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「だ、大丈夫ですっ」


 互いの額が赤くなってきた。

 空良くんは慌てて給湯室に入ると、なにやら中でガタガタと椅子を持ってきて、上にある戸棚らしき所を開けた。

 降りるときに手に白いタオルを持っていて、それを水で濡らして絞ると、こちらに再び現れた。

 僕の額に背伸びしてタオルを当てる。ひんやりと冷たくて気持ちよかった。


「すみませんっ、大事なお顔なのにっ」


 空良くんは顔を真っ赤にさせ、今にも泣きそうな目で僕を見た。


「いやっ、そんな、大丈夫だよっ」


 僕はしばらく空良くんにタオルを当てられたまま立っていた。


「何してるの?」


 目の前に桐香くんと女性のマネージャーさんらしき人がキョトンとした顔で僕らを見つめている。


 桐香くんのマネージャーらしき女性が微笑んだ。


「あなたが、春原守さんね、初めまして。高岡愛です」


 微笑みながらすっと淀みなく名刺を差し出してくれた。慣れた手つきだ。

 フランクに話しかけてくれる彼女に僕は好印象を持った。


「絹美くんはね、新人マネージャーさんなのよ、今年の春に入ったばかりで、しばらくマネージャー補佐で研修してたのだけど、実はあなたが初めて付くマネージャーなの」

「そうだったんですね」

「まだ不慣れな事多いけど、彼をよろしくね」


 彼女はマネージャー業も中堅なのか慣れた口調で、この若干緊張気味の空良くんの背中を押すように僕に紹介してくれた。


 桐香くんたちが出払うと、部屋には僕たちだけになった。


「ええとですね、今後のスケジュールについてなのですが」


 僕は窓際の机だった。そこで、今日から僕のマネージャーになってくれた空良くんが早速僕のスケジュールを広げて見せてくれた。


 よく見ると最初潤んでいたと思っていた瞳はどうやら寝不足と関係があるみたいだ。

 夕べ随分調整してスケジュール管理表を作成したのだろう。

 かなり綿密に計画が書き込まれてある。


 僕はなんかそれだけでありがたい気持ちでいっぱいになって胸が熱くなった。

 彼は髪が短く、少し髪に癖がある。色も赤毛に近い。くせっ毛を見ると僕はつい隆二を思い出す。


 昨夜のベッドでの出来事を思わず反芻してしまっていた。

 ああっ、いけない、いけない。

 今日から仕事なんだからちゃんと気合入れないと!


 僕は心の姿勢を正した。

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