛び出すんじゃないかってくらい。
そうか、たぶんここだけでなく、彼は知らないところでこんな風に噂されているんだ。
「あなた素敵な恋人役だったから、きっと沢山の滝川さんのファンの人から嫉妬されてると思うわよ」
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